在宅勤務は日本で浸透するか?労務課題と対策
ワーク・ライフ・バランスの視点からも導入機運が高まる在宅勤務
2012年の国土交通省の調査によれば、雇用型の在宅勤務者は710万人と増加傾向にあります。安倍政権が6月に景気対策としてIT(情報技術)政策の新戦略にテレワーク推進を盛り込み、導入企業数を2020年までに12年度の3倍に増やす目標を掲げました。さらに、企業も東日本大震災をきっかけに災害時の事業継続の観点から再認識するなど、在宅勤務の導入機運が高まっています。機器など関連市場の規模も、2015年には1兆円を突破する見通しとのことです。
オフィスコストの削減、業務の効率性や生産性の向上などの企業メリットと、通勤時間の短縮、ゆとりのある健康的生活の維持といった労働者メリットがマッチしていることの表れです。また、在宅勤務は、就労責任と家庭責任の双方を同時に果たすワーク・ライフ・バランスの視点から積極的に導入の対象になる雇用形態といえます。タイプとしては、自宅就労、サテライトオフィス、モバイルなどがあり、全労働日や全労働時間を在宅就労する「全部在宅ワーカー型」と、日・時間単位で在宅就労する「部分的在宅ワーカー型」に分類できます。
在宅勤務者をめぐる5つの労務課題と対策
在宅勤務者については、労務管理体制の脆弱性は否定できません。具体的には、次の5つの課題に集約されると思われます。
(1)在宅勤務が雇用型か自営型か曖昧な点がある
これは労働者性の問題です。就労場所が自宅であることを理由には、一概に「指揮命令下にない」とは言えないため、労働関連法規が適用されるかどうか、労務実態を根拠に労働者であるか否かを確認しておくことが必要です。
(2)労働日数や労働時間などの適正な把握が難しい
業務時間と私的時間の区別に加えて、残業時間や休日勤務などの問題が起こります。明確な区別が難しい場合は、「労働時間を算定し難い」といった一定の要件充足を確認した上で、みなし労働時間制を検討することも一案です。また、自宅から顧客先などへの移動時間が発生する業務では、あらかじめ移動時間の労働時間該当性を確認しておくことは重要です。
(3)労働者の健康に対する配慮義務が履行しにくい
休憩なしのパソコン操作や、労働時間の長時間化という問題などに現れます。照明・椅子、作業台、パソコンの連続使用時間などに関して指示をきめ細かく行うことが求められるでしょう。
(4)労災保険の適用性が判断しにくい
自宅が就労場所であるため、傷病と業務との関係性の判断を困難にさせます。また、移動時間の労働時間該当性との関係でも業務災害か通勤災害かが判断しにくいことが想定されます。
(5)通信やIT機器などに対するセキュリティ管理が困難
使用するパソコンのウィルス感染、盗難、機密データ・個人情報の漏洩などの問題です。取り扱う労働者のレベルの相違もあり、システム化と同時に指導・教育・研修の実施しましょう。
業務内容をマニュアル化して、就業規則と連動させておく
以上の課題を考える場合、厚生労働省の「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成20年7月28日 基発第0728001号)を拠り所に大きな枠組みを構築しつつ、実務レベルでは具体的な取り決めをしておかなければなりません。
労働条件の明示の際に、就労場所、就労時間などの労基法の基本事項に加えて、移動時間の取り扱い、データ・情報の取り扱い、電話やインターネットなどの通信費の費用負担などの付加事項をしっかりとインフォメーションしておきましょう。また、健康面や傷病と業務との関係についても、できるだけ事前案内しておくと無難です。
事前措置としては在宅勤務におけるグレーゾーンをなくすことに主眼を置き、業務内容や業務遂行方法などをマニュアル化して、就業規則と連動させておくことが大切です。その上で研修を行い、詳細を説明しておくことが企業のリスク軽減に役立ちます。
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