それは「顧客ニーズ」か、単なる「わがまま」か?(2)

それは「顧客ニーズ」か、単なる「わがまま」か?(2)
 ビジネスについての考え方はさまざまとはいえ「薄利多売ではなく、効率よく利益を出す仕組みを作りたい」というところは多くの企業に共通しているはず。
 だからこそ、企業はこぞって利益率が高い商品を開発しようとするわけですが、もちろんこれは簡単なことではなく、毎年数えきれないほどの新製品・新サービスが現れては、人知れず消えていきます。
 ただ、だからといって何も方法がないわけではありません。高収益をあげる商品を作るためのポイントやプロセスというのは確かに存在し、そこには法則のようなものもあります。
 それを明らかにしているのが新商品開発コンサルタントとして活動している高杉康成さんの著書『[実践] 超高収益商品開発ガイド 粗利80%実現7つのステップ』(日本経済新聞出版社/)です。
 前回に引き続き高杉さんにお話を伺い、高収益を挙げる商品を作る秘訣を教えていただきました。

―ニーズから導き出された新商品のアイデアですが、ビジネスとして展開するにはより洗練していかなければなりません。アイデアをビジネスとして通用するものに磨き上げる過程でどのようなことが大事になりますか?

高杉「収益性と展開性が鍵となります。具体的には、収益性を上げるためには、商品の特徴をとがらせる必要があります。基本的には、売れている商品は3つの性格がとがっています。
1つは、「ワクワク感」という性格です。 iPhoneやディズニーリゾートなどのように、持っているだけ、行くだけでワクワクするような感覚を与えてくれる商品です。
次に、「困りごと解決」という性格です。これは、顧客が持っている困りごとを商品が解決してくれるという性格ですね。例えば、高速道路のETCシステムは料金徴収の煩わしさを解消してくれることに加えて、渋滞解消にも大きく貢献しています。
最後に3つ目は、「趣味嗜好」の性格です。ゴルフや釣りといった趣味嗜好の領域でとがっていることですね。
このように見ていきますと、世の中で売れている商品は、この3つの性格のどれか、あるいは複数の要素でものすごく尖っているのです。従いまして、新商品を開発していく際には、この3つの要素に照らし合わせて、自社の商品が尖っているかどうかを判断し、さらにとがらせていく必要があります。こういった要素がとがった商品というのは、顧客にとっての価値が高いため、安売りではなく、高価格で販売できる高付加価値商品となるのです。
次に展開性ですが、これは、先ほど述べましたように、同じような困りごとを持っている人がどれだけ多くいるかということです。また、ワクワク感や趣味嗜好の性格の場合は、それに対して感受性の高い同じような属性を持った顧客がどれだけ多く存在しているかが鍵となります。
アイデアはだれでも思いつくのですが、単なるアイデアだけでビジネスを行ってしまうと、大けがをする可能性があります。ましてや高収益商品となると、この収益性と展開性をしっかりと描けた状態から商品開発をスタートさせる必要があります」

―本書で明かされているノウハウは、インターネットを使った新サービスを考えるというようなケースにも応用できるのでしょうか。

高杉「インターネットを使った新サービスにも同じようなこのノウハウは十分通用します。例えば、今流行りのクラウドサービスですが、どこかにサーバーを借りて、何かのクラウドサービスを開始するにしても、「どういった困りごとに何の価値を提供するのか」がなければ、単なる絵に描いた餅で終わってしまいます。また、ネットゲームなども「ワクワク感」「趣味嗜好」の特性をとがらせていくことは重要ですね。
このように、私の経歴からモノ作りを想像される方も多いかもしれませんが、実際は、本書に書かれているようなノウハウを使って、高付加価値型のペットショップを新規展開させてみたり、テレビ局の広告の新商品開発を行ったりと、多種多様な業種で役に立っています」

