ヴァナ・ディール経済圏

ヴァナ・ディール

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

ヴァナ・ディール経済圏
『ファイナルファンタジーXI』の世界、ヴァナ・ディールの経済は仮想通貨ギルで成り立っている。アイテムは競売所を通したプレイヤー間の売り買いで行われ、一応武器などを売っている店舗もあるのだがあまり存在感はない。

モンスターを倒すとアイテムをドロップする。そのアイテムを店に売るとあまり高額ではないが買い取ってくれてギルが手に入る。すなわちシステムがギルを払い出し、世界に流通しているギルはちょっとだけ増える。プレイヤーが店でアイテムを買えば、その分ギルはシステム側に回収され、世界で流通するギルはちょっとだけ減る。

その比率はプレイヤーがアイテムを店に売る率の方が若干多く、システムが世界に払いだすギルの方が若干上回っている状態だった。プレイヤーはアイテムをほかのプレイヤーから買うので、あまり店で買う人はいない。(もちろんアイテムの中には食事など“使えばなくなる”ものもあるから、無限にギルやアイテムが増えていくわけではないが)。

したがって世界の中で流通するギルは増えこそすれあまり減ることはなく、ヴァナ・ディール全体は常に緩やかにインフレしていく傾向にあった。インフレしつつもヴァナ・ディールの世界の経済はうまくまわっていて、それでプレイヤーは大金を貯めて高価なアイテムをそろえていった。

 * * * * *

その経済システムが崩れた時があった。新年をまたいでいた記憶があるので2004年末から2005年初頭辺りだろうか。なんだか急にいろいろなものが値上がりしていった。その高騰は尋常ではなかった。10万ギルだったものが200万ギルとかになったものもあった。何かの拍子に一時的に値上がりしているだけで、待っていれば値下がりするのかと様子を見ていたら、逆にどんどん上がっていき、気がついたときにはもう到底手が届かない金額になってしまった。

レベル上げパーティでは、このレベルでは最低限この装備をそろえていないとほかのメンバーから白い目で見られるというのがある。おれはあまり豪華な装備をそろえるタチではないのでいつもたいていはその下限ギリギリの装備でしのいでいたのだが、価格高騰でその最低限のレベルさえ用意できない事態となってしまった。これには困った。レベル上げができない。

しょうがないのでレベル上げを中断して、手持ちのギルを増やすべく金策に精を出した。普段はあまり自分から積極的にはやらないBFNM(バトルフィールドノートリアルモンスタークエスト)を主催したり、と。しかし稼いでも稼いでもアイテムの値段の方がどんどん上がっていく。正直この時期はレベル上げもできず途方にくれてしまった。しかたないのでクエストをこなしたりメインのジョブ以外のジョブをレベル上げしたりしてすごしていた。

これはほかのプレイヤーも同じで、「何なんだ、この異常なインフレは!」と口々に愚痴を言い合ったものだ。しかし一介のプレイヤーにすぎないおれにはこの世界でいったい何が起きているのかわからなかった。漠然とみんな「RMT * 業者が買い占めて価格を釣り上げているのだ」とうわさしてはいたが……。

*:RMT(Real Money Trading)
オンラインゲーム上のキャラクター、通貨などを、現実の通貨で取引する経済行為を指す。
『フリー百科事典ウィキペディア』より
http://ja.wikipedia.org/wiki/リアルマネートレーディング

 * * * * *

そうこうしているうちにスクウェア・エニックスがいろいろ修正が入ったパッチをリリースした。特定のクエストなどで比較的簡単にギルを得ることができるものがあり、RMT業者がそれを利用して組織的に大量のギルをシステムから引き出していたらしい。そのため世界で流通するギルが急増し、急激なインフレになった。

この事件をきっかけにスクウェア・エニックスはRMT業者対策に本腰を入れ始める。それまでも見つけたらアカウント停止の措置をとっていたが、専門のRMT摘発チームを常設し監視に乗り出すとともに、RMT業者が悪用しやすいクエストなどを修正し始めた。

たとえば高レベルのプレイヤーが支援することで低レベルのプレイヤーでもクリアできてしまうようなクエストはレベル制限が設けられたりした。すなわち新たなキャラを作ってはクエストをこなしキャラを消し、また新たなキャラを作る、というような手法の対策をした。またある種のレアアイテムは譲渡できない属性をつけた。つまり自分で使う目的意外は意味をなさないようにした。

 * * * * *

インフレの原因であるRMT業者と手段であるクエストは対策したものの、一度世界に流通してしまった大量のギルはもとに戻せない。緩やかに物価は下落していったけれど、もとの適正な値になるのに何か月もかかったように思う。

しかたないからおれは200万ギルが80万ギルぐらいに下がった時に最初に欲しかったアイテムを買った。おれがその時ギリギリ買える価格だった。待ってればさらに下がるだろうけれど、それまでレベル上げできないのでは困る。メインのジョブに関係ない手持ちの装備を売り払ったりして、ようやくギルをかき集めたものだ。なんかいま書いてても健気さに泣けてくる(笑)。忘れたころに再びそのアイテムの価格をチェックしたらその時は20万ギルとかになっていた。

その後もRMT業者とスクウェア・エニックスの戦いは続くが、これほどヴァナ・ディールの世界に大規模な影響を与えたのはこの時が最初で最後だったのではなかろうか。むろんそれはスクウェア・エニックスがこの事件に懲りて、RMT業者の積極的な摘発と、悪用の兆しが発見されたクエストはなるべく早期に修正するようになったからだ。

全体的なインフレ傾向についても競売所の手数料や個人のバザーへの課税などがその後行われた。現実の国の税金と違って、ヴァナ・ディールの税金はだぶつきがちなギルをシステムへ回収するための措置だ。ギルが減ればインフレはその分抑えられる。またどうしても中央(ジュノ)に集中しがちな物品を地方(ウィンダスやバストゥークなど3国)へと分散させるねらいもあった。したがって税率はジュノがいちばん高かった。地方の競売所を使ったほうがお得ですよ、と。

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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