「cero」「森は生きている」が影響を受けた小説とは?
「ひとの家に上がるとレコード棚や本棚に思わず目をやってしまうのは文化系の悪い癖だが、それによってその部屋の主人のひととなりがわかるのもまたたしかだろう」との言葉からはじまる本書『読書夜話』。音楽ファンのためのブックガイドというテーマで、ミュージシャンや作家、批評家へのインタヴュー、文芸評論家による論考、そして多くの小説の紹介がなされていきます。
冒頭には、いま人気を集めているバンド、「cero」の高城晶平さん、「森は生きている」の増村和彦さんへのインタヴューを掲載。二人は大の本好きとあって、楽曲をつくるうえでも、小説作品に影響を受けてきたといいます。
部屋のなかには、数多くのアナログ・レコードと共に、小説やエッセイがあるという高城さん。ceroのセカンド・アルバムと表題曲のタイトルである『My Lost City』という名は、F・スコット・フィッツジェラルドの『マイ・ロスト・シティ』から引用。アルバムの制作中にたまたま読み返していたところ、自身のなかで一致するところが多かったため引用したのだそうです。
またインタヴューのなかでは、ceroの歌詞全般において、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』に代表されるジャンル、マジック・リアリズムを意識していること、レイモンド・カーヴァーやポール・オースターらに影響を受けたこと等にも触れられ、それぞれの作家の魅力についても語られていきます。
そして高城さんは、こうした豊かな読書体験と、自身の作詞についての関係性を、次のように説明します。
「僕は子どもの頃から小説だったりマンガだったり書きたくてしょうがなくて、学生時代にも、何度もトライしたんですけど、どうしても書き上げられなくて。ただ、唯一、形になったのが作詞だったんですね。そして、続けているうちに、これが、物語という手に負えなかったものを、何とか自分の手に収めることができる表現方法なんだってわかってきた。だから、それを積み重ねることで、本当はやりたかった小説の世界だったりマンガの世界だったりに近づいていければいいなと」(本書より)
一方、森は生きているの増村さんは、『一千一秒物語』などで知られる小説家・稲垣足穂に大きく影響を受けたのだといいます。音楽を通して自分のやりたかったことを、先にやられていたと感じるほどに、足穂に共感。なかでも『弥勒』の一節、「六月の夜の都会の空」という表現に魅せられたとのこと。それぞれは何でもない単語でありながら、「六月の夜の都会の空」というフレーズとなったとき、ひとつの絵のようになるということに衝撃を受けたのだといいます。
アーティストが影響を受けた本。次にどの本を読もうか迷っている方は、本書で紹介される数多くの本のなかから、気になる一冊を探し出してみてはいかがでしょうか。
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