『聖☆おにいさん』お坊さんの感想は?

『聖☆おにいさん』お坊さんの感想は?
 お金や仕事、健康、将来など、私たちはさまざまなことで悩みます。
 そんな時は、友だちや家族に相談したり、一人になって考える時間を持ったりと、なんとかその悩みを軽くしようと努めますが、どうしてもうまくいかなかったら「仏教」の教えに触れてみるといいかもしれません。
 『お坊さんが教える「悟り」入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)は、現職のお坊さんである著者が、私たちの直面するさまざまな悩みや困難から心を楽にしてくれる仏様の教えを紹介してくれる一冊。
 今回は著者の長谷川俊道さんにインタビュー!今日から始められる仏教やお寺、お坊さんとの付き合い方をお聞きしました。

―『お坊さんが教える「悟り」入門』について、長谷川さんがこの本で一番伝えたかったことは何だったのでしょうか。

長谷川:僕はハワイのお寺で7年半ほどお坊さんをやっていたのですが、ハワイは日本より赤道に近いから、「春分の日」も「秋分の日」も昼と夜の長さが違うし、そもそもそんな日は定められていないわけです。
そうすると、僕らが「春のお彼岸は西方浄土が近くなって…」と説明しても通用しない。ハワイの仏教徒は100年ほど前にやってきた日本人の子孫ですから、お彼岸の文化自体は残っているのですが、背景になっている仏教の教えを若い人は知らないんですね。そういうのを見てきて、このまま何もしなかったら仏教の文化は消えていくんだろうなというのは思っていました。その危機感はこの本を書いた動機としてあります。
仏教というのは、現実生活に根差した宗教です。だからこそ、もっともっとお寺やお坊さんに若い人たちが近づいて、使ってもらいたいというのがこの本で伝えたかったことです。

―「悟り」というと、とても高尚で、普通の人にはなかなか到達できない境地のように思えます。どんな人にでも「悟り」は訪れるのでしょうか。

長谷川:小さな悟りは誰にでもあります。大切なことは、「悟った」あとにその人の「行動」や「言動」が人々に「なるほど!」と賞賛されるほどに「変化」すること。でなければ、ただの「錯覚」です。

―「悟り」とは一体どんなものなのでしょうか。

長谷川:「真実の人間」に近づくことでしょうか。

―「仏教の教え」ということでいうと、お釈迦様の人生や教えを題材にしている本や漫画がありますが、ああいったものをお坊さんが読まれるとどんな感想を持つのでしょうか。

長谷川:中村光さんの『聖☆おにいさん』を全巻持っていますが、仏教の教えの入口としてはおもしろいと思いますね。また、手塚治虫さんの『ブッダ』はとてもわかりやすかった。どちらも、仏教のとっかかりとしてはいいのではないでしょうか。
ただ、私たちの教え、仏教の教えはあんなに軽くはありません。
宗教が本当に必要とされるのは、何もせずにいるとノイローゼになったり、自殺しかねないような、深刻な苦しみや悲しみに直面した時です。だから日本人が宗教離れしたり、それこそ漫画になったりするのは、それだけ日本が平和なのだと思いますね。

―本書を読んで、一章が特に強く印象に残りました。「心を整える」という言葉がいいなと思ったのですが、長谷川さんが「心を整える」ために習慣としてやっていることがありましたら教えていただければと思います。

長谷川:私は毎朝5時半から座禅を組んでいます。それから朝課でお経を詠み、その後は馬の世話だとか境内の掃除を日課としてやっています。

―座禅は確かに、心を整えるには良さそうですね。座禅を組む際に気をつけるべきことはありますか?

長谷川:一番は「調身、調息、調身」です。「調身」は背筋を伸ばして、体を決めて、三角形になるように座禅の体勢をとるのですが、これは人間が一番安定する格好です。
朝の座禅は30分くらいなんですけど、たとえ10時間でもそのままの体勢でいることができます。それくらい安定しているんです。
その次が「調息」、つまり呼吸を整えることです。「調身」で身を整えて、「調息」で息をコントロールしていくと、心が波のない湖のように静まってきます。

―座禅の最中は何も考えてはいけないのでしょうか。

長谷川:よくそうやって言われますが、死なない限りは無理ですよね。必ず何かしら考えてしまいます。
ただ、考えていることから距離を置くことはできるんです。たとえば「人間はどうして生まれてきたのだろう」と考えたとします。この問題に集中していると、どんどん近視眼的になって周りが見えなくなってしまう。
私たちが座禅を組む時というのは、これと反対のことをします。考えることをやめるのではなく、どんどん考える対象から距離を取って、俯瞰するのです。

―お仕事柄、人から悩みの相談を受けることは多いと思いますが、最近多い悩みはどのようなものですか?

長谷川:やはり、鬱や自殺、経済的不安、親子関係などの相談が多いです。たとえば、自分の息子の仕事がうまくいかないとか、彼女にふられて自殺しようか迷っているとか…。

―自殺を考えるほど思い詰めている方に対して、どんなアドバイスをされているのでしょうか。

長谷川:さっきもお話したように、悩んでいる人というのは、その悩みが目の前一杯に広がってしまいます。だから、これを離してあげること、距離を取ってあげることが大事なんです。そうしてあげると、思っていたほど大きな悩みではなかったりします。
彼女にふられたことにしたって、男なら誰でも一度くらいはそんな経験は持っているでしょう。自殺するほどの問題か、ということです。彼女よりいい人に出会える可能性だってたくさんあるわけですから。そう考えたらふられたことだって「ラッキー」と思えるはずです。

―先ほど「もっとお寺やお坊さんを使ってほしい」とおっしゃっていましたが、私たち一般人はどのようにお寺と付き合っていけばいいのでしょうか?

長谷川:日本には7万5千〜8万山ほどお寺があるんですけど、基本的にお坊さんというのはいい人が多いですから、訪ねてくる人がいたら断る人はあまりいないと思います。だから、メディアに出ていたり、本を書いているようなお坊さんでもそうでないお坊さんでもいいので、おもしろそうな人がいたらどんどん訪ねていって、話してみるといいと思います。
ただ、お坊さんみんなが私のような考え方ではないですし、セキュリティ上の理由で門を閉めているお寺もあるので、注意が必要ですが。

―突然訪ねても話し相手になってくれるんですか?

長谷川:そういうお坊さんが多いと思います。基本的に時間はあるはずですからね、毎日法事があるわけではないですし。というか、お寺は気軽に立ち寄って世間話や人生相談ができる「地域のたまり場」です。いつ人が訪ねてきてもウェルカムというのが本来のお坊さんのあるべき姿なんですよ。
(後編につづく)



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