さつき が てんこもりに聞く! ひきこもり電波系プロデューサーの『身辺整理』とは

さつき が てんこもりに聞く! ひきこもり電波系プロデューサーの『身辺整理』とは

さつき が てんこもりさん
2012年6月にリリースした1stボーカロイドアルバム『人畜無害』から丸2年。6月25日(水)に2ndアルバム『身辺整理』をリリースした、“電波系プロデューサー”さつき が てんこもりさん。

インターネットを活動の拠点とし、ボーカロイド楽曲の制作をはじめ、アイドルグループ・私立恵比寿中学、TVアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』などへの楽曲提供のほか、ニコニコ動画の公式番組「ニコラジ」のレギュラーアシスタントを務めるなど、ジャンルを超えた幅広い活躍で注目を集めるアーティストだ。

今回は、そんなさつきさんが持つ独特な感性を探るべく、主にインターネット的な視点から、思うがままに語っていただいた。

つくり終えた瞬間には「もう二度とつくるもんか!」と思う

──2012年6月に発売した『人畜無害』から丸2年ぶりの新作アルバムとなりますが、この2年間、ご自身の中でなにか変化はございましたか?

さつき が てんこもり(以下、さつき) これは聞かれるだろうなあと思って事前に色々考えてみたんですが、実際のところ、僕自身はあまり変わっていないんですよね。

おかげさまで色んなお仕事をやらせていただいていて、その合間にボカロを使って、半ば趣味で好きなようにつくった曲が詰まっているのが、この『身辺整理』になっていると思います。

──作曲や選曲のポイントはどんなところにありますか?

さつき 音はもちろん、歌詞、世界観の構築とか、言葉にギミックを組み込むのが好きなので、そこを楽しんでいただけたらと思います。

選曲については、『人畜無害』以降を網羅する形で全部入れていただいているので、特別な作業はしていません。このアルバムを聴いてもらったら、さつき が てんこもりのこれまでの復習をしていただけますので、ぜひ全国のCDショップでお買い求めください。それで、「こいつ何なんだ?」って思っていただければ光栄です。

【ニコニコ動画】さつき が てんこもり 『身辺整理』 クロスフェード
──『人畜無害』をつくり終えた時から、今回の『身辺整理』の構想はあったのでしょうか?

さつき そういう意識は全くなかったですね。というのも、この2年間に限らずいつもそうなんですが、アルバムや曲をつくり終わった後は「音楽なんて二度とつくらねえ!」って思っているんです。

──ええっ!? それはなぜですか?

さつき だって、音楽をつくるのって、すごく忙しいし、大変じゃないですか。もう嫌になっちゃうんですよね。

それでしばらく何もつくらない時間ができるんですが、基本的に自分のことをダメな人間だと思っているところがあるので、ふと「今までたまたまつくれていただけで、もうできないんじゃないか」っていう、危機感や焦燥感みたいな感覚がやってくるんですね。

怖いから、とりあえず試しにつくってみて「よし、できるじゃん」って思った瞬間には、また「二度とつくるか!」って思う(笑)。ずっとそんな繰り返しです。

──燃え尽き症候群のような。

さつき 近いと思います。

──そういうお話を聞くと、『身辺整理』というアルバムタイトルからは、少し不穏な印象を受けなくもないのですが……。

さつき どうでしょうか! さっきも言いましたが、ボカロのアルバムは二度とつくらないと思ってますからね、今。

──もしかしたら、これが最後のボカロアルバムになるかもしれないと!?

さつき 頼まれても、もうつくりません!

──えええ……(苦笑)。

一話完結型の音楽

──最近のインターネットについて、なにか思うところはありますか?

さつき 普段からかなりインターネットに張り付いているので、色々考えることはありますが……文脈って全然重要視されなくなったなーと思いますね。作者の経歴とかは関係なく、目の前にある作品だけを見て・聴いて判断されることが多い。その良し悪しは置いておいて、取っ付きやすさは確かにあります。

例えば僕、『ゴルゴ13』好きなんですけど、床屋さんとかでパッと1話だけ読んでもおもしろいんですよ。だから同じように、どこから聞いても楽しめる、一話完結型の曲づくりを心がけているんです。

──なるほど、一話完結型。

さつき 決して批判する気持ちはないんですが、今のボーカロイドシーンって、曲よりもボカロPさんにウェイトを置いている気がしているんです。シリーズ化を期待されているというか、いつもの作風と違う曲をつくったら、「なんか違う」みたいに言われたりする。嫌がる人も多いんじゃないかなと。僕は、それはやっぱりインターネット的ではないと思っていて。

「さつき が てんこもり」なんて後で覚えてもらえたらいいな、というぐらいで、まずは動画を見て、曲を聴いて、少しでも興味をもってもらいたいっていうのは強く思っています。

受け手のアバターをイメージ

──『身辺整理』はボーカロイドアルバムになりましたが、これまでに、アイドルグループ・私立恵比寿中学や、アニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』のテーマソングなど、ボーカロイド以外のジャンルでも楽曲をつくられてきたと思います。それぞれ作曲時にはどんなことを意識されますか?

さつき 人間とボカロの違いということであれば、そこに違いは全くありません。聞かせたい年齢層やファン層は意識して、それに合わせて歌詞や世界観のギミックを調整していくような感覚はあります。でもそれはボーカルとは関係ありません。

──その年齢層・ファン層というのは、どうやってイメージをふくらませるのですか? やはりインターネット?

