現代の若者が「一人旅」を好む理由
国内の宿泊旅行で「一人旅」増加。背景にPCやスマホの普及
最近、国内の宿泊旅行に関して「一人旅」の増加が目立っています。ある調査によれば、一人旅の全体に対する割合は15.4%。特に20~34歳の男性での割合が多く、26.1%に上っています。また、女性は男性より旅行者数は少ないものの、やはり同様の傾向を示しています。
一人旅が好まれるようになって来た理由として、様々なことが想像されます。ひとつには、PCやスマホの普及が挙げられます。朝の電車通勤時には、PC・スマホでゲームやネットサーフィンをしている人たちが散見されます。スマホをしている最中は、自分の意識は自然周囲から隔離されるので、ある種のパーソナルな空間ができることになります。このような習慣が身につくことによって、人々は一人でいることに慣れてしまっているのでしょう。つまり、スマホさえあれば、一人でいても簡単に他人とつながれますし、様々な情報や映像空間を掌に現出させて楽しむことができますから、「一人=孤独」という感覚は薄れます。
一人旅に付きものの孤独感が紛れるため、わりあいに平気で旅に出られるのではないでしょうか。電波による人とのつながりのお蔭で、現代においては、孤独の体験のされ方が変わってきていると言うことができるかもしれません。あるいは、孤独という状況に対する感受性が鈍くなっているのかもしれません。いずれにしても、一人旅の女性が「何かあったの?」と聞かれたり、宿泊施設が一人客を拒むようなことは過去のことになりつつあるようです。
「個」を取り戻すための時間が貴重になってきている
二つ目に連想されることは、企業などの現代の組織では、個人の管理が益々きつくなっていて、特に大きな組織で働いていると「個」を取り戻すための時間というものがそれだけ貴重になってきているのではないか、ということです。ITによる管理が、組織による個人の行動をますます制御し、自由で創造的な動きを鈍らせる弊害を生むという結果も生んでいることが大問題になっています。
グローバライズされつつある現代の世界経済の流れとして、企業資本の合併、巨大化という現象が著しく、日本でも、小さな企業が、外資系企業を含む大きいものにどんどん吸収されていっている様は、一種の恐さを感じさせます。いわば、帝国主義の再来のようです。このように組織が巨大化すれば、組織の個人への影響力はどうしても一層強くなります。集団行動、人間関係のしがらみから一時的に自由になり、息を吹き返す(=レクリエーション)ためには、一人旅というのは格好の手段かもしれません。
旅の具体的な目的は様々でしょうが、人は一人旅をする中で相方に気遣うこともなく、より自由に自分らしく物事を感じ、考えることに集中し、振る舞い易くなります。日常の人間関係での気配りもいりません。忙しい日々の仕事の中で、ともすれば失いそうになりかねない自分、あるいは、まだ出会ったことのない自分自身を発見することができるかもしれません。
一人旅は、想像力・創造性を解放する機会に
スティーヴ・ジョブズは、企業の中で働いていましたが、自分の新しいアイデアであるPCの開発と販売の仕事は、会社の組織の縛りの中では到底実現できないため、自宅のガレージを使ってアップル社を立ち上げました。このように創造的な仕事というものは、どんなものでも常に個人が生み出すものです。個人の力が発揮されるためには、自由、自発性が保障されなければなりません。一人旅は日頃の社会的な制約から一時解放され、想像力・創造性を解放する機会ともなり得るでしょう。
個人が価値を創造し、その新しい価値(製品)を世界に広めるのが組織力です。企業は、この両輪からなっています。「個」への圧迫の傾向が強まり、ベンチャー企業の立ち上げも増えつつある今、まさに若手のホープ社員といった年代の若者たちが自分に出会う旅を始めています。私は、健康的な動きではないかと思います。
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