ザ・ヴァンプス 英国出身のポップ・グループが超満員の来日公演で見せたとびきりのチャーミングさとミュージシャンシップ

ザ・ヴァンプス 英国出身のポップ・グループが超満員の来日公演で見せたとびきりのチャーミングさとミュージシャンシップ

 英国出身の4人組ポップ・グループ、ザ・ヴァンプス(The Vamps)が2月5日にZEPP東京にて単独公演を行った。

 チケット・ソールドアウトとなったこの来日公演。会場は20歳前後の若い世代を中心に超満員になった。集まったファンの熱気はかなりのもので、ステージに降りた幕の裏でドラムがサウンド・チェックを始めると、それだけで歓声が上がるほど。あまりの熱気に、前に詰めすぎずゆとりを持って楽しむように、という注意事項もアナウンスされた。

 ファンが待ち構える中、客電が落ちると、「レディース・アンド・ジェントルメーン!」という煽りもド派手なSEに導かれメンバーが登場。客席からは大きな歓声が上がった。

 登場時、ボーカルのブラッドリー・ウィル・シンプソンはハンドマイク。本来ギターを担当するジェイムズ・マクヴェイもハンドマイクで登場。先日負傷したばかりの彼は、この日はギターを一切持たずコーラスとボーカルに専念。ドラムのトリスタン・エヴァンズ、ベースのコナー・ボールも登場し、客席を煽りつつ演奏に入る。

 1曲目はアルバムのオープニングの「Wild Heart」。シーケンサーで鳴らされるアコースティック・ギターのストロークに合わせて、トリスタンとコナーはパワフルな演奏を披露。そしてブラッドリーとジェイムスは、まるで子供がはしゃいでいるような元気さ(実際、若いんだけど)で、ステージ狭しと走り回り曲を歌う。特に、マイク片手に高速でぐるぐる回りながら歌うブラッドリーの“回転唱法”に目を奪われる。2曲目は「Girls On TV」。まずはアンセミックなシングルの連続で客席の合唱を煽り、エネルギーを爆発させる。

 3曲目の前には、そそくさとジェイムズが舞台袖に退場。エレキ・ギターを持ったブラッドリーの「みんな調子はどう??」という叫び立てるようなMCに続き演奏されたのは「YouTube MEDLEY」と題された彼らの定番レパートリー。ブルーノ・マーズの「When I Was Your Man」から始まり、英国のドラムン・ベース・ユニット、シグマの「Nobody to Love」(カニエ・ウェストの「Bound 2」のサビ部分をサンプリングした曲)、テイラー・スウィフトの「I Knew You Were Trouble」、マックルモア・アンド・ルイスの「Thrift Shop」と「Can’t Hold Us」というヒット群を、“マッシュアップ”するように演奏で繋ぐ、という彼らの時代感覚とミュージシャンシップの出た大ネタ曲を3人で披露。日本での知名度の差もあり、この日はシグマとマックルモア~の曲はややリアクションが薄かったが、YouTubeのカバー動画をきっかけに知り合ったという彼ららしい演奏に会場は大盛り上がりだった。

 曲間では、メンバーがお互いに茶化し合いつつ、「日本が大好きだよ。ご飯も美味しいし、女の子も可愛いしね」とMCして会場を沸かせる。ジェイムズがステージに戻ると、アコースティック・ギターに持ち替えたブラッドリーが「次はバンドで初めて書いた曲をやるよ」とMC。演奏したのは「She Was The One」だ。録音版よりも若々しく勢いが感じられる演奏で、2番のメロではジェイムズが先に歌い、続けてブラッドリーが入る。フロント3人がそれぞれに歌える、という彼らの武器を活かしたコーラスの厚さも印象的だ。

 次は、ブラッドリーがまたもエレキに持ち替える。ここでちょろっとアークティック・モンキーズの「Don’t Sit Down ‘Cause I’ve Moved Your Chair」のイントロを弾き、インディ・キッズだったという遍歴をさらりと披露。そのまま演奏したのは彼らのシングル曲「Somebody To You」で、ここでも一部ジェイムズがボーカルを取った。絞りだすようなブラッドリーの甘い声とは対照的に、ジェイムズの歌にはどこかジェントルな雰囲気がある。

