ドイツ・ロックの四半世紀を追う――『クラウトロック大全』
小柳カヲル著『クラウトロック大全』(ele-king books)
メディア『ele-king』より、『House Definitive』に続いて、ディスク・ガイド本として『クラウトロック大全』が刊行された。
クラウト・ロックとは、1960年代後半以降に生まれたドイツの独自に進化したロック・ミュージックのことだ。この“独自”が異様すぎるのだ。単なる民族的なフレーズや現地の言葉で歌うなど、彼らの前では、その程度は”独自”ではない。
電子楽器を持ち、シーケンスに演奏させギターやドラムを演奏の外に追いやったグループもいれば、メロディを削ぎ落とし執拗なほどにシンプルなビートを繰り返すものも、元の演奏を解体し”編集”によって楽曲を作るものも現れた。ロックというコンセプトをインプットしながらも、アウトプットには、とにかくさまざまな意味で過剰な進化がなされたと言えるだろう。
クラフトワーク、カン、ノイ!、クラスター、タンジェリン・ドリーム、マニュエル・ゲッチンといったアーティストたちの名前を聴かずとも、いまや世界中のインディ・ロックを聴いていれば、ノイ!やカンのハンマービートを聴かない日がないといっても良いかもしれない。もちろんテクノやハウス、そしてエレクトロニック・ポップ・ミュージックと言えば、クラフトワークを無視することもできない。クラウト・ロックと言えば、ポップ・ミュージックの参照先としてその存在感は日増しに大きくしている。
日本でも坂本慎太郎やオウガ・ユー・アスホールなどなど、その影響を公言するアーティストも多い。
本著はそんな“ドイツのロック”を追ったディスク・ガイドだ。その範囲の中心は1960年代〜1980年代(のアーティストたちの現在のリリース作が少々)。クラウト・ロックと言えば、1960年代末から1970年代のいわゆるジャーマン・プログレと呼ばれる実験的なロックの一群を指すことが多いが、本著の特筆すべき点はやはり、その後の1980年代のジャーマン・ニューウェイヴ=ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ(とはいえ著者によれば、あまり現地のアーティストに歓迎されている名前ではないようだ)を地続きで紹介している点だ。
ここのところのD.A.F.やパレ・シャンブルグの再結成&来日ライヴ、またはエレクトロ・ポップやインダストリアル・リヴァイヴァルなどなどもあり、ドイツの1980年代のそうした流れも非常に注目が集まっている。しかしながら、そうした年代のドイツ・ロックの日本語のリファレンス本がなかったことを考えると、まさにドンピシャなタイミングと言えるだろう。また以前、プログレ期のものも、日本語で読めるこの手のガイド本として、すっきりとセレクトされていて読みやすい。また巻頭と巻末などの当時の写真も貴重なもので見応えがある。
著者は、クラウト・ロックをはじめアンダーグラウンド・サイケデリック・ミュージックの日本への紹介者として多くの作品をリリースする〈キャプテン・トリップ〉の元スタッフ、小柳カヲル。いわゆるディスク・ガイド本にありがちな共著の形をとっていないため、ディスク・ガイドでありながらしっかりとヒストリー本のようなそんな流れもを感じることもできる。そんなガイド本となっている。
(河村)
関連情報
・カンの最高傑作と誉れ高い『Future Days』はOTOTOYでも配信中
http://ototoy.jp/_/default/ p/29298
・ノイ!の突然の86年の再結成作『NEU! 86』はOTOTOYでも配信中
http://ototoy.jp/_/default/ p/26395
・オウガ・ユー・アスホールの『100年後』はOTOTOYでも配信中
http://ototoy.jp/_/default/ p/29829
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。