最も近い国の、僕らが知らないロックの話――『大韓ロック探訪記』発売される
韓国を舞台に活躍を続ける日本人ギターリスト、長谷川陽平。彼を語り部に韓国のロック・シーンを読みとく『大韓ロック探訪記』(長谷川陽平著/大石始編著/DU BOOKS刊)が、このたび刊行された。
本著の中心は、その帯にあるようにステレオタイプなK-POP、極論を言ってしまえば欧米のヒップホップやR&B、EDMを下敷きにしたポップ・ミュージックではない。そうではない韓国のロックの営みをひとつ主題としてる。
はて、そこに関して僕らはなにを知っているだろうか? そんな疑問が絶えず本著を読んでいるとふつふつと涌いてくる。そしてそれが次第に「実際の音を聴いてみたい」という好奇心が生まれ出てくるのだ。
具体的に言えば、本著が主としている話題はこうだ、韓国の70年代にひとつの山場を迎えるサイケデリック・ロック〜グループ・サウンズ——ゴッドファーザー、シン・ジュンヒュンやサヌリム(石野卓球がその昔、彼らの楽曲を聴くがためにCDプレイヤーを買ったバンドだ)といったアーティストたちの動き、そしてその末裔とも言える、90年代後半から、いま現在盛り上がりをみせている現在のコリアン・インディ・ロック・シーンに関してだ。それらが本著では大韓ロックと読んでいる。
ちなみにここ数年である種のレア・グルーヴというかサイケ・マニアの間で、かの国のサイケデリック・ロックは、そのヴァイナルが高値で取引されているという。
このシーンの水先案内人となるのは、著者、日本人ギタリスト、長谷川陽平だ。そして彼からその話を訊きだし、的確にその魅力を伝えるのはOTOTOYでの原稿、オトトイの学校の講師でもおなじみのライター/編集の大石始だ。
長谷川はあるとき、ひょんなところから韓国にのめり込み、気づけば現地で活動をはじめ、前述のサヌリムのサポート・メンバーとなり、その他、現地のレジェンドたちと邂逅、さらには現在はインディ・ロック・シーンの人気バンド、チャンギハと顔たちの正式メンバーとして活躍している。そんな音楽人生を送っている人物だ。そんなシーンの中心に入ってしまった日本人の口から、韓国のロック・シーンとはどこからきて、どうして現在のインディ・ロックが生まれたのか、などが紐解かれるのだ。彼がインタヴューする現地のアーティストも含めて、その視点が本著の中心となっている。
軍事独裁政権下でのさまざまな苦難も含めて、ときに笑い、ときに感動させられるディープなエピソードで語られていく。自由に音楽を作ることができるようになったのが、本当につい最近のことだったりと、とにかく距離としてはひどく遠い、だけど身近な欧米のロック・シーンよりも、なにもしらないことだらけの隣りの国の音楽事情に驚くばかりだ。
共著者とも言える大石の視線にしても興味深い。彼がオトトイの学校などで行っている、日本の伝統音楽や大衆芸能に対する姿勢——南米などさまざまな世界中の音楽と同様、モダンな耳でフラットに接することで、音楽文化全体としておもしろがるという姿勢だ。文化の違いが音楽の違いになる、そこにおもしろさがある。それを見つめることで生まれる好奇心。それが本著ではまさにお隣の国の音楽に関しても、自然に向けられているところが印象深い。
そう、「ほっとけ、すべてのことは自由だ」というわけなのだ。
(河村)
・大石始によるオトトイの学校講座『DISCOVER NEW JAPAN RETURNS〜この祭へ行け2014〜』
http://ototoy.jp/school/event/ info/129/
参考記事
・OTOTOY『知られるざる韓国インディの世界』
http://ototoy.jp/feature/2013062001
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。