Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を締めくくる展覧会「Wonder Museum」が開催
2013年の結成以来、J-POPシーンを駆け抜けてきたバンド・Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)。いくつもの前人未到の記録を打ち立て、今や国民的バンドとなった彼らのメジャーデビュー10周年を記念した展覧会「Mrs. GREEN APPLE MGA MAGICAL 10 YEARS EXHIBITION『Wonder Museum』」 が、2026年1月9日(金)まで、「虎ノ門ヒルズ」の「TOKYO NODE(トウキョウ ノード)」で開催している。
同展は、バンドのデビュー10周年プロジェクト「MGA MAGICAL 10 YEARS」を締めくくる特別企画だ。楽曲・セット・衣装・映像など、多彩なクリエーティブを通して、ミセスが築いてきた世界とその舞台裏を垣間見ることができる。ここでは、展覧会の様子をレポートする。
展覧会の「幕が上がる」

展覧会のイントロには、青緑色の印象的なキービジュアルと「Wonder Museum」のロゴが掲げられている。報道関係者にも事前情報がほとんど知らされないまま、重厚な扉がゆっくりと開く瞬間、胸の奥がざわついた。「幕が上がる」という表現が、まさにしっくりくる。

最初の部屋では、大きな木の下に机が置いてある。ツリーには、船やクジラ、ローファーなど、ミセスのファンならすぐにピンとくるモチーフがランプとなってつり下がっている。机には描きかけの地図が投影され、どこからともなく、聞き覚えのあるせき払いや息遣いが聞こえてくる。「きっとあの人だ」と思った瞬間、代表曲のイントロやギターソロが流れ出し、ランプが一斉にきらめき始める。
「ミセス」という巨大な光

次のエリアでは、巨大なネオンサインとメリーゴーラウンドが私たちを迎える。視界が一気に開けて、思わず胸が高鳴った。ここでは、ミセスの楽曲やさまざまなクリエーティブが立体的に展示されていく。
ここで少し、彼らの歩みに触れておきたい。2013年、当時高校生だった大森元貴が同級生らを誘って結成したのがMrs. GREEN APPLEだ。「音楽で成功するための階段をスキップせず、一つ一つ自分たちの手で積み上げてきたバンド」と関係者から評されるように、200人規模のライブハウスから始まり、デモ音源のリリースなど地道な活動を続けて2年でメジャーデビューをつかみ取った。しかし、自身の孤独や欲求が埋まることはなかったと大森は語る。「ぽっと出」「すごい高校生バンド」と呼ばれることもあり、「10年後を見てろよ」と思っていたという。
メンバーの加入や脱退、活動休止を経て、現在は彼らの才能を遺憾無く発揮しながら「フェーズ2」と呼ばれる局面を進んできたミセス。そんな彼らを一気に国民的バンドへと押し上げたのが、2023年にリリースされた『ダンスホール』である。SNSを中心に爆発的に広がり、当時のミセス史上最速でストリーミング1億回再生を突破。彼らの存在感を決定づけた一曲になった。

「DANCE-GO-ROUND」の展示では、その『ダンスホール』で3人が初めてダンスパフォーマンスに挑戦した際の衣装が、きらびやかなメリーゴーラウンドに乗って回転している。光にきらめきながら動き続ける衣装は、まさにミセスの新章が躍動する瞬間を象徴していた。
「RECORDING THEATER」の展示では、「日本レコード大賞」をはじめとして音楽アワードを総なめした2024年の楽曲『ライラック』を3人が演奏する映像が観られる。ライラックの花をイメージした美しい薄紫色が印象的なジャケットでありながら、「青に似た酸っぱい春とライラック 君を待つよここでね」「あの頃の青を覚えていようぜ 苦味が重なっても光ってる」と楽曲では幾度となく「青」について歌う。
同曲は主人公になれなかった人間を描いた楽曲。2018年の楽曲『青と夏』では「主役は貴方だ」と歌っているのに対し、同曲では残酷なくらい鮮明に「主人公の候補くらいに自分を思っていたのに 名前も無い役のような スピンオフも作れないよな」と歌い上げる。大森自身も『ライラック』は『青と夏』のアンサーソングに近い感覚だといい、「ちょっぴりあの頃から大人になったであろう僕が 今 『青』を綴ってみました。」と語っている。

「INTO THE ATLANTIS」では、深海を思わせる幻想的な空間に『DOME LIVE 2023 “Atlantis”』の衣装が展示されている。タイトルに冠した「アトランティス」は、約9000年前に海中に没したと伝えられる伝説の帝国。ライブ本編では、「神殿が海底に沈む前、最も栄えていた時代の祝典」をテーマに、メインステージに神殿を建て、100トンもの水を使った演出が行われた。展示では、そんな神秘的で壮大な世界観を閉じ込めた空間の中で、衣装の緻密なディテールを間近に堪能できる。

