生活保護費を上回った最低賃金をめぐる懸念
2014年から生活保護費よりも低かった最低賃金が解消
都道府県ごとの最低賃金引き上げ額が8月に出揃い、全国平均は780円となりました。最低賃金は最低賃金法で定められており、毎年10月に都道府県別最低賃金が順次改定されます。この法律は労働基準監督署が取り締まり、罰則もあることから大変強い法律で、事業所として違反するわけにはいきません。
小泉政権の時には雇用の規制緩和が行われ、派遣労働者などの増加により、非正規労働者のワーキングプアが問題となりました。その際、生活保護費よりも低い最低賃金がやり玉に上がり、2006年より大幅な上昇を始めました。2013年には全国平均15円アップの764円となり、生活保護費よりも低い最低賃金は北海道、宮城、東京、兵庫、広島と5県だけに。そして、本年2014年には16円UPの780円に上がり、生活保護費より低い最低賃金が解消されています。
生活保護費よりも低い最低賃金では、働くよりも生活保護費支給を受けた方が得です。これでは、労働意欲が削がれるのは間違いなく、本年にようやくそれが解消された、というわけです。
最低賃金の上昇は、かえって雇用不安を招く可能性も
ワーキングプアの解消、格差是正のための最低賃金引き上げですが、しかしながらその目的は達成されないのではないか、と経済学者の間で賛否があります。否定的な意見としては、「企業負担が増え、採用を慎重にさせてしまい雇用が増えない」「最低賃金以下の生産性しか持たない、特に若年者等の雇用が奪われ、貧困に陥る」「裕福な世帯主の配偶者などのパート労働者にも、最低賃金が適用されるため」などが挙がっています。
以上により、政府が賃金について介入せず、市場原理に任せるべきだ、という意見も多く聞かれます。現在、フランスのフランソワ・オランド政権では、硬直化した労働市場を改革して失業率を下げるため、実質的な最低賃金の引き下げが検討されたりもしています。民主党政権時代には、最低賃金を全国一律1,000円にするなどと言われていましたが、社会保障費を賄うための増税よりは、最低賃金を上げることの方が国民受けは良いかもしれません。
事実、最低賃金は2006年より毎年大幅に上昇してきました。しかし、政府があまり規制で縛れば企業活力を削ぎ、雇用が増えない可能性が浮上します。ワーキングプアの解消、格差是正を行うのなら、世帯別の給付付き税額控除など、別の手段で行うべきです。いずれにせよ、本年から生活保護費よりも低い最低賃金が解消されたわけですから、今後の最低賃金について、大幅な引き上げは慎重に判断すべきです。
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