Chara『Secret Garden』インタビュー(前編)
肌の色をした背景を丸くくり抜いた穴の向こうには、美しい花園が広がり、そこで誰かを待つように佇むChara――。そんなヴィジュアルを掲げた2年半ぶりのアルバムに、ずばり子宮をイメージしたタイトル『Secret Garden』を与えた彼女は、“女”という職業を極めてヴィンテージと呼べる年頃になった自分の内なる世界をさらけ出す。自宅で録音した音源も用いてセルフ・プロデュースで完成させた本作はまた、彼女の原点である鍵盤の響きとソウル・ミュージックのヴァイブに立ち返ったアルバムでもある。色んな意味でCharaらしさを突き詰めた、どこまでもセンチメンタルで、たまらなくハッピーなこの花園を、彼女に案内してもらおう。
――新作『Secret Garden』について、多くの取材を受けたり色んな人の反応を耳にしてきて、何か面白いなと思ったことはありますか?
Chara「私の義弟がアメリカ人なんだけど、元々Charaのファンで、大の音楽好きでもあって、彼が訊かせてくれた感想が面白かったな。初めてのセルフ・プロデュースというか、全曲Charaの作詞作曲で、自分なりにアルバムを作ってみようってことを初めて打ち出したのが2003年の『夜明け前』で、彼は、“『夜明け前』も好きだけど『Secret Garden』も似た感じの作品で、1970年代ぽい雰囲気がすごくあって好き”って言ってくれたの。長年音楽を聴いていて、厳しくもある身内の人がそう言ってくれたことを、素直に受け止めてます。あまり感想とか気にしてなかったけど、確かにこのアルバムはソウルぽい。ちっちゃい時にリアルタイムで聴いていたソウルには、自分の中に強い憧れがあるから、そこに帰ってきたのかも。それに今回は、私が初めて憧れた楽器である鍵盤をたくさん入れようと意識してたんですよ。だから、黒人音楽という意味のソウルじゃなくても、白人のソウル・ミュージックも好きなので、グルーヴとかミディアム・テンポとか、そういったものが曲に出るだろうなあと思っていたら、義弟に指摘されちゃって。原点のCharaぽいものが、“やっぱり出たか”と(笑)」
――確かに1970年代的で、ヴィンテージ感を湛えたサウンドですよね。
Chara「私自身がヴィンテージなんでね、もう(笑)」
――もちろんいい意味で、ですが。
Chara「そうそう。ほら、古着だと30年以上経つとヴィンテージって言うんだよ。私、ヴィンテージ古着が好きなんだけど、30年前だと私はティーンエイジャーなわけ。16~17歳で、バリバリ高校生だったから、“これって古着でしょ”って思っちゃうよね(笑)。でも今は古着じゃなくてヴィンテージなんだって言われて、“ええーー!”ってビックリ。自分のヴィンテージ感を思い知らされます(笑)。だから大人になって、自分という楽器を良く知ることも大事だなって本当に感じるし、そういう意味では、私は女性としての人生もすでに折り返してますから、良く知ることが出来たとは思うんですよ。これからまだ知る部分もあるだろうけど。『Secret Garden』はそんな時に作ったアルバムなんです」
――ソウルはリスナーとして今でも良く聴いているんですか?
Chara「そうですね。元気を出したい時に、車の中でヴァレリー・カーターの『Ooh Child』をかけて一緒に歌ったりとか。ふり幅の広いダイナミックな曲なので。ミニー・リパートンも、有名な『Lovin’ You』ではなく『Perfect Angel』や『Inside My Love』だったり、同じようにふり幅がちょっと広い曲を、良く一緒に歌ってますよ」
――Charaさんの場合、ソウル=パワフルなヴォーカル・スタイルという端的な認識がある中で、全く違うアプローチをしていますよね。全体的な音色やグルーヴで圧倒的なソウル感を醸していて、すごく難易度が高い。
Chara「だって、自分という楽器にそういうパワフルなソウルの声があるかと言えば、そうじゃないから。でも私が一番好きなのは楽曲を作ることだし、そこから、自分が歌うならどの声で歌えばいいのかを見極めて、私というヴィンテージの楽器を操るってことを、“Charaプロ”はわりと自然にやってます。例えば今回はあまり地声を使っていなくて、中声とウィスパーを主に使ってますね。自分で全部ある程度アレンジをして、色々判断して行くので、純粋に自分に基いていればいい。自分をどうさらけ出すかっていうところで、頭の中で、他人には見えない音のお絵描きをやらなくちゃいけないんですけど、それを素直にやれる勇気みたいなものは持っているから(笑)」
――そして、結果的に大好きなソウル・ミュージックのフィーリングが強調された、と。
Chara「まあ、それは人が判断するもので、私にとっては内側の秘密を出しているような感じなんですよ。内側に溜まっている悲しみや喜びとか、色んな点が付いたものが、楽器を持ったりした時にわーっと出てくる。ひどい時は……というか、むしろいい時って言えるのかな、歌いながら泣いてたりしますから。ちょっと儀式みたいになっちゃってイヤなんだけど(笑)、それくらい純粋に自分が出ているんだってことに後々気付いたりして、面白いなと思ったりするんです。でも、そういう風にやろうと思って出来ることじゃないし」
――“儀式”という捉え方は面白いですね。
Chara「なんか神秘的な感じはするよね。もちろんソウル・ミュージックひとつとってもそうだし、今までに影響を受けたミュージシャンや作曲家や色んな演奏家がいて、私はそこに点を付けてもらっているから、自分もそこにつながって、音楽を出せる。先輩方に出して頂いて、私はそれに憧れて、心を揺らされた。そういう経緯があってこそ、うまくつながったんでしょうね。だから自分自身も点を付けたいなっていう想いがある。そういう意味で、このアルバムはタイトルに“secret”という言葉が使われているのも面白いし、もうひとつの“garden”という言葉は非常に女性っぽい感じがするし、自分の声を使ったり作曲することを通じて表した、私の女性としての人生そのもの。女という職業そのものってこと」