「QUE SERA SERA GARDEN」は、楽曲『ケセラセラ』をテーマにした展示。AIが同曲をイメージを描いた「視るケセラセラ」、リズムを振動に変換した「触れるケセラセラ」、AIが歌詞から香りを生成した「香るケセラセラ」を通して、楽曲をより深く味わえる。
「ケセラセラ」とは、「なるようになる」という意味を持つ言葉。大森はこの言葉を昔から信じてきたという。同曲は、弱みや劣等感を抱えながら今日を生きる人々を表現した楽曲。頭の中でコロコロと楽器が転がるような、優しく穏やかなサウンドで始まるが、そこから上がったり下がったりと細かくアレンジが変化し、一筋縄ではいかない味わいを見せる。浮き沈みを繰り返す人の心のような巧みな構成に、「ミセスは心を操るプロなのだ」と思わずうなずかされた。
クライマックスでは、胸の奥に秘めていた思いが叫びとなって飛び出すように、サウンドも歌唱も一気に熱を帯びる。明るく快活な印象のある曲だが、実はたたきつけるような激情を抱えた作品でもあるのだ。

「KUSUSHIKI GATE」では、楽曲『クスシキ』の壮大なミュージックビデオのシーンを再現している。同曲はアニメ『薬屋のひとりごと』のオープニングテーマとして制作された曲。薬の語源であり、摩訶(まか)不思議という意味を持つ古語「奇し(くすし)」からインスピレーションを得た。薬と毒、好きと嫌い、今世と来世など相反する概念を行き来しながら、変わらない愛を歌っている。

楽曲を横断しながら、バンドの世界に没入していく

「IMAGINATION VOYAGE」では、船のようなセットに乗り込み、4面のプロジェクションに包まれながら音楽の航海へ出かける。『ANTENNA』や『Magic』など代表曲に合わせて大地や海を駆け巡るように情景が移り変わり、世界中を旅するような映像体験ができる。
「CREATIVE HISTORY」では、手書きの楽譜や打ち合わせ音声、ジャケット撮影で使われた小道具、ミュージックビデオのコンテなど、ミセスが追い求め、心血を注いできた作品世界の断片がずらりと並ぶ。さらに、2連覇を達成した「日本レコード大賞」の盾やストリーミング100億回達成の際に「ビルボードジャパン」から贈られた盾など、彼らが積み上げてきた輝かしい歩みも紹介される。
音楽チャートのトップを飾ってきた彼らの、絢爛(けんらん)な空間にずらりと並ぶトロフィーや盾。その光景は一見、「権威の部屋」のようにも映る。しかしそこには「どうしてもここに集まってくれるファンに見せたかったんだろう」という温かい思いが漂っていて、10年かけてバンドとファンが一緒に勝ち取ってきた成果なのだと実感させられた。ファンにとっては、たまらなく誇らしい空間だろう。
展覧会のラストである「次の部屋」では展覧会を締めくくり、また次のフェーズへとつながるような演出が楽しめる。ここはネタバレが禁止なので、ぜひ自分の目で確かめてほしい。
展覧会の「アウトロ」まで観衆を巻き込み続ける

展示の後は、グッズをチェックしよう。ここも展覧会かと思うくらいバラエティ豊かにオリジナルグッズやビジュアルが展開され、オタク心をくすぐられる。同展のメインビジュアルに使用された3人の衣装も展示されているので、見逃さないよう。


締めには、オリジナルの証明写真マシンが登場。楽曲『ビターバカンス』のミュージックビデオの衣装に身を包んだメンバーのフレームと一緒に記念写真が撮影できる。展覧会では彼らの偉業に圧倒されつつも、最後はミセスと肩を並べて楽しんでいるような、軽やかな余韻が残るだろう。


ミセスの楽曲を聴いていると、なぜか自分が曲を聴いているというよりも、ミセスが自分の話を聞いてくれていると思える瞬間がある。展覧会を観終わった時に、その理由に心当たりがした。彼らは自己主張したり、「こうしなさい」と導いたりするのではなく、私たちとともにいる存在なのだ。
言うまでもなく、彼らの楽曲制作や演奏技術、歌声、クリエーティブのすべては常人離れしたクオリティを誇る。決して身近な存在ではないし、おそらく多くのファンは、一度も彼らに会ったことがないだろう。それでも「ともにいる」と感じてしまう。つらいことがあったときも、うれしいことがあったときも、ふと心の中にミセスが立ち上がる。誰にも見せない弱さや葛藤を、受け止めてくれる場所がそこにある。だから、私たちは彼らの音楽に救われる。
来年以降、バンドは「フェーズ3」という新たな局面を進むことを発表した。この展覧会が締めくくるフェーズ2は、社会現象を巻き起こす国民的バンドへと駆け上がった一方で、楽曲の表層や断片だけで評価され消費されることを許容した時代でもあった。大衆とアイデンティティが交錯した時代を越えて、フェーズ3では彼らの限りない創造性が、私たちを新たな世界へ連れて行ってくれるはずだ。
この展覧会は、またミセスとともに歩んでいける未来のドアを明るく押し開けてくれるだろう。
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