TV Review:LOVE PSYCHEDELICO『SONGS』 とかく強調された“ビートルズからの影響”への違和感

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TV Review:LOVE PSYCHEDELICO『SONGS』 とかく強調された“ビートルズからの影響”への違和感

 今年デビュー15周年を迎えたロック・バンド、LOVE PSYCHEDELICOの特集が、NHKの人気音楽番組『SONGS』にて4月18日に放映された。

 『SONGS』は毎回ひと組のアーティストやバンドを取り上げ、そのキャリアをVTRで振り返りつつ、現役アーティストの場合はスタジオライブの映像などを織り交ぜながら放映する音楽番組(内容により過去のライブ映像が使用されるこも)。寺尾聰を特集した2007年の特番を経て、帯番組に昇格し、第1回の竹内まりや特集(2007年4月11日放送)以来、実に8年間ものあいだ放映を続けている。現在は毎週土曜日23:30~の番組枠にて基本的には毎週放映中で、今回のLOVE PSYCHEDELICO回は同番組の第336回となる。

 番組で取り上げられるアーティストは現役のアーティストに限らず、国の邦洋も限らない。2014年にはテイラー・スウィフトと仲里依紗の対談も同番組内で放送されており、また、回によっては「卒業ソングSP」「オールタイムリクエスト」などの企画も放送している。番組は2015年現在、“大人の心を震わせる新しい音楽番組”を標榜しているが、そのテイラー・スウィフトの起用にも表れているように、若者支持が高いアーティストもたびたび特集しており、出演者のラインナップに関しては柔軟だ。LOVE PSYCHEDELICOはその中でも、どちらかと言えば若手でロック・バンド寄りのアクトになる。

<当日の番組構成は定石通り、スタジオライブとVTRの2本立て>

 さて、先にも書いたとおり、アーティストのキャリアの振り返りVTRとスタジオライブの2本柱で進行すること多い『SONGS』だが、今回のLOVE PSYCHEDELICO特集もまさにその構成。スタジオライブでは、番組冒頭に彼らのデビュー曲「LADY MADONNA ~憂鬱なるスパイダー~」(2000年)が演奏され、「Last Smile」(2000年)、「Freedom」(2007年)、「Good times, bad times」(2014年)の計4曲が番組中で演奏された。演奏にはメンバーのKUMIとNAOKIのほか、彼らのライブのサポートもつとめる堀江博久(key)、高桑圭(b)、白根賢一(dr)、権藤知彦(ユーフォニアムなど)が参加した。

 一方、その演奏の合間に流れる振り返りパートでは、(a)青山学院大学の音楽サークルで知り合ったというKUMIとNAOKIの当時のエピソードや、2015年現在の彼らが2人でその母校に向かい出身サークルの後輩らとビートルズの「ヘイ・ジュード」を演奏する“学生時代~デビュー期パート”、(b)2005年前後、同ユニットでやれることはやり切ったと感じ、一種のスランプに陥ったことを語る“スランプ期パート”、(c)その後、オノ・ヨーコのアドバイスがきっかけとなり、自身のスタジオ<ゴールデン・グレープフルーツ・レコーディング・スタジオ>を設立、当時、約3年ぶりの新作となったアルバム『GOLDEN GRAPEFRUIT』(2007年)を完成させたことなどが語られる“復活期パート”が流れるという、大きく3つのパートから番組が進行した。その落ち着いた筆致で描かれるバンドの物語は、確かに“大人の音楽番組”というコンセプトに相応しく、この番組で初めて彼らを知った初心者へのイントロダクションとしても十分に機能したものと思われる。

<強調される“ザ・ビートルズからの影響”と演奏された4曲の間の齟齬>

 一方、番組を観ていて気になったのは、キャリアを振り返るVTRの中で彼らのルーツとしてやたらとザ・ビートルズの影響が強調されるのに対し、演奏された4曲はむしろ、ビートルズ以外のアーティストからの影響が大きいと感じたことだ。「LADY MADONNA~」は、そのタイトルはともかく、音楽的には、むしろドアーズのようなサイケデリック・バンドとも通じるオルガン・ロックだし、「Last Smile」も、やはりビートルズというより2000年頃の(つまり、LOVE PSYCHEDELICOと同時代のバンドである)オアシスの作風に近い。また、「Freedom」はプライマル・スクリームの「カントリーガール」やU2の「ヴァーティゴ」といった、アメリカ南部の乾いたサウンドを自分たちなりに昇華したバンドやサウンドの影響が感じられる。「Good Times, Bad Times」も、ビートルズというより彼らが手本としたガールズ・グループの作風に近いし、そもそもこのタイトル自体、レッド・ツェッペリンの曲名からの引用だろう。

 もちろん、彼らのルーツにビートルズがあることは否定しない。あるいは、彼らがビートルズから受けた影響というのは音楽のスタイル以上に活動や創作のスタンスの話なのかも知れないという予断もあるだろう(筆者の考える限り、音楽性も含んだ話だと思うけど)。だが、いずれにせよ、演奏されている音楽を半ば無視して、バンドの物語を語ることは、結果的にバンドへの理解を高めることになっても、その“音楽”への理解には、むしろ弊害となってしまうのではないか。

 あるいは、番組の構成上、オノ・ヨーコとバンドの関わりに話題を繋げるためにも、ビートルズの存在を強調したかった制作側の気持ちは分かる。しかし、それならそれで、例えば、よりビートルズ寄りのLOVE PSYCHEDELICOの曲を選曲するなど工夫は可能だったはずだ。(例えば、初期で言えば「These Days」や「A DAY FOR YOU」。やはりシングルで、という話なら「Your Song」の方がずっとビートリーだし、彼らには「Help!」のカヴァーという飛び道具だってある)。

 おそらく制作サイドには、音楽面のアドバイザーも居るだろうし、そこで何らかの協議と合意を経て番組は作られているのだと思う。その意味では、彼らの想定している視聴者に番組を届けるための止むに止まれぬ判断がそこに含まれているのかも知れない。だが、やはり、今どき30分も一組のアーティストを特集する音楽番組が、どれだけ稀有で価値があるかを知る身だけに、そして、多くの人にとって、そのアーティストの音楽に初めて触れる契機となり得るテレビというメディアの番組であるだけに、可能な限りその主役は音楽であることを期待したい。バンドの物語を語るためにその音楽が利用されている、とは言い過ぎかも知れないが、「さすがNHK、LOVE PSYCHEDELICO」と唸る番組の完成度とは別に、その“音楽”の取り扱いに違和感を受けた回であった。

文:佐藤優太

◎番組情報
『SONGS 第336回 LOVE PSYCHEDELICO ~「僕らの歌」 探した15年~』
4月18日(土)23時30分~24時

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