三月書房が選ぶ今月の一冊:まことにけっこうな面白さ『グだくさんのグ!!』

『グだくさんのグ!!』グレゴリ青山

編集部より)『ガジェット通信』のシリーズ連載「書店・ブックカフェが選ぶ今月の一冊」の京都編です。京都編の裏テーマは「本屋に行こう」。店主さんのおすすめ本やお店の日常を京都在住のライターがほぼ飛び込みで取材を行い「本のある場所に通うたのしみ」をライブでお届けします。

『三月書房』で“棚を読む”面白さ

『三月書房』がオープンしたのは戦後まもない1950年(昭和25年)のこと。少し古めかしい店構えを見て古書店だと思い込む人もいるが、扱っているのは新刊のみである。店舗面積(約10坪)はと広くはないが、その本棚に並ぶ約一万冊の本の密度はみっしりと高い。

取り扱いジャンルは、デザイン・アート系、サブカル、漫画、文学から歴史、古典、思想・哲学、社会科学、医学や心理学などまで幅広いが、明確なカテゴリ分けはされていない。ただ、「このあたりは文化全般で、そのなかにアートや美術、詩の本が含まれているのだな」と一見すればわかるようになっている。硬い本ばかりではなく、柔らかい本も「なるほど」とうなるような関連づけで現れるので油断はできない。

はじめて『三月書房』に行くなら、まずは入り口から順番に本棚を眺めて店内を一周して「本棚を読む」ことをしてみてほしい。滑らかに、なだらかにつながり合うような棚の構成を読み込んでいくのは、美しい建築物や自然を眺めているのと同じくらいに心地よいものなのである。

『三月書房』店主・宍戸立夫さんが選んだ一冊『グだくさんのグ!!』

京都『三月書房』店主・宍戸立夫さん

書名:『グだくさんのグ!!』
著者名:グレゴリ青山
出版社:メディアファクトリー

今回、宍戸さんが選んでくれたのは、グレゴリ青山さんの漫画『グだくさんのグ!! 〜どうでもいいこだわりにあふれた人生の断片コミックエッセイ〜』。京都人のイケズやケチを笑いとともにあぶり出すグレゴリ作品は、誰よりも描かれている京都人自身にこよなく愛されているのだが、宍戸さんもまたそのひとりらしい。「グレゴリさんの漫画には、4回も載せてもらいましたわ(ザコキャラですけど)」と言いながら4本の指をびしっと立てられた。

この本では、宍戸さんは二回登場(P65とP120)。『三月書房』 のブログに、宍戸さんが書いた『グだくさんのグ!!』の紹介記事[リンク]によると「うれしい限りです」と喜びのコメントもある。

宍戸さんは、グレゴリ青山さんが『三月書房』を詳しく紹介した漫画「京都個性派書店案内」を集英社『kotoba』のウェブ上で読める[リンク] という情報も教えてくれた。グ氏が描く『三月書房』『ガケ書房』『恵文社一乗寺店』『パルナ書房』の個性派ぶりやいかに? これは一読の価値ありだ。

※本記事で紹介した書籍は、2014年4月23日の店頭在庫品です。

三月書房の謎とき「唐突に平置きされている本に意味はあるのか?」

京都『三月書房』

さて、『三月書房』と筆者のささやかなおつきあいは長年に渡るが、店主に話しかけるのは初めて。実は『三月書房』について、長らく不思議に思っていたことがいろいろある。たとえば棚のあちこちに「ポン」と平置きされている本たちのこと。わざわざ表紙を見せて置く本は、どうやって選んでいるのだろうか?

「意味があるときもあるけど、あまりないときもあって。サイズの問題もあるし、物理的な制約の方が大きいからねえ」。宍戸さんの回答は、拍子抜けするほどあっさりしたものだった。

「まあね、並べる暇がないんや。わざと? いやいや、ぜんぜんそんなことはないんです。棚に隙間がないから困ったなあと思って置いてある。こうして置くと、案外よう売れるんやけどな」。

「三月書房」の棚は、編集され尽くされていないからいい。棚に隙間があるからこそ客は自由に想像力を広げることができるのだし、それによって棚の魅力は店主の計算を超えて増してしまうのである。

三月書房について

店名:三月書房
住所:京都市中京区寺町通二条上ル西側
営業時間:平日・11:00am~7:00pm/日祝休日・12:00pm~6:00pm
定休日:火曜日
ウェブサイト:http://web.kyoto-inet.or.jp/people/sangatu/

Kyoko Sugimoto

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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