アメリカ文学を知れば、村上春樹作品が違って見えてくる?
アメリカ文学を研究する渡辺利雄さんによる『アメリカ文学に触発された日本の小説』が刊行されました。本書はそのタイトルが示すように、エドガー・アラン・ポー『アーサー・ゴードン・ピの物語』と大岡昇平『野火』、ハーマン・メルヴィル『白鯨』と宇能鴻一郎『鯨神』、マーク・トウェイン『不思議な少年』と高橋源一郎『ゴーストバスターズ』といったように、アメリカ文学作品と、そのアメリカ文学に触発されて書かれた日本文学作品とがそれぞれのテーマのもと取り上げられ、比較分析されていきます。
本書の中ではそれらの作品のあらすじも詳細に述べてくれているので、取り上げられている文学作品を全く読んだことがなくとも、不自由なく読み進めていくことが出来ます。
そして最終章では、「アメリカ文学と村上春樹」として、アメリカ文学に影響を受けた村上春樹についての考察が綴られます。渡辺さんは村上春樹の処女作である『風の歌を聴け』を取り上げながら次のように言います。
「村上の多岐にわたるアメリカとの関係は、これまでもさまざまに指摘されてきています。『風の歌を聴け』に限っても、ビーチ・ボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』といったポップ・ミュージックに始まって、アメリカの映画や、テレビ番組、アメリカの巡洋艦が入港すると街中に溢れるMPと水兵たち、山の手のホテルのプールで日光浴を楽しむアメリカ人観光客、主人公が入り浸っている『ジェイズ・バー』、そこで飲むコーラやギムレットなど、さまざまな場面でアメリカとつながっています」
ここで渡辺さんが指摘するように、村上春樹の作品を読んでいると多くのアメリカ的な事物が登場することもあって、多くの方が村上春樹とアメリカ文学とは関係があると認識していることでしょう。その一方で、具体的にアメリカ文学部分のどのような部分に繋がっているのか、さらには、そもそもアメリカ文学とは何か、という深い所まで考える機会は、なかなか少ないのではないでしょうか。
しかし渡辺さんは、そうした問題まで考えることなしには、村上春樹とアメリカとの関係をとらえることは出来ないと言います。そしてその関係を具体的に探るべく、アメリカの歴史や19世紀アメリカ文学をも踏まえながら、形式や技法面からも双方の繋がりを解き明かしていきます。それにより今まで気付かなかった、春樹作品を読み解く新たな視点が見えてくるのです。
本書をきっかけに、渡辺さんの指摘する新たな視点で日米の文学作品を読み直してみたり、あるいは取り上げられている作品で気になったものを実際に手に取ってみてはいかがでしょうか。意外な発見が出来るかもしれません。
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