羽をもつサル~ニューカレドニア・カラスの知性は本物か?

サイエンスあれこれ

カラスは頭がいいことは知られていますが、このような研究結果がでていたとは驚きました。今回はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

羽をもつサル~ニューカレドニア・カラスの知性は本物か?
カラスは、高度な知性をもつサルと同じように、器用に道具を使ってエサをとることが知られています。以前、このことについて取り上げたブログ記事 *1 でコメントしましたように、このカラスの一見高度な知的行為が、サルのそれとは異なり、以前教えられたり、見たりして覚えた記憶を単に再現しているだけなのではという懸念は、多くの研究者が抱いていたものでした。あるいは、道具の使用が、エサなどの報酬に直接結びついている場合、エサ欲しさのあまり、単に手当たり次第に試して、たまたまうまくいっただけで、はじめからその道具の使い方、使い道を理解していたわけではないのではという批判もありました。そうした批判に答えた論文が、4月21日付け『Proceedings of the Royal Society Bオンライン版』に掲載されました *2 。

*1:「イソップのカラスは本当にいた?」 2009/8/17 『サイエンスあれこれ』
http://blog.livedoor.jp/science_q/archives/748390.html
*2:「Complex cognition and behavioural innovation in New Caledonian crows」 2010/4/21 『Proceedings of the Royal Society Bオンライン版』
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/early/2010/04/16/rspb.2010.0285.abstract

ニューカレドニア島やその付近の島々に生息するニューカレドニア・カラスは、エサとなる虫を木の穴からほじくり出すのに、小枝や木の葉を器用に使うことが知られています *3 。 今回の論文の著者らは、2007年にこのニューカレドニア・カラスが、エサを取るための道具を手に入れるために別の道具を使える(道具のメタ使用)能力があることを証明しました *4 が、今回はその実験をさらにアレンジして以下のような実験を試みました。

*3:「特集 動物の知力」『ナショナル ジオグラフィック』2008年3月号
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0803/feature01/_05.shtml
*4:「Spontaneous Metatool Use by New Caledonian Crows」Alex H. Taylor, Gavin R. Hunt, Jennifer C. Holzhaider and Russell D. Gray 『Current Biology』

野生のニューカレドニア・カラス7匹を捕獲後、数日間環境に慣らせた後、エサの入った箱とそのエサを箱から取り出すには短すぎる棒を与え、その短い棒が役に立たないことを覚えこませます。その後、2グループに分け、一方の「学習」グループには、次の課題をこなせるよう別々に覚えさせます。1)長い棒を使えば、エサ箱からエサを取り出せること。2)短い棒を使えば、長い棒を、道具箱から取り出せること。3)木の枝から垂れ下がっている紐(ひも)を手繰り上げれば、その先についている短い棒を手に入れることができること。

この「学習」グループのカラスが、紐(ひも)についた短い棒と、道具箱に入った長い棒と、エサ箱に入ったエサを与えられたとき、全員が難なくエサにありつけたのは、言うまでもありません。これは、すでに経験したことを覚えていて、単にそれを組み合わせただけに過ぎないからです。まあ、それだけでもすごいのですが。

しかし、もう一方の「非学習」グループには、この課題のうち、1)と3)だけしか教えなかったにも関わらず、4匹中2匹が最初の一回で、そしてその内の一匹のカラスは、最初の2分間、じっと考え込んだ後、何の試行錯誤もなく、一発でエサを手にしたというのです(動画はこちら *5 )。これが、どれほどすごいことなのか、もう少し考えてみましょう。

*5:「Clever Crows, Complex Cognition?」by Gisela Telis on April 20, 2010 『Science NOW』
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2010/04/clever-crows-complex-cognition.html

エサがある。食べたい。長い棒があれば、食べられる。長い棒は、道具箱の中だ。よし。と普通ならまず、道具箱から長い棒を取り出そうと四苦八苦するはずです。彼らはこれすらしていません。仮にしたとしてもここまでは、エサ欲しさのあまり、単に覚えていることを繰り返しているだけで、知性というにはやや難があります。そして、長い棒を取り出すには、短い棒が必要であることを教えられていない「非学習」グループのカラスは、もしそれほど頭が良くなければ、くちばしだけでは、どうにも長い棒を取り出すことができないとわかると、あきらめるのが普通でしょう。エサと直接結びつく試行錯誤はここまでなのですから。向こうに短い棒があるのは知っていても、なまじ頭が良い程度だと、その短い棒はエサをとるには役に立たないことは覚えていて、見向きもしないでしょう。やっぱりカラスはカラスだなぁと思ったあなた、身近に「気合が足りないだけだ。根性を見せろ。」とか「そんなことやっても意味がありません。無駄ですよ。」とか言う人いませんか?

そう、このカラスのすごいところは、直接餌(えさ)をとることには関連しない道具のメタ使用を、直接見たり、覚えたりしたわけではないのに、ものの数分でできたことなのです。あそこに短い棒がある、でもエサを取るには使えない。でも、もしかしたら、長い棒を取るのには使えるかも。これが、知性です。論理的推理力。発想の転換。人間でもなかなかできない高度な情報処理能力と言えるかもしれませんね。ただ、不思議なのは、このニューカレドニア・カラス、この平和な島で生きていく上で、こんなに頭が良い必要があったのでしょうか。あったとすれば、それは何なのか、個人的には非常に興味を惹(ひ)かれます。

執筆: この記事はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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