ギリシャ支援と「IMFの行方」

ニューノーマルの理

IMFがギリシャに緊急融資を決定しましたが、その返済を考えると、ギリシャと世界の今後への心配は消えません。今回は柊栄一郎さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

ギリシャ支援と「IMFの行方」
「ギリシャの銀行、ECBに差し出す担保が不足も-シティグループ」『Bloomberg.co.jp』
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920000&sid=a7whX5S7soP0

ギリシャ国債が、とうとうジャンク債扱いになった。以前に、ギリシャ国債にまつわる事を書いていたので、恐縮ながら自分のエントリーから。
——
フィッチ *1 が2段階引き下げた現在、残り2社も後追い体勢に入っているだろう。ギリシャは今年中にリーチをかけられるんじゃーないだろうか?
(中略)
来年1月から厳格化、なんて言ってるトリシェ総裁なのですが、厳格どころか緩和する羽目に陥りそうな予感。
——
「決算前夜」 2010/04/13 『ニューノーマルの理』より引用
http://ameblo.jp/eiichiro44/entry-10506967822.html

思っていたよりも早い展開で、その後ムーディーズ *2 、S&P *3 と早々と追随してきた。

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図1:格付け指標
「Rating Klassen (S&P, Moody’s, Fitch)」『FiLS FinanzBlog』より引用
http://www.fils.at/2007/08/22/rating-klassen-sp-moodys-fitch

今現在のECB *4 の担保下限は「BBB-」(赤枠)、ギリシャ格付けはS&Pが「BB+」、ムーディーズが「A3」、フィッチが「BBB-」(青枠)。 ムーディーズのA3が効いており、ECBからの資金調達はまだ可能という事だが、ムーディーズ1社がギリシャの命運を握っている、といっても過言ではない状況となってきた。

ポルトガルも追いつめられてきた事を考えると、ECBは案の定というか当然のごとくというか、さらなる担保基準の引き下げに迫られてきたわけだ。 欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、厳格化するとかしないとかグズグズ言いながら、結局は緩和する羽目になるだろう。

法的にはギリシャを救済できない事になっているECBですが、ギリシャが市場からの資金供給が途絶える可能性を考えると、今後も格下げと担保基準引き下げの「いたちごっこ」は続くように思える。 何しろギリシャの後は、そのポルトガル、スペインの「イベリア危機」が迫っている。

ギリシャ支援とIMFの行方
とまぁ、ECBと国債市場からの資金調達に触れた後で何なのですが、ギリシャは結局、IMF *5 とユーロ圏からの資金に大きく依存する状況になっている。

「IMF、ギリシャ支援策の拠出額引き上げを協議」 2010/04/28 『ロイター』参照
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-15041820100427

IMFによる救済は、批判一色、どの国からも敬遠されているのですが、今更ながらその理由。IMFは、「借入国の経済成長は考えず、貸し手として確実な返済を視野に入れた結果、厳しい条件をごり押しする」というレッテルを貼られている。 要するに、緊縮財政を重点とした構造調整プログラムが押し付けられる、という解釈。

過去数年、IMFプログラムを実施した国々を見ても、短期間では実施が困難な緊縮財政が適用され、その結果、その国の政権は国民からの支持がなくなり、政権崩壊という流れになっている。

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図2:ヨーロッパにおけるIMFプログラム実行国
「IMFSurvey Magazine: Countries & Regions: Financial Sector Key to European Recovery: IMF」『IMF』より引用
http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2009/car042409c.htm

IMFの融資プログラムは、 SBA (スタンドバイ取極) *6 が一般的となっており、モルドバとポーランド以外の国々には、そのSBAが適用されている。 緊縮財政を適用された結果、ラトビアは2009年2月に内閣総辞職、ハンガリーは3月に首相が辞任し、アイスランドは4月に政権交代。そしてルーマニアも10月に政権崩壊、となっている。

よって今回救済されるであろうギリシャ(国民)も、当然のごとく、これを危惧(きぐ)しているわけだ。

「ギリシャ、国民の大半がEU・IMFへの支援要請を支持せず=世論調査」 2010/04/27 『ロイター』
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnJS867894320100427

「期間3年のローンの下で資金を提供する可能性」(ロイター)という事で、SBAが実施される可能性は高いが、今回はEUとの協調融資という事で、従来とは違った融資条件になる可能性もある。
さらには、他の意味でも従来とは違った支援アプローチになる可能性はあると思うのですが、その理由として、金融危機以降、世界銀行グループ (IBRD *7 ・IDA *8 ・IFC *9 ・MIGA *10 ・ICSID *11 )」とIMFはよく比較されており、世銀(の改革)の方が高く評価されている、という背景がある。