―高杉さんがかかわった商品開発の事例のなかで、印象に残っている成功談、失敗談がありましたら教えていただければと思います。

高杉「成功談で一番印象に残っているのは、前述の「ミノリサイレンサー」という防音商品をご支援したときですね。この会社は自動車部品を作っているのですが、自動車メーカーの海外進出もあり、何か新しいビジネスを立ち上げていく必要があったのですが、今まで、自動車メーカーから言われてものしか作ったことがないこの会社にとっては未知の領域だったのです。
そこで、私が支援させていただいて、プロジェクトを立ち上げたのですが、そのプロジェクトの合言葉が「利益を上げてもっといい生活をしよう」なんですね。ともすれば、会社の経営理念がどうか、あるいは、年度計画達成といったお題が全面に出がちなのですが、「高収益商品を作って利益率を改善し、自分たちが自分たちで待遇を改善する」という意気込みには、ある意味感動を覚えました。
1年近くかかって新商品を開発し発売させたのですが、完成した際のみなさんの喜びは今でも忘れられないですね。おかげさまで商品は順調に売れています。
失敗談では、エコ商品を作ったときですね。今から5年前ぐらいに、とある企業の新商品開発で支援することになったのですが、今から思えばその手続きが問題だったのかもしれません。
中小企業だったのですが、開発リーダーから稟議書を上げる形でコンサル支援を入れる形態だったのですがこの形がよくなかったのでしょうね。要は、下から上がってきた案件で、社長の関与が低く、あまり興味がなかったのでしょう。
結果としては、商品的には、非常にいいプランができ、技術的な検証も行い開発可能ということになったのですが、社長自身がそういったエコ分野には全く興味がなく、開発プロジェクトはその段階で終了となりました。今思えば、その業界の常識を覆すような画期的な商品で、今のエコトレンドを考えると、おそらく発売していたら大ヒットしていたと思います。私が手掛けた他のヒット商品と比べても、そのコンセプト、市場性、収益性、展開性は抜群で、群を抜いている商品でしたので。
しかし、なぜ社長はやらなかったのでしょうか。今でも不思議です。この経験を踏まえまして、上場企業はともかく中小企業で社長の関与が低いプロジェクトはお受けしないことにしています」

―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いします。

高杉「国内市場が縮小基調にある中、企業は新しいビジネスや商品を生み出し、収益構造を展開していかなければならない段階に来ています。大企業はグローバル企業とのし烈な戦いを行い、中小企業は勝ち残りと生き残りを模索していかなければなりません。 
海外進出、グローバル化などが叫ばれていますが、その前に、よく考えなければならないのは、「ビジネスや商品の仕掛け具合」です。いくら海外に進出しても、どこかの下請けをやっているのであれば、収益構造は変わりませんし、リスクは増大します。また、大企業は、海千山千の海外グローバル企業との戦いを制していくためにも、ビジネスを洗練させ強いビジネス・商品で戦っていかなければなりません。
日本企業は、強いビジネスを「強い技術」と勘違いしている節があります。もちろん、本当に強い技術というのは、強いビジネスを生み出す可能性を持っています。しかしながら、技術は、市場性や収益性といったビジネスと結び付けてこそ生きるものです。
日本企業が、世界に秀でた技術を持っているにもかかわらず、海外勢にやられているのは、ビジネスの仕立て方がうまくないからだと思っています。中小企業でも同様で、すごい技術がすごい商品だと思っていますが、そうではないのです。「強い顧客ニーズにすごい技術」が入ることが究極の商品なのです。
世の中は動いています。高度成長期には「お金」が高い価値を持っていました。お金を借りて工場を建てれば、順調な経済の成長に支えられて売り上げも伸びていきました。お店を建てれば、消費の拡大に後押しされ成長していくことができました。
しかし、今は、「お金の価値」もさることながら、その「使い方=ノウハウ」のほうに価値が移転しています。お金を持っているだけでは、それをうまく生かせないのです。国内企業が膨大な内部留保を抱えているにもかかわらず海外勢にやられているのは、お金の使い方がうまくないのでしょう。中小企業に数え切れないほどの補助金を用意しても、新しいビジネスや商品が生まれてこないのは、ノウハウが足らないのです。
この「価値の変化」に早く気付いて、みなさんの持っている「優れた技術」を顧客ニーズと融合させ、高収益商品を生み出し、会社、経営者、株主、従業員、取引先といった利害関係者のみんなが幸せになれるように頑張ってください」
(新刊JP編集部)



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