「できそこないの男たち」とは一概には言えない?

サイエンスあれこれ

性別を決定する遺伝子の仕組みについて、新しい見解の研究が発表されたようです。研究が進めば、いつか性転換も簡単にできるようになってしまうかも。今回はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

「できそこないの男たち」とは一概には言えない?
「できそこないの男たち」 *1 とは、御存知、分子生物学者兼作家である福岡伸一氏の著書であり、その中で氏は、「生命の基本設計(デフォルト)は女である」と述べておられます。1991年に最終的に証明された性決定遺伝子Sry(スライ)の登場以来、哺乳(ほにゅう)類は、このSry遺伝子をもつ場合のみオスになるということがわかり、その遺伝子がなければ、自然にメスになることから、デフォルトはメスであるという見方が一般的でした。しかし、昨年の12月に『Cell』に発表された論文(購読無料)*2 によると、どうも一概にそうとも言い切れないようなのです。

*1:「できそこないの男たち」福岡伸一/著 光文社新書
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334034740

*2:「Somatic Sex Reprogramming of Adult Ovaries to Testes by FOXL2 Ablation」『Cell』
http://www.cell.com/retrieve/pii/S0092867409014330

成人メスマウス(メスなのでSry遺伝子はもっていません)で、Foxl2という遺伝子を完全に働かなくさせると、3週間で卵巣が精巣に変化し、その精巣からは男性ホルモンまで作られ始めることがわかったのです。つまり、Sry遺伝子がないにも関わらず、オス化したというわけです。

Foxl2遺伝子が働かなくなると、卵巣ではSox9という遺伝子が活性化されてきます。実は、このSox9という遺伝子は、Sry遺伝子によって活性化されるターゲット遺伝子のひとつで、Sry遺伝子をもつオスマウスでは、このSox9遺伝子を活性化することでオス化を実現しています。しかし、メスマウスでは、Sry遺伝子がないために、Sox9遺伝子は活性化されず、オスにならずに済んでいるのです。

今回の論文では、Foxl2遺伝子を働かなくさせると、Sox9遺伝子の活性化を調節しているDNA領域が活性化されること、正常にFoxl2遺伝子が働いているメスマウスでは、Foxl2遺伝子から作られるタンパク質が、直接Sox9遺伝子の活性化を調節しているDNA領域に結合していることを示して、次のようにメカニズムを推測しています。

正常にFoxl2遺伝子が働いているメスマウスでは、この遺伝子から作られるタンパク質が、Sox9遺伝子の活性化を調節しているDNA領域に結合して、その活性化を抑制しているけれど、Foxl2遺伝子を働かなくさせると、この抑制がはずれて、Sox9遺伝子が活性化し、オス化が始まると。

つまり、メスであり続けるためには、Sry遺伝子を持たないというだけでは不十分で、Foxl2遺伝子を使って、常にSox9遺伝子の活性化を抑制し続けなければならないのです。Sox9遺伝子の活性化を積極的に抑制し続けなければ、Sry遺伝子がなくてもSox9遺伝子が活性化され、オス化するというのでは、オスがデフォルトと考えられなくもなく、デフォルトがメスだとは、必ずしも言い切れなくなったというわけです。

Sry遺伝子によるSox9遺伝子の活性化(オス化)と、Foxl2遺伝子によるSox9遺伝子の沈静化(メス化)、どちらが優位になるのかが単に発生過程における遺伝子活性化のタイミングの問題なのか、質的な問題なのか。Sry遺伝子をもつオスマウスで、Foxl2遺伝子を活性化することでメス化できれば、質的な問題ではなく、性の転換はこれまで考えられていたほど高い障壁ではないということになりそうなのですが、今回の論文ではその点には触れられていなかったように思います。間違っていたらすいません……。

執筆: この記事はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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