「ああ、アタシも和式は無理」と敬遠する女たち
今回はじっぽさんのブログ『活字中毒R。 』からご寄稿いただきました。
「ああ、アタシも和式は無理」と敬遠する女たち
『幸菌スプレー』(室井滋著・文春文庫)より。
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2007年幕開けまであと数日という土曜、都内のデパートへ、仕事帰りに寄った。
時期的に混雑しているだろうと思ってはいたが、どのフロアーも想像以上。
プレゼントを買うにも、レストランフロアーのどの店に入るにも、気が遠くなるほど長い列に並ばなくてはならない。
いつもの倍以上の時間がかかったが、何とか買い物や食事を終えると、私とマネージャーのタミちゃんはヤレヤレと溜(た)め息をつき合った。
「こりゃあダメだね。どうしても必要な物だけは買ったから、あとは年が明けて、もっと落ち着いている時に来ようよ」
「大体、この時期の店員さんは臨時に雇われた人が混ざってるから、却ってややっこしい。馴(な)れない人に当たっちゃうと、ラッピングもひどい上に時間もかかっちゃうもの」
そして、こんな会話を交わしながら、レストランフロアーの女子トイレに入ったのだが……。
「おお、何と」……というべきか、「やっぱり」というか、トイレがまたまた、目眩(めまい)がしそうな程の長蛇の列で人が溢(あふ)れていた。
もっとも、大きなデパートなのでトイレには更衣室まで付いており、BOXの数もけっこうある。しばらく辛抱すれば、数分から、少なくとも十分の内にBOXには入れるはずだ。
別のフロアーのトイレを回ったところで、似たりよったりだろうと思い、私達はくちくなったお腹を摩(さす)りながら、仕方なくその最後尾に並ぶことにした。
さて、どんどん順番が進んで、自分の番まであと五人といったところで、突然一番先頭の若い女性が、空いたBOXの中をチラリ覗(のぞ)くや否や、クルリ踵(きびす)を返して戻ってきてしまった。
何やらとってもガッカリ顔。
さては、便器の中が”花ざかり”だったに違いないと私も反射的に顔をしかめたが、彼女は新しく先頭に立っている人に向かって言ったのだ。
「スミマセン。あそこ和式のトイレだったんですよ、私、和式が苦手なので、よかったら、お先にどうぞ」……と。
ところがだ。”問題”はこれをきっかけに始まった。
どうぞと言われた女子大生風の女の子が、「ああ、アタシも和式は無理」と言い、クルリ振り返ってさらに後ろの新妻風女性に和式を譲る。
しかし、この新妻風も、「私もダメです。どうぞ」とさらにさらに後ろへ……。
つまり、「苦手」「無理」「ダメ」「嫌い」「できない」と和式トイレを敬遠する言葉のバトンが渡されて、とうとう私の所まで来たというわけだ。
私の前の二人の女性など、どう見ても私より年上のオバチャン二人組なのに。これを“問題!”と言わずして、何と言うべきか。
私は一応、自分の後ろに立っているタミちゃんに、「和式、行っとく?」という目を向けてみたが、「いやいや」と無言で首を横に振ってみせたので、「ならば!!」とキリリ前に向き返った。そして、「私、和式、使わせてもらいます。お・さ・き・に!」と、宣言するように言い放ち、五人とびでBOX通路に躍り出たのであった。
さて、久し振りに和式トイレにしゃがんで、眼下の金隠しを見つめながら、私はしみじみ思った。
「あんたも嫌われたもんだねぇ」……と。
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『幸菌スプレー』(室井滋著・文春文庫)より引用
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784167179151
僕は男なので、世間の“女子トイレ事情”には全くもって疎いのですが、この室井さんの話にはちょっと驚きました。“和式”は、そんなに嫌われているのか……と。
そもそも、男性の場合には、トイレでBOXを使用する機会は“大”の際に限られるので、BOXを利用する頻度は少ないのです。考えてみれば、僕もやっぱり、“どちらでも選べる状況”であれば、“洋式”を選ぶんですけどね。“和式”にずっとしゃがんでいるとけっこう足腰に負担がかかるし、服が汚れたり、跳ね返ってきたりするリスクも高そうだし。デパートなどでも、男性用のBOXは、ほとんど洋式で、和式が数か所、というくらいの割合ではないでしょうか。
とはいえ、この話のように「順番待ちをして並んでいるような切迫した事態でも、和式はパス」ということは、男性の場合にはまずありえません。まあ、男性用トイレというのは、長蛇の列でずっと待たされる、ということも、ほとんどないのですけど。
これを読みながら思い出していたのですが、僕が子どものころ、30年くらい前は、公共の場所の“洋式トイレ”に、あまり良いイメージはありませんでした。「だれかよくわからない他人がお尻(しり)をつけた便器に直に自分も座る」というのは、かなり不潔な気がしていたんですよね。寄生虫とかが、うつるんじゃないか、とか。
しかしながら、最近は、よほど住人にこだわるがある場合を除けば、新しく建てられた家のトイレは、ほとんど洋式です。僕もかれこれ20年近くアパート暮らしをしてきましたが、和式トイレのアパートには住んだことがありません。もちろん、僕は和式トイレをみても驚きはしませんが、これから生まれてくる子どもたちは、“和式トイレ”に唖然(あぜん)とすることがあるかもしれません。
それにしても、女性の場合には、BOXの使用頻度が高いだけに、“洋式か和式か?”というのは、男性以上に大きな問題なんですね。正直、和式だろうが洋式だろうがやることは一緒だし、そんなに長時間入っているのでなければ、和式でチャッチャッと済ませてしまったほうが良いような気がするのですが、やっぱりそうもいかないんだろうなあ。
まあ、今の時代はもう、“和式”とか“洋式”にこだわること自体がナンセンスではあるのでしょう。『ウォシュレット』を開発した日本という国は、ある意味“洋式トイレの最先進国”でもあります。逆に考えれば、これだけ“洋式”が一般化していても、日本の大きな駅や空港やデパートのトイレには、必ずといっていいほど“和式トイレ”が残っているのですから、今でも「和式のほうがいい!」という人は確実に存在している、ということでもあるのでしょうね。
執筆: この記事は今回はじっぽさんのブログ『活字中毒R。 』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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