ニコニコ動画で新規客獲得に成功した「作ってみた業者」とは?(前編)
好きでやっているんだということがひしひしと感じられて、これは依頼したくなってしまうかもしれません。今回はesu-keiさんのブログ『esu-kei_text』からご寄稿いただきました。
ニコニコ動画で新規客獲得に成功した「作ってみた業者」とは?(前編)
『ニコニコ動画』において、「御社」とは、主に「有限会社タップ」のことを指す。
「有限会社タップ」は、資本金300万円、従業員5名、看板や装飾の製作および施工を行っている会社である。
そんな小規模な会社が、先日、プレミアム(有料)会員数70万人を突破したと喧伝(けんでん)された『ニコニコ動画』において、「御社」という代名詞の象徴として知られるようになったのはなぜか。
それは、次の動画がきっかけである。
「作ってみた」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1391125
ボーカロイド『初音ミク』ブームが吹き荒れていた2007年10月。いわゆる“痛車”作成動画として公開されたのが、この「御社」シリーズ第一作である。
しかし、どう見ても、利用しているのは、業務用機械である。作業場所も、どう考えても、工場内である。まさに、商品として販売できるほどのクオリティのものが、動画で公開するためだけに製作されたのだ。
翌日になってはがされたミク。ああ、もったいない。
たちまち「なにやってんだ!」「会社の備品を勝手に使うんじゃない!」「社長に怒られるぞ!」というコメントが殺到したが、投稿者コメントはあっさりしたものだった。
「経営者です。ご心配なく」
なんと、『初音ミク』に魅了されて、こんな動画を作ってしまったのは、この会社の社長だったのだ。やがて、この社長の動画作品は、「また御社か」という定番コメントで、人気を博すようになる。
ニコニコ動画では、業者の宣伝は嫌われる。
しかし、この「御社」は、ユーザに愛され、実際に“痛車”を製作しているほか、『初音ミク』関連のイベントの仕事を引き受けるようにまでなったのだ。
具体的な数値をあげると、『ニコニコ動画』での認知度により、「法人80:個人20」の割合だった注文が、「法人50:個人50」まで達するようになったという。どの業種も低価格競争にのまれる時勢の中、この「御社」は、『ニコニコ動画』によって、オリジナリティを確立し、個人客の信用を勝ち得ることができたのだ。
なぜ、この「御社」が、『ニコニコ動画』ユーザに支持されるようになったのか。
それは、「御社」動画が、「ニコニコ技術部」にカテゴライズされているように、だれもが楽しめる遊び心を忘れなかったからである。
それでは、『ニコニコ動画』で新規客の獲得に成功した、きわめてまれなケースである「御社」シリーズの動画を紹介してみよう。
◆“痛車”が高級車ばかりなのはなぜか?
さて、経済効果うんぬんの話は後回しにして、この「御社」シリーズでは、巷(ちまた)で話題の“痛車”を実際に製作している動画が公開されている。
「作ってみた その19」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6783630
“痛車”というのは、アニメやゲームなどのキャラクタ―に彩られた、とても目立つ車のこと。そんな車に乗ってみたいかどうかはともかく、どのように作られているのかに興味を抱いている人は多いはずだ。
これが、車にマーキングされる『初音ミク』のイラストである。
ラミネート加工した後のカットは、社長みずから行っている。
この「御社」シリーズの最大の魅力は、社長の手による作業工程をあますことなく見せていること。だからこそ、まるで「町工場見学」のように、動画を楽しむことができるのだ。
この動画での「犠牲車」。よりにもよって、プジョーである。
そして、その結果……。
それにしても、“痛車”となっているのは、値が張る車が少なくないのが現状である。なぜ、そんな車をわざわざ“痛車”にするのか、僕はその神経が信じられなかった。
しかし、この「御社」シリーズの動画を見ると、その謎(なぞ)が解決する。というのは、“痛車”を作るのには、かなりのお金がかかるのである。必然的に、“痛車”の持ち主は、良い車のオーナーにならざるをえないわけだ。
もともと、この「御社」こと「有限会社タップ」は、企業向けのカーマーキングを行っている会社である。
ウェブサイトから、その価格を拾うことができる。一般車が40000円~80000円、バスが80000円、トラックが400000円(全て参考価格)。
『有限会社タップ』カーマーキング、カーラッピング
http://www.sign-tap.jp/carmark.html
ただし、今回の“痛車”の場合、施工に8時間を要するほど、細かいデザインがどこされている。どれだけの値段がかかったかは、推して知るべし、というものだ。
なお、趣味ならともかく、商売として「初音ミク」というキャラクタ―を使って問題ないのか、と思われるかもしれないが、こちらの動画では、店頭用の等身大パネルを実際に製作している光景が映されている。
「作ってみた その6」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1880133
この等身大パネルは、「エックス秋葉原1号店」にて展示された。
(引用元:http://www.akibaos.com/?p=3093)
この「御社」のような町工場での製作は、手作業が多くなるため、値段が高くならざるを得ない。とはいえ、値が張っても、キャラクタ―を愛する人に施工してもらった方がありがたいという顧客は存在するのだ。
動画を見れば、どんな人がどんな機械を使って仕事をしているのかがわかる。
『ニコニコ動画』を通じて、作り手の表情を伝えることに、「御社」社長は成功している。それが「価格」以外の付加価値である「信用」をもたらすことに成功したのだ。
もちろん、あなたが「御社」に商品を注文するかどうかは、この動画を楽しむ上では、まったく関係ないことである。
耳ざわりな宣伝文句がまったくなく、プロによる“痛車”や“等身大パネル”の製作過程がわかる「御社」シリーズ動画は、多くの『ニコニコ動画』ユーザーにとって、純粋に面白いものだったのだ。
あくまでも、初音ミクファンを盛り上げるスタンスを忘れなかったからこそ、この「御社」は『ニコニコ動画』で愛されているのである。
(後編につづく)
執筆: この記事はesu-keiさんのブログ『esu-kei_text』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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