ニコニコ動画で新規客獲得に成功した「作ってみた業者」とは?(後編)

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本人の好きとか楽しいという純粋な気持ちが前面に出ているからこそ、「宣伝」ということに厳しい『ニコニコ動画』ユーザーにも良い形で受け入れられているのかもしれません。今回はesu-keiさんのブログ『esu-kei_text』からご寄稿いただいた記事の後編です。

ニコニコ動画で新規客獲得に成功した「作ってみた業者」とは?(後編)
『ニコニコ動画』において、「御社」とは、主に「有限会社タップ」のことを指す。

「有限会社タップ」は、資本金300万円、従業員5名、看板や装飾の製作および施工を行っている会社である。

そんな小規模な会社が、先日、プレミアム(有料)会員数70万人を突破したと喧伝(けんでん)された『ニコニコ動画』において、「御社」という代名詞の象徴として知られるようになったのはなぜか。

それは、次の動画がきっかけである。
「作ってみた」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1391125

ニコニコ動画で新規客獲得に成功した「作ってみた業者」とは?(前編) より
https://getnews.jp/archives/58461

(前編からのつづき)

◆「また御社か」と呼ばれるようになるまで
動画コメントを見ればわかることだが、ほとんどのニコニコ動画ユーザは、この「御社」の名前を知らない。これは、合理的な「宣伝」ではない、と思われるかもしれないが、だからこそ、業者が嫌われるニコニコ動画において、例外的に「御社」シリーズが支持されるようになったのだ。

決して、会社の一大プロジェクトとして、これらの動画は公開されたわけではない。これらは、勤務時間外である土日に、社長のみずからの手によって、余興として製作されたものばかりなのだ。

しかし、反響が良かったせいか、それとも、社長の『初音ミク』への愛情がそうさせたのか、最初の動画からしばらくは、月二回のペースで、新作がどんどん公開されていった。

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気づけば、会社の受付嬢が『初音ミク』となり、

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PCも『初音ミク』となり、

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会社の壁紙ですら『初音ミク』となり、

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トラックのシートをも『初音ミク』に染められたのである。

どれもこれも、製作・施工となれば、値が張るものばかり。
そんな社長の旺盛(おうせい)すぎる行動力に、『ニコニコ動画』ユーザーはあきれた。

「また御社かw」
「おい、仕事しろ、社長!」

そして、どんどん会社の備品が「初音ミク」色に染まるなか、「自分も同じようなグッズが欲しい」というユーザーが出てくるようになった。このように、「御社」は、個人客を獲得することができたのだ。

権利関係については詳しく知らないが、「この会社に製作してほしい!」と思う人が出てきたら、それらのハードルをクリアすることは決して難しいものではないはずだ。

もちろん、「御社」シリーズの成功は、うまく時流に乗った運の良さが欠かせないだろう。
2007年後半の爆発的な『初音ミク』ブームがあったからこそ、この「御社」動画は、多くの視聴者を得ることができたのだ。

しかし、たとえ実益につながらなくても、会社の宣伝にはならなくても、この社長は動画を公開することをやめなかったはずだ。動画内で会社名を連呼するようなことはせず、みずからの欲望のおもむくまま、土日の社員がいない工場でせっせと『初音ミク』グッズを作っていただろう。そんな社長の人柄が動画からうかがえたからこそ、ユーザは心置きなく、動画を楽しむことができたのだ。

この「御社」シリーズがカテゴライズされている「ニコニコ技術部」の動画は、明らかに大学の研究室としか思えない場所で製作している動画があれば、この「御社」シリーズのように工場で製作されているものだってある。

果たして、それが許された行為なのかどうかはユーザの知るところではない。そんな責任問題はさておき、それぞれの人の経験が裏打ちされた技術を見られることが、「ニコニコ技術部」の魅力なのだ。

◆「御社」の一般認知度は?
『ニコニコ動画』での人気が実益につながったという、非常にレアなケースである「御社」シリーズ。動画が話題を呼ぶことで、「法人80:個人20」だった注文が「法人50:個人50」になったのは、前編で述べた通りである。

決して、この「御社」は、『ニコニコ動画』によって、倒産をまぬがれた、というものではない。経営が安定していたからこそ、これらの動画が公開する余裕があった、と考えるのが妥当だ。

それは、「御社」シリーズの動画が、製作光景をあますことなく見せていることからわかる。みずからの仕事にプライドを持っているからこそ、その技術をエンターテイメントとして、動画で公開しているのだ。

それにしても、会社を『初音ミク』色に染め、「元祖痛社」として呼ばれるようになったことは、大事な法人客を逃がすようなことはなかったのだろうか、と心配になる人もいるかもしれない。しかし、『ニコニコ動画』でのブームも、一般認知度はそれほど高くないようだ。

