貫井徳郎と藤原一裕の絶妙コラボ『女が死んでいる』

貫井徳郎と藤原一裕の絶妙コラボ『女が死んでいる』

 貫井徳郎とライセンス藤原一裕。絶妙である。いや、もちろん「北村薫と博多華丸・大吉」も「歌野晶午と磁石」も「米澤穂信とナポレオンズ」も、ミステリー小説とお笑いが好きな私にとってはすべてアリだが(特に最後のは超読みたい)、「ダ・ヴィンチ ビジュアルブックシリーズ」の第一弾としては「貫井&藤原」が正解な気がする。

 と、つい熱くなってしまったが、ここまでの文章いったい何が書いてあるやらさっぱりわからないとおっしゃる方もおられることだろう。少々長くなるがメディアファクトリーのサイトから本書についての紹介文を引用する。「雑誌『ダ・ヴィンチ』から生まれた新しい小説の楽しみかた。小説×写真の世界で楽しむ『ダ・ヴィンチ ビジュアルブックシリーズ』が2015年3月19日(木)からスタートする。第1弾は藤原一裕(ライセンス)を小説のモデルに、貫井徳郎が新作ミステリーを書き下ろし! 小説の主人公にふんした藤原一裕(吉本男前芸人殿堂入り)の撮り下ろしPHOTO(約40カット)も満載の内容になっている」とのことだ。貫井氏は、ミステリー好きには言わずと知れた『慟哭』(創元推理文庫)や『乱反射』(朝日文庫)などでおなじみの作家。藤原氏は、上の紹介文にもあるようにイケメンとしても有名なお笑い芸人コンビ・ライセンスのボケ担当(2006年、敗者復活で進んだM-1グランプリの決勝で披露したドラえもんネタは我が家では大ウケだった)。

 二日酔いで目覚めた主人公・充哉は、ベッドの横の床で見知らぬ女が胸にナイフが刺さった状態で死んでいるのを発見する。彼は前々から女にだらしがなく、酒を飲むと記憶をなくすこともたびたびだった。部屋の鍵はすべて内側から施錠された密室状態。この女を殺したのは自分なのか? 警察に届けるのはせめて自らが手を下したという確証が持ててからと自分に言い訳をしつつ、充哉は女の手帳に残された唯一の手がかりである住所に向かった…。

 こういった企画もので何より大事なのはクオリティかと思う。本書は120ページ少々の本で、そのうち半数程度を藤原氏の写真が占めているため、物語の正味は短編かせいぜい中編くらいの長さか。貫井氏の本領は社会派の重厚な作品というのが一般的な評価だと思うので、その点からすると物足りなく感じるファンもおられるかもしれないが、主人公のいけ好かない感じや登場人物たちの怪しさなどを描写する筆力はさすが。「言うても芸人基準でのイケメンやし…」と未知数だった藤原氏についても、充哉のイメージにはぴったり。これはモテはるわ。

 こういった新しい試みというのは往々にして、ストライクゾーンがあまり広くない本好きには歓迎されないものかもしれない。ただ、出版不況や電子書籍の導入、また特に若年層で本が読まれなくなっている昨今のデータなどを考えれば、さまざまな工夫を凝らしてもっと本への興味を持ってもらうことは緊急の必要事項になってきていると感じる。貫井氏も普段本を読まない層へのアピールの重要性を切に意識しておられるのではないだろうか。書評誌「ダ・ヴィンチ」の本誌6月号(現在発売中)ならびにサイトでは『女が死んでいる』の発売を記念して貫井徳郎×藤原一裕対談が組まれており、両名のこの本へかける思いもひしひしと伝わってくる。

 というか、必ずしもミステリー作家とお笑い芸人という組み合わせにこだわらなくてもいいわけだ。それなら「津村記久子とDAIGO」や「三浦しをんと井川遥」とかもぜひご検討いただきたく、なにとぞよろしくお願いいたします。(←ナポレオンズをはじめ、すべて自分の好みです)

(松井ゆかり)

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