さつき さすがにTwitterからだけでは、その人の年齢は掴めません。オフラインでないと。

アイドルならライブ、ボカロだったらボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)、コミケ(コミックマーケット)辺りにいくと、なんとなくの顔がわかる。そういうところに行くと、僕の中でファンの平均的な“アバター”がなんとなく見えてくるんです。

例えばボカロファンだったら、高1・高2くらいで、クラスとかでそんなに主張の強い方ではなくて、カバンにボカロキャラのキーホルダーをつけるくらいの微妙なバランスで趣味の主張をして共有できる友達を探している。でも、バイトの給料とかお年玉とかで、足繁くボーマスとかには通っていて……そんなちょっと引っ込み思案の奴らの好きそうなものをつくりたいなーと思うんです。

──そんな具体的なところまでイメージできるものなんですね。

さつき いつもそこだけはかなり気にしています。

人を見るのが好き、というのもあります。こういうひねくれたことばかりやっているから友達いないんですけどね。「あだ名つけ」は、有吉弘行さんよりもずっと前からやっていましたよ!

超おもしろいんですよね。学生の頃とか、マックでちょうど交差点を見下ろせる席を陣取って、3時間でも4時間でも、ひたすら人を眺めてはあだ名をつけていました。

そこまで可愛いわけではないんだけど、オシャレを頑張っているような女の子は「友達が読モ」とか、若者の波の中にかっちりスーツを着た中年サラリーマン2人組が歩いてきたら「御社弊社」コンビだなー、とか。

──ははは(笑)。その頃から今に通ずる言葉遊びのセンスを磨かれていたんですね。

さつき 学校の先生にもよく「コピーライターになりなさい」って言われた覚えがありますね。

実際、曲をつくる時も作曲より作詞の方が断然楽しいです。作詞だけだったらいくらでもやりますってぐらい。何せもう曲は二度とつくりたくないので(笑)。

スタッフ (苦笑)

友達はいません

──そんなさつきさんは、ラジオのパーソナリティになったり、週刊ヤングジャンプ増刊『アオハル』でマンガの原作を担当したり、音楽活動以外にも様々な肩書きをお持ちだと思うのですが、目指すクリエイター像などはあるのでしょうか?

さつき 最終的にはクレープ屋さんになりたいと思っていますね。女子高生と触れ合う機会が欲しいと思って。「おじさん昔、音楽つくってたんだよー、知ってるー?」みたいな話をするんです。

──それはまたすごい振れ幅の転身になりますね……。音楽をつくりたくない、というのはうかがいましたが、他のお仕事についても同じ気持ちなのですか?

さつき 色々やらせていただいていますが、現状こんな風になっているのは、やりたいからじゃなくって、ひとえに友達がいないからだと思うんですよね!!!!!!!!!! ここ、掲載される時は「!」を10個くらい使ってください。

──友達がいないから、とはつまりどういうことでしょうか……?

さつき やりたい企画とかがあったら、まずその筋の友達と協力するのが賢い方法だと思うんですけど、友達がいない場合には、自分で足動かしてやるしかないじゃないですか。そうすると、結果的に自分が舵取っている形になるんですけど、めちゃくちゃ疲れるんですよね。

自他共に認めるニート体質なので、本当はただ誰かに乗っかっていきたい気持ちが強いんです。加えてひきこもり気質も強いので、もう全然ダメですね(笑)。

──でも、ライブやイベントの際はどうしてるんですか?

さつき ライブやイベントは「さつき が てんこもり」として行くので、インターネットの延長だと思っています。だから行けます。相変わらず緊張はしますが……。ひきこもりの定義と矛盾するかもしれませんが、「中の人」が関係ないという意味では、海外旅行とかも好きです。

ひきこもりのネイティブ

──ひきこもりでも海外に行きたい、というのはどういうことですか?

さつき 僕らにとっての地元、ネイティブって、インターネットなんです。そこは、基本的に誰が何をしていようが知ったこっちゃない世界。

例えば、素っ裸の写真をアップロードしたら、ネットだろうがリアルだろうが逮捕されるかもしれませんが、その辺が限界で、そこまでだったら普段街中でちょっと恥ずかしい様な事をしていてもわからないですよね。曲をつくろうが、小説を書こうが、何をやっても良くて、基本的にお互いが匿名に近い状態でしか干渉しない空間ですね。

海外も同じで、まわりに自分のことを知っている奴なんてまずいないんですよ。小学校の同級生だったけど、その後疎遠になって挨拶しようか迷うような、微妙なレベルの顔見知りとすれ違ってモヤモヤする事もないし。その土地の人も、お互いに何をやっていようが関係がない。

──インターネットにひきこもるのも、海外にいるのも変わらないと。

さつき だから海外に行くのって、ひきこもりのネイティブと何も変わらないんですよ。ただ注意したいのは、観光ではないということです。有名な観光スポットなんて、すでにストリートビューで来てますから(笑)。

そうじゃなくって、ガイドマップに載らないような古ぼけた居酒屋とか、誰の目も届かないような場所をひたすら歩いて、その場所に馴染んでいくっていうのが、インターネットにいる自分と何も変わらないような気がするんですよ。だから海外は好きです。

もちろん、国内でも遠出します。北海道のすすきのに行った時に、完全に修羅場になっているキャバ嬢とおっさんを見かけたんです。「あー殴った」、「あー警察来ちゃったよ」「twitterに上げようかな」「ニコ生で実況中継しようかな」なんて思いながら、またそこにいる人たちにあだ名をつけている瞬間、完全にオフラインなのに凄いインターネットを感じます。

──なるほど。さつきさんがいかにインターネットで生きてきた方なのか、その一部を垣間見れた気がします。最後に、これからの夢について聞かせていただけますか?

さつき 「うすあわせ」ってあるじゃないですか。高島屋とかのギフトコーナーにあるやつ。うすあわせを自腹で、何のためらいもなく、好きなだけ買えるぐらいの売れっ子になるのが夢です。

あ、音楽以外の方法で売れて、ですね(笑)。

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