今月末で著作権保護期間が満了する先人たち‥2014・その2【海外文学編】

イアン・フレミング公式サイト

前回に引き続いて今月末で著作権保護期間を満了し、生前の著作が“自由化”される先人たちを分野ごとに紹介して行きます。ただし、今回紹介する人物の著作が“自由化”されるのは中国や台湾、タイ、マレーシア、カナダ、ニュージーランドなどの国や地域が対象であり、それぞれの先人の本国では2034年(ヨーロッパ各国やオーストラリア、ブラジル等の場合)ないし59年(米国の場合)末まで著作権が存続する予定です。英語圏やフランス語圏の作品であれば『Project Gutenberg Canada』で、日本の『青空文庫』と同様に年明け早々からの原文無償公開が期待されます。

今月末で著作権保護期間が満了する先人たち‥2014・その1【日本文学編】
https://getnews.jp/archives/711260 [リンク]

今回紹介する4名のうち2名はサンフランシスコ講和条約における戦時加算の対象国民ではないため日本では前述した国や地域と同様の条件で来年1月1日から生前の著作が全て“自由化”されますが、他の2名は戦時加算の対象国民です。
日本で来年1月1日からこれらの人物の生前の著作が“自由化”されるのは、サンフランシスコ講和条約が発効した翌年の1953年以降に公表された作品に限られ、それ以外の作品については現行法に基づけば来年4月28日から2025年5月21日まで作品が公表された年によって保護期間を満了する時期が異なります。ただし、今回紹介する2名の代表作はサンフランシスコ講和条約の発効後に公表されているので戦時加算の対象にはなりません。

イアン・フレミング(イギリス・1908-1964、代表作『007』シリーズ)

1908年、ロンドンのウェストミンスター区に保守党下院議員バレンタイン・フレミングの一子として生まれる。イートン・カレッジを卒業後、陸軍士官学校を経て職を転々としロイター通信社でモスクワ支局長を務めた。1939年に海軍情報部へ入り、第二次世界大戦中は中佐として連合国がスペインのフランコ政権の枢軸国入りを阻止するため計画したゴールデンアイ作戦を指揮する。

戦後はジャマイカに別荘を購入し、1953年に今なおスパイの代名詞的存在であるジェームズ・ボンドを主人公にした『007』シリーズの第1作『カジノ・ロワイヤル』を発表。その後もシリーズ12作品を書き、21世紀に入ってもなお新作映画が作られるスパイ小説の金字塔を打ち立てるも1964年に心臓麻痺のため56歳で急逝した。シリーズはその後もジョン・ガードナーら複数人の手で書き継がれている。また、晩年に発表した児童文学作品『チキチキバンバン』は没後の1968年にミュージカル映画化され、映画自体は中ヒットに留まったが主題歌(日本ではペギー葉山が歌唱)は大ヒットを記録した。

イギリスは戦時加算対象国だが『007』シリーズ12作を含めフレミングの主要な作品はサンフランシスコ講和条約が発効した翌年の1953年以降に公表されているので、戦時加算の対象にはならない

リチャード・マッケナ(アメリカ合衆国・1913-1964、代表作『砲艦サンパブロ』『秘密の遊び場』)

1913年、アイダホ州に生まれる。1931年から1953年まで22年間を海軍で工兵として過ごし、朝鮮戦争の後に退役して作家活動に転身した。

長年の兵役で身に着けた科学・工学知識を基にSFを執筆し、1962年に発表した『砲艦サンパブロ』が大ヒットを記録するが1964年に心臓発作のため51歳で急逝した。没後の1966年には代表作『砲艦サンパブロ』が映画化され、短編『秘密の遊び場』がネビュラ賞の最優秀短編に選ばれている。

米国は戦時加算対象国だが、マッケナの主要な作品はサンフランシスコ講和条約が発効した翌年の1953年以降に公表されているので、戦時加算の対象にはならない

フランス・エーミル・シランペー(フィンランド・1888-1964、代表作『聖貧』『若く逝きし者』)

1888年、ロシア帝国支配下にあったフィンランド南西部のハメンキュロに生まれる。薬剤師を志してヘルシンキで学生時代を過ごし、画家のエーロ・ヤルネフェルト(1863-1937)や作曲家のジャン・シベリウス(1865-1957)らと交友関係に在った。1913年に帰郷して小説の執筆を始め、1919年発表の『聖貧』が出世作となる。1931年にはロシア革命に乗じたフィンランドの祖国独立運動を題材とする『若く逝きし者』で高い評価を受け、1939年にノーベル文学賞を受賞した。

フィンランドは戦時加算対象国ではないので、シランペーの著作は公表時期に関わらず日本では今月末に保護期間を満了する。

ワンダ・ワシレフスカヤ(ポーランド→旧ソビエト連邦・1905-1964、代表作『縛められた大地』『虹』)

ポーランド南部・クラクフの農家に生まれ、ヤギェウォ大学で文学を専攻する。1934年から首都ワルシャワに転居し『縛められた大地』を始め第一次世界大戦後の貧困にあえぐ農村の生活を題材にした労働小説を発表した。1939年、ナチス・ドイツのポーランド侵攻によりソビエト連邦へ亡命し、翌1940年に連邦最高会議代議員に就任する。1942年からイズベスチヤ紙でドイツ軍の残虐性を描写した『虹』を連載し、スターリン賞第一席を獲得。

1943年、モスクワでポーランド愛国者同盟結成に参加。ポーランド解放後はウクライナを拠点としながらポーランド語で執筆活動を続けたが、大部分の著作はロシア語に翻訳されてからの出版であった。1951年に『川は燃える』でスターリン賞を受賞。1964年にキエフで亡くなった。

ポーランドおよびウクライナは戦時加算対象国ではないので、ワシレフスカヤの著作は公表時期に関わらず日本では今月末に保護期間を満了する。

(その3につづく)

『Project Gutenberg Canada』 
http://gutenberg.ca/ [リンク]

画像:イアン・フレミング公式サイト
http://www.ianfleming.com/ [リンク]

※この記事はガジェ通ウェブライターの「84oca」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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