経済成長を阻害?日本の解雇要件は厳しすぎる?
政府内で進められた解雇規制緩和の議論
安倍政権が掲げる成長戦略の柱の一つである「国家戦略特区」。これを推進するための国家戦略特別区域法の成立過程において、「解雇規制の緩和」の是非がメディアを賑わしたことは記憶に新しいところです。
流動性の高い労働市場の形成を狙いとして政府内で検討が進められました。各方面からの反発もあり導入は見送られましたが、そもそも企業が従業員を解雇することに関し、日本ではどのような規制がなされているのでしょうか。
解雇の有効性を判断する2つの要件
我が国においては労働契約法により、解雇の有効性を判断する2つの要件が規定されています。1つ目は、解雇に「客観的に合理的な理由」が存在すること。これは、各々の企業が定めた就業規則により解雇事由が示され、規定された解雇事由に該当しているかどうかということです。
2つ目の要件は、その解雇が「社会通念上相当」であるか。就業規則の解雇事由に該当する労働者の行為等に対し、生活のために不可欠な所得を失わせる解雇という処分が、社会的に見て重すぎるものでないかが問われます。そして、同法ではこの2つの要件を満たさない場合、解雇権を濫用したものとして無効とするとされています。
また、企業経営上の必要性から人員削減のために行われる整理解雇については、判例の積み重ねにより形成された要件により有効性を判断します。(1)人員削減の高い必要性があるか、(2)解雇回避の措置が行われたか、(3)解雇の対象労働者選定に合理性があるか、(4)労働者に対する説明や協議など相当性のある手続きが行われたか、という4つの要件により制限されています。
日本の解雇規制が突出して厳しいとは言い難い
このような厳しい解雇規制により企業間・産業間の労働力の移動が困難となり、それが経済成長を阻害している、という論調も聞かれます。では、欧米主要国と比較した場合、日本の解雇規制は本当に厳しいのでしょうか。
例えば単純にアメリカと比較すると、日本の解雇規制は非常に厳しいものに感じられます。人種・宗教・年齢など一定の理由による解雇規制は存在しますが、アメリカでは原則的に解雇の自由が認められているからです。
しかし、欧州各国と比較するとどうでしょう。ドイツ、フランスなどは雇用保護規制が厳しい国であり、OECD(経済協力開発機構)が示した直近の雇用保護指標を見ても、日本の解雇規制が突出して厳しいとは言い難いのです。
労働力の流動化には、雇用形態の選択肢をより多く提供すべき
また、現状明確なデータにより「解雇規制の緩和」と「労働力の流動化」の関係性を裏付けることは困難です。日本の解雇規制が、長年の判例の蓄積をもって司法により形成されたものであることも考慮すると、労働力の流動化を目的とした規制緩和の議論には、より慎重な態度が必要だと言えるでしょう。
昨今、「限定正社員」を導入する企業が見られるようになりました。日本の正規雇用の特徴である職務や勤務地を限定しない「無限定な雇用契約」ではない、あらかじめ職務などを限定した明確な雇用契約による働き方です。
流動性の高い労働市場を形成するために求められているもの。それは、日本の雇用契約のあり方を見直し、労働者に対し雇用形態の選択肢をより多く提供することではないでしょうか。
(佐々木 淳行/社会保険労務士)
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