日本の優れた科学者たちが残した言葉を、いま読み直す
漫画家・高野文子さんによる、12年ぶりとなる待望の新刊『ドミトリーともきんす』が刊行されました。高野さんの描いた作品には、『絶対安全剃刀』『おともだち』『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』『るきさん』『棒がいっぽん』『黄色い本』等があり、どれも一つ一つの作品の特色は強いですが、本書『ドミトリーともきんす』のテーマは科学。
今回、漫画を描くにあたり高野さんは、実用の助けとなるような漫画、漫画による読書案内を描こうと思ったと言います。そしてこの試みを実現させるために、いつもと違う漫画の描き方をしたのだとか。
「まずは、絵を、気持ちを込めずに描くけいこをしました。(中略)わたしが漫画を描くときには、まず自分の気持ちが一番にありました。今回は、それを見えないところに仕舞いました。自分のことから離れて描く、そういう描き方をしてみようと思いました。道具は製図ペンを使いました。頭からしっぽまで、同じ太さが引けるペンは、じつに静かな絵が描けます」(本書あとがきより)
実用の助けとなるような漫画。そこで高野さんが選んだのは、科学というテーマでした。北海道に実際にあった「白銀荘」という天然雪の観察に用いられた山小屋をモデルにした建物を舞台とし、お母さんのとも子と娘のきん子の親子が、小さな下宿屋さん「ドミトリーともきんす」を営んでいるという設定です。
そしてその下宿屋に住んでいるのが、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹という四人の学生たち。この20世紀に活躍した実在の科学者たちである四人と、とも子、きん子親子による科学を巡る話が展開されていきます。
「”科学する人たち”がいかにして科学の花を咲かせたか――彼らの視線のゆくえを、ノートや黒板の計算の跡を、そしてその言葉をたどること。(中略)日本の優れた科学者たちが残した言葉を、いま読み直すこと。わたしたちはそこから何を知り、気づき、立ち止まるのだろうか」(本書プロローグより)
さらに漫画による読書案内ということで、四人の科学者たちのそれぞれの具体的な著作案内や、彼らの本の中の一節を紹介したりと、科学に関する案内書としても充実した内容となっています。
高野さんの生み出す新たな漫画の世界。高野文子ワールドと科学とが出会うと一体どのような現象が生じるのか、自身の目で体感してみてはいかがでしょうか。
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