線の繋がっていない電話が伝える 会えない人への想い
「風の電話ボックス」というのをご存じだろうか。
岩手県大槌町に、電話線の繋がっていない電話ボックスが置いてある。その中には一台の黒電話が置いてあり、横にはこう書かれている。
風の電話は心で話します
静かに目を閉じ、耳を澄ませてください
風の音が又は浪の音が或いは小鳥のさえずりが
聞こえたなら あなたの想いを伝えてください
日本各地に甚大な被害をもたらした東日本大震災。大槌町もまた被害が大きかった町の1つだ。大槌町の海を望む高台にある「風の電話ボックス」は、ガーデンデザイナーの佐々木格さんが自宅の庭に置いたもので、震災前から考えていたものではあるが、心の復興のきっかけになればと思い、震災後に実現させたのだという。
この電話ボックスはメディアで紹介され、インターネット上でも話題となった。そして、この風の電話をもとに作られたのが『かぜのでんわ』(いもとようこ/作・絵、金の星社/刊)だ。
山の上に置かれた1台の電話。電話線はつながっていないが、いつもぴかぴかに磨かれている。たぬきのぼうや、うさぎのおかあさん、きつねのおとうさん、ねこさん。もう会えなくなった人に想いを伝えるために電話を訪れる。
ある寒い夜のこと。この電話を置いたくまのおじいさんは、電話線がつながっていないはずの電話が「リーン リーン」と鳴っているのに気づく。電話の置いてある山に登っていくと……。
「あまりにも突然、多くの命が奪われた。せめてひとこと、最後に話したかった人がたくさんいるはず。そして今回の震災だけでなく、会えなくなった人につたえたい想いを持っている人は多いと思います。どなたでもいらしてください」と、佐々木さんは話す。
亡くなってしまった方への想いを伝えることができる。亡くなった方をひとりでゆっくりと想うことができる場所。この絵本には、そんな場所を実現してくれた佐々木さんの人間味の暖かさも詰まっているのだ。
(新刊JP編集部)
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