報酬引き下げによる介護業界の不安要素
報酬引き下げで人材の確保はより困難に
日本政府は昨年の12月、2015年度の改定で介護事業者に支払われる介護報酬を9年ぶりに引き下げる方針を固めました。全体の引き下げ幅は3%前後となる見通しで、2015年1月の15年度予算編成で決定し、同年4月から実施する予定です。
この介護報酬引き下げにより、業界にどんな影響があるのでしょうか。まず、人材確保が今以上に困難になると予測されます。平成25年賃金構造基本統計調査によると、全産業の平均賃金が約32万円のところ、介護職員の平均賃金は24万円と8万円も下回っています。他業種に比べて賃金が低いことから、介護業界への就職を敬遠する若者は多く、今回の報酬引き下げにより昇給が見込めないとなれば、人材の確保は一層難しくなるでしょう。
正職員の非正規化や外国人、ボランティアの活用には不安の声が
事業所収入の減少に伴い、職員の賃金や賞与のカットも考えられます。国は「この報酬引き下げにより、職員の処遇が低下するようなことがあってはならない」との考えから、「1人月1万円程度の引き上げが可能となるよう財源を確保する」としていますが、消費税10%への増税が見送られた今となっては、その実効性も疑わしいものです。
また、最大の経費である人件費を削るため、正職員の非正規化や、外国人やボランティアの活用を促進する可能性もあります。非正規職員となれば、その就労は不安定なものとなり、離職率も高まります。ボランティアの活用については現場で、「ヘルパーという、プロの職員がやっても大変な仕事を、ボランティアに任せて事故など起きないのか」と不安の声も聞かれます。
さらに、職員研修や人材育成関連の費用を削る事業所も出てくるでしょう。結果、職員の専門知識やスキルの向上が見込めなくなり、介護サービスの質の低下という事態をも招きかねません。そのほか、食材費や光熱費等の削減により、食事の質、介護環境の悪化なども予想され、ひいてはそれらが職員のモチベーション低下、利用者へのサービス低下につながることも容易に想像がつきます。
経営者としての手腕と覚悟が問われる
以上、懸念されるマイナス面ばかりを挙げてきましたが、自ら地域コミュニティーをつくり、介護保険外サービスからの収入を増やしている社会福祉法人や、通所介護のサービス提供時間外に施設の一部を他事業に貸し出す事業所など、介護報酬だけに頼らない経営環境をつくろうという動きも出てきています。要は「国がお金をくれないなら、自ら稼ぐまで」ということです。
私の顧客である介護事業所から、こんなことを言われたことがあります。「これまで、介護報酬の増減には散々振り回されてきた。だから今回も同じ、何ら慌てることはない。職員の賃金を下げるか。そんなことはしない。それ以外のところでなんとかやりくりするのが経営者の仕事」。報酬引き下げを受けてどのような対応をするのか、経営者としての手腕と覚悟が問われる春になりそうです。
(五井 淳子/社会保険労務士)
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