 演奏後、トリスタン以外のメンバーが下がったと思うと、バック・トラックが流れ始め“トリスタン・パート”がスタート。ザ・ヴァンプスのステージにはメンバーそれぞれの持ち味を発揮するためのこうしたコーナーがあるのだ。2014年、ブルーノ・マーズがスーパーボウルで見せたパフォーマンスを彷彿させるイントロから、リアーナの歌など、いくつものサンプルをマッシュアップしたダブステップ風のトラックに合わせて、パワフルなドラムスを披露するという演出で大いに会場を魅了した。

 ソロ演奏の興奮が冷めぬ中、メンバーが合流。続いて演奏したのは「Last Night」だ。2番ではベースのコナーが歌い、他の2人とは持ち味の異なる、幼さの残る歌声を聴かせる。演奏後、ステージはそのまま“コナー・コーナー”へ。コナーがギターに持ち替え、トリスタンの代わりにブラッドリーがドラムに。さらにツアー・テクニシャンと思われる男性スタッフがベースに入って、演奏されたのは米国のポップ・パンク・バンド、オール・タイム・ロウの「Dear Maria, Count Me In」のカバー。ブラッドリーのお世辞にも上手いとは言えない、というか上手に叩くことより、身振りを含めた“っぽさ”を重視したドラミングと、真っ直ぐに歌い上げるコナーの歌が、なんとなく学園祭のような雰囲気も醸し、会場を大いに楽しませた。

 続いて、トリスタンがドラムに戻り、ブラッドリーはアコギにチェンジ。コナーはギターまま、加えて男性スタッフもベースで残ったままで、全面的にジェイムズがボーカルをとって「Move My Way」を披露した。(今思えば、ここが“ジェイムズ・コーナー”だったのか)。

 最後は“ブラッドリー・コーナー”。アコギを抱えたままの彼を残してメンバーが去ると、ブラッドリーは弾き語りの「Shout About It」でその甘い歌声を存分に聴かせる。バンド演奏では声を張り上げる必要があるためなかなか出せない、ニュアンスたっぷりの歌に会場もうっとり。演奏後は悲鳴のような歓声が上がった。それに恥ずかしそうに頭をかくブラッドリーの姿もとても好印象。この演奏を含めて、この日の彼にはやはり強いスター性、カリスマを感じた。

 ソロ後、メンバーが合流すると、アコースティックなコンボで「High Hopes」と「On The Floor」を披露。この時ばかりはジェイムズもマラカスを振って演奏に加わる。フロント3人の歌に加えて、トリスタンは、いかにもお調子者風の合いの手を入れて演奏を盛り上げる。先ほどまでとは一味ちがう親密な雰囲気と幸福感が会場に漂った。

 演奏後、ブラッドリーがエレキに持ち替え、トリスタンがドラムに戻る。コナーが「マイ・ケミカル・ロマンスのファンはいる?」と会場に問いかけるも、思いのほか反応が少なかったのか、「みんな健康的だね」とこぼす場面もありつつ、マイケミの随一のグラム・ソング「Teenagers」のカバーを演奏。明らかに張り切って歌うコナーも微笑ましい。2番ではフロント3人が寝そべって歌うなどエンターテイナーぶりを発揮していた。

 本編ラストは「Oh Cecilia (Breaking My Heart) 」。サイモン・アンド・ガーファンクルの名曲をサンプリングしたこの一曲で会場に大きな合唱を巻き起こす。ブラッドリーに加えてジェイムズとコナーも“回転唱法”を見せるなど、ステージ終盤とは思えないエネルギーを見せ本編を終えた。

 大歓声で迎えられたアンコールでは、一曲目はコナーがアコギを担当して「Risk It All」をメンバー全員で歌い上げる。そして、最後はお待ちかねの「Can We Dance」。曲を完璧に歌える観客とボーカルを分けあってお互いにエールを贈るようなお祭り感で盛大にライブを終えた。全部で1時間半弱。メンバー全員のとびきりのチャーミングさは言うまでもなく、各々のコーナーも含めて、グループの持つエンターテイメント性とミュージシャンシップを感じる完成度の高いステージだった。メンバーそれぞれ、まだまだ変化成長するだろうという期待も含めて、次は是非メンバー全員が万全の状態のライブを観てみたい。

Photo by Yoshika Horita

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