河川局の犯罪

河川局の犯罪

今回は河野太郎さんのブログ『河野太郎ブログごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

河川局の犯罪
検察のフロッピーディスク(FD)の書き換えなみかそれ以上の犯罪が行われている。事件現場は、国土交通省の河川局だ。今度は天下り先の問題ではなく、国土交通省そのものの犯罪だ。

(ちょっと長いけれど、読んでね)

群馬県に八斗島(やったじま)という場所がある。利根川上流の治水基準点になっている。200年に一度の大雨が降ったときに、ここをどのぐらいの水が流れるかを計算した数字を“基本高水”という。

昭和33年に三日間で168mmの雨が降って洪水が起きたときの八斗島の実測データがある。これに基づいて、まず基本高水の計算モデルを作る。次に200年に一度の大雨といわれる1947年のカスリーン台風の雨の量、三日間で318mmを計算モデルに入れると、基本高水は毎秒2万2000トンと計算される。

八斗島を流れることができる水の最大量は毎秒1万6500トンなので、あと毎秒5500トンの水を上流でなんとかしないと洪水になるというのが国土交通省の説明だ。これまでに造られた六つのダムで毎秒1000トンを調整できる。八ッ場ダムは大きいので、それ一つで毎秒600トンをカットできると国土交通省はいう。国土交通省によれば、八ッ場ダムを造ってもあと毎秒3900トン分が足りない。ま、あとダムを10個も造れば……ということらしい。

昭和33年は利根川上流の森は荒れていた。この地域では、戦時中に木炭作りやら何やらで木が伐採され、まだ回復していなかった。
昭和33年洪水を基に作成した計算モデルは、この荒れた森の保水力がベースになっている。

その後、森林は回復し、森の保水力は大きくなった。だから、昭和33年の計算モデルは当てはまらなくなってくるはずだ。

ところが、国土交通省は、1982年(昭和57年)洪水のデータをこの計算モデルに入れて計算すると、実測値とぴったり合うからモデルは現在でも使用できるといっていた。

1982年洪水の観測最大流量は毎秒8192トン、国土交通省がそのときの雨量を計算モデルに入れたら最大流量は毎秒8172トンになった。ほらね、ぴったりでしょ。だから計算モデルは今でも有効なんですよ!

実測値毎秒8192トンに対して、計算モデルが出した最大流量毎秒8172トンは、驚くほどぴったりと合う。普通のモデルならばもっと誤差は大きいそうだ。だから、国土交通省が胸を張るのも無理はない。国土交通省の技術力はすばらしい!!!!

刑事コロンボを見ていても、犯罪者が失敗するのは、あまりにアリバイ工作を完ぺきにしてしまうからだ。

「実測値毎秒8192トンに対して計算値毎秒8172トンはほぼピッタリですよね」とコロンボは言う。
河川局長は、「そうだね、この計算モデルは正確なようだね」ととぼける。

「アタシがわからないのはね、そこなんですよ。あまりに数字がぴったりすぎる」
「どうしてだね、コロンボ君、国土交通省のモデルは精緻(せいち)なんだよ」

「はい、それはよくわかってます。でもね、この計算モデルの基になった昭和33年(1958年)から1982年の間に上流にダムが三基増えているんですよ。そのダムが水を貯めちゃうんでね、昭和33年の時と1982年の時は、その分、流量が違うんですよ。

もし、その三基のダムがなかったとしたら、1982年の実測値は毎秒9102トンになったはずなんです。国土交通省の計算モデルにはこの三基のダムは入ってませんから、計算モデルの計算値は9102トンに近いものにならなきゃおかしいんです。

だけどダム三基がモデルに入っていないはずの国土交通省のモデルで計算すると、ダムが三基増えた後の実測値毎秒8192トンにぴったりの毎秒8172トンになってるんです。どうしてそうなるのか、アタシにはわからない。あなたどう思います、河川局長」

つまり、国土交通省は、数字が合うようにねつ造してしまったが、そのときに前提条件が変わったことを忘れてねつ造したのでつじつまが合わなくなった。

そういわれて国土交通省は、以前のモデルとは流域の分割の仕方を変えたから、この数字が出てきたのだ。新しいモデルは正しいのだと強弁する。

では、それを検証するためにその流域分割図を出してくれと言われて、前原前大臣は出しましょうと言った。もはや河川局のうそがばれる!

そこで、河川局長は戦略を変えた。国土交通省のモデルは流域を分割したから数字が変わったのではなく、流域の木が成長して、以前よりも山が水を蓄えることができるようになったので、数字が変わった。だから、それを反映した国土交通省モデルは正しいと言うようになった。

これまで国土交通省は、昭和33年モデルは現在でも有効だと言ってきた。それがあっという間に、森林の成長を反映した新モデルを使っていると立場を変えた。では、森林の成長による保水力(つまり飽和雨量)はいくつを使っているのですか、というのがあの予算委員会での最後の質問だ。

これまで国土交通省は、八斗島の飽和雨量はずっと48と言い続けてきた。それに対して治水学者たちは、それはおかしい、木が成長すれば飽和雨量は増えるはずだと言ってきた。それでも国土交通省はかたくなに48だといってきた。

なぜならば、飽和雨量が増えることは、山の保水力が増えることを意味し、結果的に基本高水が低下し、ダムの必要性が小さくなる、あるいはなくなるからだ。

八斗島の基本高水を計算するモデルの飽和雨量は48ですと言い続けてきた国土交通省は、自分のミスを隠すために、実はこれまで飽和雨量を変えて計算してきたことにしなければならなくなった。自分たちのモデルを守るために、いや、自分たちのうそを隠すために逆算した数字が、あの馬淵大臣が答弁したマジックナンバー四点、つまり、31.77、65、115、125なのだ。

問題は、今まで押し通してきた論理の一つを苦し紛れに全く変えてしまったことで、今度は他のつじつまが合わなくなってくる。それを隠すために、国土交通省は徹底的に資料隠しにくるだろう。馬淵大臣がいかにこれを是正するか、民主党の政治主導が問われる。

ちなみに東京新聞だけがこの質問のことを大きく報道してくれた。それぞれのメディアの皆様、御社の国土交通省担当にこのことを尋ねてみてください。もし、何のことかチンプンカンプンのようだったら……。

執筆: この記事は河野太郎さんのブログ『河野太郎ブログごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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