――だから子宮というイメージにつながるわけですね。
Chara「子宮って女の人にしかないから、男の人には“子宮でものを考える”みたいなことは分かり難いかもしれないけど、男の人もみんなそこにいたんだよね(笑)。それもまた面白いし、私が誰かに伝えたくて書いていたものが、結果的には聴いてくれるほかの人のものになったり、共有してもらえるところがまたすごい。見ず知らずのたくさんの女性のために書こうとは全然思ってないのに、“それを意識しているんですか?”と訊かれることがあって、“いや、全然”みたいな。本当に自分の内側の秘密を、自分が素晴らしいと思ったことを、出しているだけ。“これは素晴らしいね”とか“この言葉を私は気に入っているよ”とか。言葉は一度出したらひっこめられないので、責任を持って出しているけど、それがそんな風に受け止められるのは面白いなって」
――でもパーソナルなものだからこそ、大勢に分かち合ってもらえるんですよね。
Chara「そう、私だからこそ出せるものなんだけど、共通点はあるんだなと思って。Charaだから出来るんだけど、共有出来ることがある。例えば、みんなが無力感を覚えている時に曲を書けるのかというと、書けないわけで、私みたいな人間が役割を果たしていたりする。だから、私の“シークレット・ガーデン”に咲く愛のお花をいかに出して行くかっていうこと。愛って、私もまだ良く分かんないけど、なんだかすごいもんだなってちっちゃい時から思っていて、興味があったの。で、そういう愛の物語をCharaらしくメロディに乗せるのが、“Charaプロ”は巧くなったんじゃないかな。自分らしく表現することが。決断も速くなったし、迷いが無くなったし。人と一緒に暮らす時には調和したり、譲り合うことが大事なんだけど、私というアーティストはソロだから、ある程度のワガママというか独創性が必要で、“いやいや、これでいいよ”って言えないと、そこに“プロデュース:Chara”と書いちゃいけないと思うし(笑)」
――じゃあセルフ・プロデュースすることで、曲を書き始めた時にあった想いと、完成した曲の間に隔たりが無くなった?
Chara「でも、それだとつまらないから、色んなパートナーに参加してもらってるわけ。8割は決まっているんだけど、そこから先は分からない部分があって、ほかのミュージシャンたちとセッションしたりしているうちに、プラスされて行く。そこはもちろん私も期待して、お呼びしています(笑)」
――パートナーたちのキャスティングはどんな風に進めたんですか?
Chara「基本的には友達しか呼んでいないかな(笑)。でも、ずっと気になっていたのにセッションする機会が無かったベーシストのキタダ マキ氏とは、今回やっとコラボが実現しました。彼と、以前から付き合いがあるドラマーの朝倉真司と名越由貴夫と、『せつなくてごめんね』を自宅で録音したんですよ。いつも家でちょっとレコーディングしているから、どこまで出来るか分からないけど、一度試してみたくて。3人に“ちょっと突然なんだけど明日はどうですかね”って訊いたらたまたま空いてて、“ラッキー!”みたいな。家にあるエレクトリック・ピアノは調整もしてなかったけど、ガリガリっていう感じも“いいね!”ってことにして。そうやって録音した音を、今回は結構使ってます」
――そういうレコーディング環境は、やっぱりサウンドに反映されますよね。
Chara「反映されるし、時間の使い方も変わる。スタジオだと光の変化も分からないから。“今何時だっけ?”とかね。天気のいい日に、そんなところに行きたくないじゃない? でも家だったら、いい天気だったり、雨が降っていたり、日が暮れてゆくのが目に入るし、“犬がじっと見つめてるわー”って思いながら弾いている時もあるわけで、面白いよね。“じゃあ今日は早めに終わってゴハンにして”ってことも出来て、集中力の使い方が違うような気がする。意識はしてないけど、家の場合はどこかにいいヴァイブスがあると思うな」
(後編へ続く)
撮影 吉場正和/photo Masakazu Yoshiba
文 新谷洋子/text Hiroko Shintani
Chara
『Secret Garden』
発売中
http://www.amazon.co.jp/Secret-Garden-初回生産限定盤-DVD付-チャラ/dp/B00R3NFFPW/ref=ntt_mus_ep_dpi_1
https://itunes.apple.com/jp/album/secret-garden/id962225831
Chara
1991年9月、シングル「Heaven」でデビュー。1992年の2ndアルバムでは日本レコード大賞ポップ、ロック部門のアルバム・ニューアーティスト賞を受賞。1996年には女優として出演した岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』が公開され、劇中のバンドYEN TOWN BANDのボーカルとして参加して制作されたテーマソング 「Swallowtail Butterfly~あいのうた」が大ヒット。1997年のアルバム『Junior Sweet』は100万枚を超えるセールスを記録。2015年3月『Secret Garden』を発表。音楽的探求のもと、新たな作品を発表し続けている。
[Chara Concert 2015 – Secret Garden -]
3月31日(火):Zepp Sapporo(札幌)
4月3日(金):日本特殊陶業市民会館(名古屋市民会館中ホール)(愛知)
4月5日(日):Zepp Fukuoka(福岡)
4月7日(火):倉敷市芸文館(岡山)
4月16日(木):中野サンプラザホール(東京)
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