北朝鮮工作員を描いた映画『レッド・ファミリー』監督インタビュー「政治的な映画だと敬遠しないで」
韓国の鬼才キム・ギドクがエグゼクティブ・プロデューサー・脚本・編集を務め、2013年「第26回東京国際映画祭観客賞」を受賞した映画『レッド・ファミリー』が、いよいよ10月4日(土)より新宿武蔵野館他全国公開となります。
本作は幸せな暮らしを送っているかに見えるが実は北朝鮮工作員による擬似家族と、その隣人であるケンカの絶えない韓国人家族という対照的な2つの家族の交流を描いた社会派ドラマ。非常に難しいテーマを扱いながら、クスっと笑えるシーンもあり、涙無しでは観られないシーンもあり……。
本作で長編デビューを果たした、“キム・ギドクの秘蔵っ子”イ・ジュヒョン監督の手腕にとにかく脱帽なのです。今回は、イ・ジュヒョン監督にインタビュー。映画製作にまつわる話から、キム・ギドク監督から学んだ事など色々とお話を伺ってきました。
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――本作は、北朝鮮工作員と近代的な韓国の家族を対照的に描くという、タブーに切り込んだテーマを扱っていますが、韓国で批判的な意見が出る事は無かったのでしょうか?
イ・ジュヒョン監督:韓国の皆さんは“赤”という言葉に反応してしまう方が多いですね。物理的な赤い色という事では無くて、赤の思想に。ですから、映画を観る前に「これは左派の映画だ」と決めてつけてしまって、上映前に映画の口コミサイトに0点をつけるという、コメントテロにあいました(笑)。でも、上映がスタートして、実際に映画を観た方が「『レッド・ファミリー』はそういった映画ではないんだよ」と、説得する様なコメントを書いてくださってとても嬉しかったです。思想的な映画なのかと思われ、否定的な意見もありましたが、映画の内容が伝わっている今では受け入れてもらえて良かったです。
――私も昨年の東京国際映画祭で拝見したのですが、最初は設定がすごく面白いなと感じて作品を選んだのだすが、イメージしていたのとは異なるストーリーに驚いて。本当に笑えて、泣けて、胸を打たれる作品でした。
イ・ジュヒョン監督:実はこの映画が東京国際映画祭で上映された事で韓国での上映がはやまったという経緯もあるんです。最初は日本の観客の皆さんにどう受け入れてもらえるのか不安でもあったのですが、東京国際映画祭の会場で皆さんがとても楽しんでくれた姿を観て安心しましたし、こうして正式に上映が決まって嬉しいです。
――本作はキム・ギドク監督が企画を務めてみますが、監督とキム・ギドク監督との出会いはどういったものだったのでしょうか。
イ・ジュヒョン監督:映画をたくさん見始める様になった20代の頃、キム・ギドク監督の『鰐』という作品を観ました。ですから、私の映画人生はキム・ギドク作品から始まったとも言えるかもしれませんね。『鰐』はたくさんの映画館で上映されていたわけでは無いのですが、観た人は皆「韓国映画界に新しい波が来た」と驚いていました。
その後私はフランスに渡り映画の勉強をしていたのですが、韓国に戻ったらキム・ギドク監督にお会いしたいなとずっと思っていて。それが実現した際、自分の撮った作品を監督に渡したら「君は人間を見つめる視点を持っているから気に入った」と言ってくださって、この『レッド・ファミリー』の制作をまかされたのです。不安はもちろんありましたが、その度にキム・ギドク監督に「君なら出来る」と励ましてもらいました。
――実際の映画作りではどの様に関わりましたか?
イ・ジュヒョン監督:これはキム・ギドク監督のスタイルなのですが、シナリオをもらったら翌日から映画作りがスタートするんです。私もシナリオをもらって、すぐに脚色をはじめて、それと同時にキャスティングも行って。最初のシナリオはメッセージ性が強く、少し重すぎる内容に感じたので、キム・ギドク監督とアイデアを交換しながら、笑いと悲しみが混在した今の物語になっていきました。そして、キム・ギドク監督が関わるのはそこまでで、後は全部私にまかせてくれたんですね。撮影に入ってからは全て私の責任であり、努力である、という環境を作ってくださいました。
――笑いと悲しみが混在する……まさに『レッド・ファミリー』はそんな絶妙なバランスで描かれた物語でしたね。
イ・ジュヒョン監督: “体制”の中で色々な事を隠して偽って生きてきた北朝鮮の疑似家族が、色々な出来事や人に出会う事で本当の家族の様な絆を深めていく。それこそがこの映画で伝えたかったメッセージなので、政治的な映画だと敬遠しないで、ぜひご覧になっていただきたいです。
――今日はどうもありがとうございました。
『レッド・ファミリー』ストーリー
誰もがうらやむ理想の家族を絵に描いたような一家。だがその正体は、母国からの密命を遂行するために韓国に潜入している北朝鮮の工作員チーム、サザンカ班だった。表では仲むつまじい4人家族だが、玄関のドアを閉めると階級を重んじ、母国の命令を順守するスパイ集団となる。何かと押し掛けてくる隣人一家を資本主義の隷属者と見下しながらも彼らに憧れを抱き、互いの階級を忘れて家族的な絆を育むようになる4人。そんな中、メンバーの一人が母国に残した妻子が脱北に失敗したとわかり……。
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