無戸籍児増加に見る「300日問題」の壁
300日問題について重要な判決が出された
2014年7月17日、重要な最高裁判決が出ました。これは、いわゆる「300日問題」についての判決ですが、そもそも、この300日問題とは、どんな意味があるのでしょうか。民法772条では、妻が夫と離婚してから300日以内に出産した子については、元夫の子と推定されることとしています。これは、父子関係についても早期に法律関係を定めるべきであるという趣旨の下、標準的な懐胎期間を元に定められたとされています。
この推定により、離婚後300日以内に生まれた子どもの出生届を出す場合、父親は「元夫」ということになるわけで、役所は生物学上の父が誰かに関係なく、元夫の記載がある出生届しか受理しません。とはいえ、現実には父親が元夫ではない場合も存在します。そのような場合に備え、法律上は嫡出否認の訴えという手続きを定めています。しかし、問題はこれが訴えられる期間(出生後1年間)や訴えられる当事者(元夫)に制限があるということです。
元夫の子として受理されれば現実と乖離してしまう、との理由で出生届を出さなければ、その子は無戸籍児となります。親子関係不存在確認の訴えを起こしているなどの疎明資料があれば、住民票への記載などの行政サービスを受けられる可能性はありますが、戸籍がないことで不利益を受ける可能性は否定できません。
この問題に対し、昭和44年5月29日、最高裁では懐胎を疑われる時期に別居をしていた、夫婦としての実態がない、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかなどの事情がある際、親子関係不存在確認の訴えにより、これを争うことができるとの判断を下していました。この場合は母や子自身も訴えることができますし、時期の制限もありません。また、法務省では離婚後に懐胎したとの医師の証明書があれば、推定の及ばない子として取り扱う通達を出しています。
この時代の「家族」とは何かを考え、議論する時期が来ている
さて、このように客観的に元夫の子ではないと状況から立証でき、親子関係不存在確認ができるというのであれば、DNA鑑定によっても客観的に立証できるのでは、と問われたのが今回の判断でした。今回は3件の事件に対する判断で、そのうちには現在、生物学上の父親と家族として一緒に暮らしている事案もありました。
しかし、最高裁はこのケースを含め、DNA鑑定によって元夫が生物学上の父ではないことが判明したことだけで、親子関係不存在の訴えは認められないという判断をしました。補足意見では、解釈では解決できない、DNA鑑定をもって父子関係を定めることができることによって起こる法律関係の混乱を危惧するものもありました。親子関係は自分の出自というルーツ的な問題とともに、扶養義務、相続など法律的な問題を孕むものです。これを変更するのに、解釈だけで枠組みを広げていくことはもはや限界だと最高裁が判断したのではないかと思われます。
民法が制定されたのは明治時代、血液型による親子関係の検査方法すら確立されていなかった時のことです。生殖医療技術や検査技術の発達、家族という捉え方の多様化に今の日本の家族法は必ずしも答え切れていないのは、ある意味当然のことかもしれません。もう一度、この時代の家族とは何かを考え、議論する時期に来ていると言えるでしょう。
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