国際経済研究家の大田英明氏 によると、90年代以降、ほとんど進歩しないIMFに対して、世界銀行の方は支援アプローチの改革を重ねてきた、となっており、スティグリッツの在籍した3年間も世界銀行の改革に大きく貢献したとの事。その結果、借入国の状況を考慮せず、プログラムをごり押しするIMFに対して、あくまで現状に即したアプローチを行う世界銀行が評価されがちな事から、融通性のある支援にIMFが傾斜する可能性もある。

何よりIMF自体が、そのような状況を踏まえてか、昨年「融資改革」を公表している。 *12
よって今回のギリシャ支援は、IMF改革という意味でも多少の変化が見られるかもしれない。

アメリカの「ブレトンウッズ機関」
先日、中国が3位 *13 になったとかいう世界銀行の議決権だが、世界銀行にしろIMFにしろアメリカが15%以上を保持している中では大した変化ではない。(重要事項は85%以上の同意)

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図3:IMF加盟国投票権比率
「China urges rich countries to share」By Fu Jing and Huang Xiangyang 『中国日報』より引用
http://www.chinadaily.com.cn/china/2009-09/16/content_8695801.htm

「投票権の拡大が発言権につながる」、という一般的認識だが、アメリカ一国で絶対的な拒否権を持っている事を考えると、その下の順位が入れ替わっても大した変化はない事になる。

世界銀行投票権の改革に比べ、IMF投票権(上図)の改革は来年完了する見込みだが、アメリカが「15%」を放棄する事は今後もなく、そういう意味で「本当の議決権改革」は遠い。

そう考えると、IMF介入はアメリカの欧州介入であり、今後の欧州危機連鎖を考えると、ブレトンウッズ機関(世界銀行&IMF)の出番は増えそうな勢い。欧州からすると本当に嫌な展開になってきた(特にドイツ)。

*1:Fitch Ratings (フィッチ・レーティングス)。世界三大格付機関のひとつ。
http://www.fitchratings.co.jp/
*2:Moody’s(ムーディーズ)。世界三大格付機関のひとつ。
http://www.moodys.co.jp/
*3:Standard & Poor’s (スタンダード&プアーズ)。世界三大格付機関のひとつ。
http://www2.standardandpoors.com/portal/site/sp/jp/
*4:European Central Bank の略。「欧州中央銀行」『ウィキペディア(Wikipedia)』参照
http://ja.wikipedia.org/wiki/欧州中央銀行
*5:International Monetary Fund の略。「国際通貨基金」『ウィキペディア(Wikipedia)』参照
http://ja.wikipedia.org/wiki/国際通貨基金
*6:Stand By Arrangement の略。短期的な国際収支問題に対処するよう考案されており、最も広く利用されているIMFのファシリティー。
「IMFの融資制度(ファクトシート)」『IMF(International Monetary Fund)』参照
http://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/howlendj.htm
*7:the International Bank for Reconstruction and Development の略。国際復興開発銀行。第二次世界大戦後の各国の経済面での復興を援助するために設立された、本部をワシントンD.C.に置く国際金融機関。一般には世界銀行とも呼ばれる。
「国際復興開発銀行」『ウィキペディア(Wikipedia)』参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/国際復興開発銀行
*8:International Development Association の略。国際開発協会。最貧国に対する長期無利息の借款を世界銀行(IBRD)よりも長期に貸し出す業務を行っている国連の専門機関。
「国際開発協会」『ウィキペディア(Wikipedia)』参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/国際開発協会
*9:International Finance Corporation の略。国際金融公社。開発途上国の民間セクターの活動を支援する世界銀行グループの一機関。
「国際金融公社(IFC)」『世界銀行プロフェッショナル』参照。
http://www.wbpro.jp/worldbank/index.html#IFC
*10:Multilateral Investment Guarantee Agency の略。多数国間投資保証機関。開発途上国への民間直接投資に関連した非商業・政治リスクに対する保証を提供することで、民間企業の開発途上国への海外直接投資を促進し、経済成長、貧困削減、生活水準の向上へ貢献することを目的とする世界銀行グループの構成機関。
「多数国間投資保証機関(MIGA)」『世界銀行プロフェッショナル』参照。
http://www.wbpro.jp/worldbank/index.html#MIGA
*11:International Centre for Settlement of Investment Disputes の略。国際投資紛争解決センター。投資紛争解決条約に基づき設立された、国際投資に関連した外国投資家と現地国政府の間の係争を調停・仲裁する国際機関。
「国際投資紛争解決センター(ICSID)」『世界銀行プロフェッショナル』参照。
http://www.wbpro.jp/worldbank/index.html#ICSID
*12: 「IMF,融資に際しての新たなルールを構築」 By Camilla Andersen 2009/4/13 『IMFサーベイ・オンライン』
http://www.imf.org/external/japanese/pubs/ft/survey/so/2009/pol041309aj.pdf
*13:「世銀議決権、中国3位に…6月決定へ」 2010/04/26 読売新聞 『YOMIURI ONLINE』
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20100426-OYT8T00837.htm

執筆: この記事は柊栄一郎さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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