院内集会「刑訴法等改悪一括法案の論戦から見る ~国会は、今!~ 政財界も狙われる司法取引」(音楽家・作家 八木啓代)

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院内集会「刑訴法等改悪一括法案の論戦から見る ~国会は、今!~ 政財界も狙われる司法取引」(音楽家・作家 八木啓代)

今回は八木啓代さんのブログ『八木啓代のひとりごと』からご寄稿いただきました。
※この記事は2015年07月29日に書かれたものです。

院内集会「刑訴法等改悪一括法案の論戦から見る ~国会は、今!~ 政財界も狙われる司法取引」(音楽家・作家 八木啓代)

自分のライブなどが重なってしまったので、またまた少し遅くなったが、7月23日に衆議院第二議員会館で、「盗聴・密告・冤罪NO !」院内集会「刑訴法等改悪一括法案の論戦から見るー国会は、今!ー政財界も狙われる司法取引」という集会が開かれたので、ごく簡略に、そのレポートをお届けする。

戦争法案とも呼ばれている「自衛隊の海外活動拡大を図る安全保障関連法案」の議論が参議院で始まったこともあって、世論の関心がそちらに集まっており、それはそれでたいへん重大な問題なのだが、一方で、どさくさまぎれに刑事訴訟法が改悪されようとしているのは、まったくトンでもない話なのだ。

というのも、本来、刑事訴訟法の改正というテーマは、2010年の大阪地検特捜部証拠改ざん事件という検察の大スキャンダルを受けて、「検察の在り方検討会議」が設置され、さらに、その後、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」によって議論されてきたものだった。

それなのに、東日本大震災の混乱の中で、「検察の在り方検討会議」は尻すぼみに終了し、そのあとの法制審議会で、むしろ、検察権力が焼け太りになる形で提案されたのが、今問題になっている刑事訴訟法改正案*1だからである。

*1:「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」 『法務省』
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji14_00103.html

この刑事訴訟法改正の、なにが問題なのか。

一言でいうと、「検察の在り方検討会議」で、最低限、実現しようとしていた取調べの全面可視化が、全刑事事件の3%にも満たない裁判員裁判対象事件だけに限定されているうえ、「被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき」は録音録画しなくてもいいという、「条件付き実現」になってしまったということだ。

つまり、取調べ側が、恣意的に、「記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができない」と判断することで、録音録画を行うかどうかを決めることができてしまうという、それはもう、とんでもない抜け穴ができてしまったのである。
そうです。誰でもわかるように、「都合の良いところだけ録画して、都合の悪いところは録画しない」ことができちゃうわけです。なにそれ。

さらに、(抜け穴つきであることを棚に上げて)「取調べ可視化」を行うのだから、捜査権限も拡大するべきと称して、司法取引と盗聴が、事実上、無制限に可能になってしまうというのが、今回の法改正のキモである。で、その司法取引と盗聴が、なぜ、どう問題なのか。それが、この日の院内集会のテーマだったのである。

というわけで、院内集会。

まず、先日、名古屋地裁で、贈収賄事件の無罪判決を受けたばかりの美濃加茂市藤井浩人市長。(ただし、検察が控訴したため、裁判は続いている)。
若い。(31歳だもんね)
藤井市長は、まったく身に覚えのない、現金30万円を2回受け取ったという収賄で起訴された。
そして、市長に賄賂を送ったとされる浄水設備会社社長は、別件の詐欺事件で、4億円近くにも上る悪質な融資詐欺を自白していながら、そのうち、わずか2100万円の事実だけしか立件・起訴されていない。その見返りとして、裏で事実上の司法取引が行われ(筆者註:「バッジ」と呼ばれる政治家ネタを立件すると、検察内では「大手柄」であるらしい)、設備会社社長が、自分の詐欺事件の立件・起訴を逃れるために、架空の贈賄を自白した可能性が濃厚なのである。

設備会社社長が「そのような人物であることを見抜けなかった」という自戒を込めつつ、藤井市長は、同社長が、公判で一切目を合わせず、一ヶ月も及ぶ証人テスト(検察官が、検察側証人相手に行う尋問の練習)で綿密に暗記したとしか思えない証言をおこなったことなどを具体的に語った。
(この一連の設備会社社長の証言は、名古屋地裁でも、「不自然」とばっさり切られてしまったものだ)

続いて、1986年の「福井・女子中学生殺人事件*2」の被告、前川彰司さんと吉村悟弁護士。

*2:「福井女子中学生殺人事件」 『wikipedia』
https://ja.wikipedia.org/wiki/福井女子中学生殺人事件

この事件は、女子中学生が自宅で惨殺された事件で、明らかに複数によるリンチ殺人である現場状況であったにもかかわらず、犯行後1年も経ってから、覚醒剤で逮捕されていた暴力団組員とその仲間の供述のみを証拠に前川さんが逮捕され、一貫して否認していたにもかかわらず、刑務所に収監されてしまった事件だ。前川氏は満期出所後、雪冤のために、再審を求めて係争中。

