未曾有の災害のときに

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内田樹の研究室

今回は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

未曾有(みぞう)の災害のときに
3月13日。東日本巨大地震から3日目。朝刊の見出しは「福島原発で炉心溶融の恐れ」と「南三陸町で1万人行方不明」。16年前の大震災を超える規模の国家的災厄となった。これからどうするのか。

このような場合に“安全なところにいるもの”の基本的なふるまいかたについて自戒をこめて確認しておきたい。

(1)寛容
茂木健一郎さんも今朝の『Twitter』で書いていたけれど、こういう状況のときに“否定的なことば”を発することは抑制すべきだと思う。いまはオールジャパンで被災者の救援と、被災地の復興にあたるべきときであり、他責的なことばづかいで行政や当局者の責任を問い詰めたり、無能力をなじったりすることは控えるべきだ。

彼らは今もこれからもその公的立場上、救援活動と復興活動の主体とならなければならない。不眠不休の激務にあたっている人々は物心両面での支援を必要としている。モラルサポートを惜しむべきときではない。“安全なところにいる人間”と“現地で苦しんでいる人間”を差別化して、“苦しんでいる人間”を代表するような言葉づかいで“安全なところにいる人間”をなじる人間がいる。

そういうしかたで自分自身の個人的な不満や攻撃性をリリースすることは、被災者の苦しみを自己利益のために利用していることに他ならない。自制して欲しい。

(2)臨機応変
平時のルールと、非常時のルールは変わって当然である。地震の直後から各地では個別的判断で、さまざまな施設やサービスが被災者に無料で提供されたし、いまも次々と申し出が続いている。こういうときこそルールの“弾力的運用”ということに配慮したい。16年前の震災のとき、雑貨屋で私がガソリンストーブ用の燃料を買い求めてレジに立っていたとき、「屋根が落ちて雨漏りがする」というのでブルーシートを買いに来た女性がいた。店員は私の燃料代は定価で徴収したが、彼女には無料でブルーシートを手渡し「困ったときはお互いさま」と言った。彼のふるまいは“臨機応変”のすぐれた実例だろうと思う。

(3)専門家への委託
オールジャパンでの支援というのは、ここに“政治イデオロギー”も“市場原理”も関与すべきではない、ということである。国民国家という共同体が維持されるために必要な根源的な資源のことを“社会的共通資本”と呼ぶということは、これまでもここで繰り返し書いてきた。

森林や湖沼や海洋や土質といった自然資源、上下水道や通信や道路や鉄道といった社会的インフラ、あるいは司法や医療や教育といった制度資本については、管理運営を専門的知見に基づいて統御できる専門家に“委託”すべきであり、これを政治的理念の実現や市場での取引の具に供してはならないという考え方のことである。

災害への対応は何よりも専門家に委託すべきことがらであり、いかなる“政治的正しさ”とも取引上の利得ともかかわりを持つべきではない。私たちは私たちが委託した専門家の指示に従って、整然とふるまうべきだろう。

以上3点、“寛容”、“臨機応変”、“専門家への委託”を、被災の現場から遠く離れているものとして心がけたいと思っている。これが、被災者に対して確実かつすみやかな支援が届くために有用かつ必須のことと私は信じている。かつて被災者であったときに私はそう感じた。そのことをそのままに記すのである。

執筆: この記事は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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