湊かなえ 話題沸騰の新刊を語る(3)

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湊かなえ 話題沸騰の新刊を語る(3)
 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第57回となる今回は、新刊『豆の上で眠る』(新潮社/刊)が好評の、湊かなえさんが登場してくれました。
 13年前に起こった姉の失踪事件を巡り、事件当時と現在に残された謎は何を示すのか?戻ってきた姉に違和感を持つ妹が記憶を辿り、真相に迫る物語には、ミステリ好きでなくても引き込まれてしまうはず。
 この作品はどのように作られていったのか。その成り立ちに迫るインタビュー最終回です。

■「絶対に小説を書いてやる!映像にできないものを書いてやる!」
―そんな湊さんが、自分で小説を書いてみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

湊:30歳を過ぎて時間ができたので、何かやってみたいと思い始めたんですよね。空想が好きだったので、それを書くことだったらすぐにできるかもしれないと思って始めました。
空想を文字にするのなら脚本形式の方が簡単そうだったので、最初は脚本を書いたんですけど、私のように地方に住んでいると脚本家になるのは難しいということをテレビ局の方に言われたんです。それがあって、じゃあ小説にしよう、と。

―書き始めてみていかがでしたか? 難しさを感じたところがありましたら教えていただければと思います。

湊:書き始めてわりとすぐ脚本の賞をいただいたんですけど、今言ったように、地方在住だとプロになるのは難しいと言われてしまった。それがとにかく悔しかったんです。未だに東京にいないとできない仕事があるのかと思うと本当に悔しくて、「絶対に小説を書いてやる! 映像にできないものを書いてやる!」と意地になっていたので、難しさは感じませんでした。負けず嫌いなんですよ。

―仲のいい作家さんはいらっしゃいますか?

湊:あまりパーティなどに出ないので作家仲間は少ないのですが、有川浩さんは同じ兵庫県に住んでいることもあって親しくさせていただいています。デビューした翌年くらいに、新聞の対談でご縁ができて、それから一緒に演劇を観に行ったり、お食事に行ったりしています。すごく刺激になりますよ。仕事が辛い時は泣き言を言ったりもしますけど(笑)。

―どんなことが辛いんですか。

湊:何といっても締め切りです(笑)。物語が自然に溢れてきて、楽しく文字にできることなんてまずなくて、アイデアが出てこないことの方が多いくらいなのに、締め切りは必ず来ますからね。
基本的に座り仕事ですけど、やはり体力は消耗しますし、睡眠時間は削られますし、体がしんどいことも多いです。孤独ですしね。

―物語が出て来ない時の対処法がありましたら教えていただければと思います。

湊:外に出て歩いたり、家で空想したり、あとはとりあえず手を動かしてみることもあります。
翌日全部消すことになっても、何か書かないことには進みませんし、書いているうちに「ここは使える」「これはいいかも」という部分が出てくることもあります。もちろん「これはダメだ」となることもありますが、そんな時はなぜダメなのかを考えるようにしています。

―唐突ですが「小説の神様」はいると思いますか?

湊:いてほしいですねえ……。でも、「きたきたきたきた!」って思うこともあるんですよ。普段は暗闇を手探りで歩いている感じなんですけど、急に閃いて「見えた!」となる瞬間です。そういう時はタイピングの速度が物語の進行に追いつかないから、句読点を打ったり改行をしている場合じゃないくらいです。もちろん、年に一回あるかないかですけど、でも確実にあります。そういう感覚を得て書いた作品はやはり今でも好きです。

―今後、どのような作品を書いていきたいとお考えですか。

湊:ガチガチの本格ミステリは書いてみたいですね。たとえば「密室トリック」というのがありますけど、まだ誰も考えついていない密室がきっとあると思っていて、いつか自分で発見してみたいです。そう思って、浮かんだアイデアを編集者さんに言うと「それは○○の■■ですね」って既存の小説の名前を返されるのですが(笑)。
でも、まだ何か「その手がありましたか!」というアイデアがあると思っています。それは密室トリックに限らずテーマかもしれませんし、謎かもしれません。そういうことにいつか気がつきたいです。

―湊さんが人生で影響を受けた本がありましたら、三冊ほどご紹介いただければと思います。

湊:一冊目は、森村桂さんの『天国にいちばん近い島』です。ニューカレドニアの旅行記なのですが、これを読んで「いつか絶対南の島に行くんだ!」と思いました。青年海外協力隊でトンガに行ったことがあるのですが、この本の影響が大きかったと思います。
次はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』にします。これは読んで「おおっ!」と驚きました。新鮮でしたね。
最後は林真理子さんの『葡萄が目にしみる』です。なんとなく自分と重ね合わせて読んだ本で、十代の頃のバイブルです。ミステリが好きという割にはあんまりミステリがないセレクトになってしまいましたね(笑)。

―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いします。

湊:最近は“イヤミス”だけでなく、いい話も書いているので、黒いのが出るか白いのが出るかは、開けてみてのお楽しみです。手に取っていただけるとうれしいです。

■取材後記
 自身が生み出した登場人物たちへのこだわりと深い愛情が垣間見えるインタビューでした。主役級のキャラクターだけでなく、すべての登場人物を細かく造形されていて、お話を伺っていると、活字にはなっていない物語の内側を見ている気分に。正直、圧倒されました。
(インタビュー・記事/山田洋介)



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