この事件でも、一審では「証人の証言は信用性がない」と無罪になっているにもかかわらず、高裁で逆転有罪になり、さらに再審請求審では、検察が隠していた(前川さんに有利な)証拠が出てきて、一度は再審開始の決定がなされたにもかかわらず、検察側の異義を受けて、名古屋高裁で却下されている状態とのこと。

ここで問題なのは、本当に真実なり正義が大切なのであれば、検察は、証拠を全面的に開示するのがあたりまえであり、再審に関しても、本来なら積極的に受け入れるべきであるという点だ。にもかかわらず、現在の検察は、証拠開示義務がないことを良いことに、被疑者にとって有利な証拠を隠すのが普通で、しかも、いったん起訴した被疑者は、総力をあげて有罪にしようとし、さらに、その後、判決を覆しうる新証拠や疑問が出てくると、何が何でも再審をさせまいとする対応をおこなう。それに追随する裁判所も情けないが、この検察の体質自体が、冤罪を生みやすいとしか言いようがないのだ。

(だからこそ、刑事訴訟法を改正するのであれば、証拠をすべて開示する義務を検察に負わせるとか、重大な冤罪事件などに関しては企業不祥事と同じく第三者による監査をきっちり行うとか、取調べを全面可視化するなど、検察や警察の「暴走」を押さえる方向に行かなくてはならないのに、今回の刑訴法改正は、真逆の方向に行ってしまっているということだ)

そして、3番目に、強制執行妨害に問われ、300日近い拘置をされた安田好弘弁護士。
この事件は、オウム真理教の麻原彰晃、和歌山カレー事件の林真須美、光市母子殺人事件などの弁護をつとめる「著名な人権派弁護士」である安田氏に対して立件され、あまりの不当さに、全国から1200人もの弁護士が弁護団に加わった事件である。
この事件で、検察官から、「バッジをはずせば(弁護士を辞めれば)、起訴しない」と取引を持ちかけられたことを安田弁護士は暴露。
一方で、この事件を告発した側である整理回収機構の中坊公平弁護士は、資産回収の際に虚偽の説明をおこない詐取をおこなったとして告発されたが、弁護士を廃業して起訴猶予となったことを指摘して、ここでも、「弁護士を辞めれば起訴しない」という取引があった可能性を指摘。

さらに、甲南大学笹倉香奈准教授から、彼女が米国で調査をしてきた内容の報告。
すなわち、司法取引の本家本元であるアメリカにおいても、最新のDNA鑑定などの結果、ぞろぞろと冤罪が明らかになり、しかも衝撃的なことに、その中には死刑が執行されてしまっていたケースも多数あったことから、本家アメリカにおいても、現在、司法取引の問題性が議論されているという実情について、詳細な説明があった。

今、日本で刑訴法改正によって合法化されようとしている司法取引は、アメリカによくある「自分の罪をさっさと認めるかわりに、求刑を軽くしてもらう」ものではなくて、(というか、これはすでに日本でも事実上行われている)、自分に関係ない事件に関して供述することで、自分の事件の罪を軽くしてもらう、というもの。
こんなの、悪い奴ほど、自分の罪を軽くするためなら、いくらでも他人の罪をでっち上げるじゃないかなんてことは、馬鹿でも想像できることだ。そして、いままでの冤罪事件も、まさに、この「事実上の司法取引」の疑いのある証言をもとに「犯人」が逮捕され、有罪判決が出されたりしているという現状がある以上、こんなものを、完全に合法化してしまえば、「魔女の密告」がどんどん出てくるのは火を見るより明らかである。

「検察が法を悪用するはずがない」などという、根拠が無い(というよりツッコミ放題の)性善説に基づいて、いったん法律が成立してしまえば、それでなくても暴走が問題視され、証拠の捏造や報告書の捏造まで実際にやってしまっている「前科」のある検察の権力が、これまで以上に大幅に拡大されてしまうことになるのだ。

このような改正法に、なんと日弁連が賛成している*3というのも衝撃的だが、この日弁連の検察迎合っぷりと人権感覚の欠如っぷりに対して、全国各地の多くの地方弁護士会が反対の声をあげており、また、まともな感覚を持つ議員さんたちが反対してくれているおかげで、ちゃっちゃと通過してしまうはずの法案が、ここでも長審議となっていることは救いである。

*3:「取調べの可視化の義務付け等を含む「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」の早期成立を求める会長声明」 2015年5月22日 『日本弁護士連合会』
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150522.html

これに続いて、8月6日(木)にも、刑訴法改正法案廃案を求める院内集会が開かれるので、ご興味のある方は、是非。




(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://youtu.be/QDtC9FTeesY

執筆: この記事は八木啓代さんのブログ『八木啓代のひとりごと』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2015年08月10日時点のものです。

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