これら、「御社」社長のインタビューは、こちらから読むことができる。

「また御社か! ニコ動でブレイク「作ってみた業者」を取材した」『ASCII.jp』
http://ascii.jp/elem/000/000/496/496299/

はっきりいって、今回のエントリは、このインタビュー記事の二番煎じであるのだが、ここでは、次のような「御社」社長の言葉が掲載されている。
———
「(リアルだと)それがぜんぜん反応ないんですよね。高校でコンピューター関係の部活をやっていた仲間に聞いても、知らない。やっぱり年齢層があるのかなと。YouTubeは見てるけどニコニコは知らないとか、知っていても『2ちゃんねるのひろゆきがやってるところでしょ』という印象があるくらいで」

―― むしろネットから問い合わせが来るとか。

「痛車関係の問い合わせは特に増えましたよ。メールも多いですし、動画を見て電話をしてくれたり。新規のお客さんを開拓するのには役立っているのかなと」
———
「また御社か! ニコ動でブレイク「作ってみた業者」を取材した」『ASCII.jp』より引用
http://ascii.jp/elem/000/000/496/496299/index-4.html

やはり、『ニコニコ動画』で「御社」の象徴として知られるようになっても、TV番組で特集になるほどのインパクトはないようだ

このインタビューを通じて、社長は「ビジネスチャンス」という言葉は口に出さない。
それよりも、動画公開を通じて、多くの人と知り合えたことを満足しているような口ぶりである。

今では、この「御社」社長は、「ニコニコ技術部」や『初音ミク』関連のイベントに、技術者として、搬入業者として、参加する日々を過ごしているという。決して、「お金になるから」ではない。ただ、動画の人気のおかげで、多くの「やりがいのある仕事」を得ることができた充実感が、このインタビューからは感じられた。

「宣伝経費」として考えるのではなく、『初音ミク』に魅了されたというスタンスを忘れなかったからこそ、「御社」シリーズ動画は面白いのだ。

『ニコニコ動画』は、あくまでも、生活を充実させるためのコミュニケーションツールにすぎない。そこに、この「御社」社長のように、新たな人と知り合えるきっかけが生まれるきっかけはあるけれど。
 
◆「ニコニコ技術部」動画としての「御社」シリーズ
この「御社」の業務用機械やその作業内容は、決して独創的なものではない。日本全国で、このような工場は、いくらでもあるだろう。ハイテクで人々を魅了させているのではないのだ。

いわば、「御社」シリーズの製作光景は、横井軍平のいう「枯れた技術」の実演にすぎない。しかし、その仕事を知らない人にとって、それは好奇心をゆさぶるものなのだ。そして、日々の作業で積み重ねてきた確かな経験が裏打ちされた動きは、見るだけでも楽しめるものである。

『ニコニコ動画』ユーザの中には、個人客の開拓に成功した「御社」シリーズを、才能のムダづかいを楽しむ「ニコニコ技術部」にカテゴライズすることに反感している人もいるという。ただ、僕はこの「御社」シリーズ動画にこそ、「ニコニコ技術部」精神が感じられると思うのだ

この「御社」シリーズでは、いくら「イジリー岡田みたい」と揶揄(やゆ)されても、常に社長が作業している光景が映しだされている。そして、その製作物がどのように完成するのかを、きちんと見せている。値段の安さ、ブランドの確かさ、新鮮なイメージばかりが強調されるコマーシャルに比べて、この作業動画の何とも人間的なことか

TVを見ても、なかなか知ることのできない、作り手の表情が、これらの動画では感じられる。だからこそ、エンターテイメントとして、これらの動画は楽しめるのだ。

『ニコニコ動画』は、今では100万に達する動画がアップロードされ、多くのユーザがそこで時間を費やしている。その中に、ビジネスチャンスを感じる人は多いだろう。そんな人は、この「御社」シリーズを、ぜひとも見ていただきたい。

これが、業者の宣伝を嫌う『ニコニコ動画』の中で、新規客の獲得に成功した、きわめてまれな(本当にレアな)実例である

『初音ミク』のブームにより、ある者は音楽で、ある者はイラストで、ある者は「ネギ振り」というアイディアで、そして、ある者はみずからの経営する会社の備品でグッズを製作し、動画を作成し、それをアップロードしてきた。

『ニコニコ動画』には多くの欠点があるとはいえ、作り手の表情が感じられるメディアだからこそ、多くの人に新鮮な驚きを与えているのだ。そんな『ニコニコ動画』の魅力を、この「御社」シリーズは、もっともわかりやすく伝えてくれていると思う。

執筆: この記事はesu-keiさんのブログ『esu-kei_text』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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