「平田雄己監督特集上映」平川監督&細川岳インタビュー 高評価を誇る“東京藝大修了制作”がスクリーンに
新鋭・平田雄己監督監督による短編『ピクニック』と中編『ロスト・イン・イメージズ』を同時上映する「平田雄己監督特集上映」が、ポレポレ東中野にて11月22日(土)より三週間限定公開となります。
平田雄己監督は、神奈川県出身・1999 年生まれの現在 26歳。日本大学芸術学部映画学科監督コースを卒業後、 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域に進学。蘇鈺淳監督『走れない人の走り方』の演出部をはじめスタッフとしても経験も積みつつ、大学院の教授であった黑沢清・諏訪敦彦・塩田明彦らに師事。東京藝術大学大学院映像研究科在学時に制作を行った『ピクニック』と『ロスト・イン・イメージズ』はいずれも高評価を受けていながら、これまで学内および修了制作展での上映しか行われておらずソフト化・配信予定も無く、本特集が貴重な上映機会となります。
平田監督と、『ロスト・イン・イメージズ』主演の細川岳さんにお話を伺いました。
――『ピクニック』、『ロスト・イン・イメージズ』とても楽しく拝見いたしました。まずは、『ロスト・イン・イメージズ』の主演に細川さんを起用された理由からお伺い出来ますでしょうか。
平田:『佐々木、イン、マイマイン』(2020)のイメージが強かったのですが、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2023)を拝見して、全然違う方向性のお芝居もされるのだなと感じました。そのことが頭の中にあって、『ロスト・イン・イメージズ』の桐山のキャスティングを考えている時に細川さんに打診させていただきました。
桐山は周囲の状況に翻弄されていく立ち位置なので、どのくらいの温度感で演じていくのか、あらゆる方向のお芝居が出来る細川さんにお願い出来たらありがたいなと。現場でも色々お話させていただきながら進めていけてありがたかったです。
細川:脚本をいただいてめちゃくちゃチャレンジングな作品だなと思いました。東京藝術大学の修了制作ということで予算も潤沢にあるわけではないと思いますが、その中でこういった挑戦する作品を作ろうとしているのが素敵だなと思いましたし、そのチャレンジに乗っかってみたいなと。そして、僕の好きな俳優さんたちが集まっていて、皆さんと作品作りがしたいなとも思いました。
――今、細川さんが言ってくださった様に予算的な制限、時間的な制限もあったと思います。その中で監督はどの様な映像表現をしたいと考えていましたか?
平田:初稿の段階ではもっとストーリー展開も多かったのですが、どのくらいならば実現出来るかと考慮しつつ凝縮していきました。プロットを書いて、脚本の福嶋芙美さんにまとめていただいて、そこからプロデューサーとも話しつつ進めていきました。「本当か嘘が分からない状況に翻弄されていく」という世界を軸として描きたいなと思っていたので、そこから離れているシーンを削っていきました。
――この「本当か嘘が分からない状況」の世界観がすごく素敵でしたが、演じている細川さんは混乱しそうだなと、いち観客として感じました。
細川:めちゃくちゃ混乱しました。でも出来上がった作品を観たら、自分が特に混乱したシーンがすごく面白い仕上がりになっていて。平田監督の面白い発想が、映像と音とによってまとまっていたので、自分は出る側ですけれど凄いなと。
――演出はどの様に進めていきましたか?
細川:基本「抑えて欲しい」という感じでしたよね。
平田:僕は基本的に芝居を抑えて欲しいと思ってしまうタイプなので、もともとローなお芝居をされる俳優さんにお願いすると、ものすごく抑えた感じに仕上がってしまう懸念があったんですね。でもそれが細川さんだと、「内面に閉じ込めているものがある」ということを感じさせるお芝居をしてくださったので。
細川:周りに振り回されても、自分の状況がどんどん分からなくなっていった時に、もっと感情がワッと出るのではないか?ということも思ったりしたのですが、そういうった感情は出さずに内面で抑え込む、という話を監督とした気がします。
平田:ジャンル性が高めというか、フィクションの度合いが高い作品を撮ることが初めてだったので、お芝居をどう説明していくのかは手探りの状態でした。細川さんに助けていただき感謝しています。
――映画の中に映像が出てきますが、質感の切り替えが面白いなと感じました。
平田:劇中劇の方がシネスコで横に長く、現実の方が16:9という見せ方が一般的かなと思ったのですが、カメラマンと話している時に、「この映画の中でやっていることは、現実の方がもはや嘘に見えるということだから、見せ方を逆にしても面白いかも」ということを思って。それに合わせて使用するカメラも変えていました。撮影が韓天翼君というスタッフなのですが、僕はちょっとノイズになる部分があっても、それはそれで面白いというタイプなんですけど、韓君は完璧主義というか全てがコントロールされている絵を撮りたいという気持ちもあり、そこで意見を戦わせることもありました。
細川:絵が1個1個強いなと思って。そういう意味でずっと驚かされていました。映像の質感の変わり方とか、「普通に映画を作っていない」印象があったので、楽しく体感させてもらっていました。
――今回の特集上映では『ピクニック』も一緒に観ることが出来ますが、全く別のテイストの作品であることも面白いですね。
平田:今回上映していただく2作品が、自分の中の両極端な部分であると思います。以前、ユーロスペースで2作品上映した時に、『ピクニック』が良いという人と、『ロスト・イン・イメージズ』が良いという人がハッキリ分かれたんです。「どちらも好き」と言ってくださる方もいますが、観てくださった方の好みが2つにパキッと分かれたことが自分の中でも意外で印象的でした。
細川:『ピクニック』素晴らしかったです。なんかもう3カット目で「これ絶対良い作品だな」と思える演出というか。
平田:『ピクニック』はセリフがなくて、その状況のシチュエーションと、「こういった会話をしてください」ということだけ渡してお願いしています。
細川:じゃあ劇中の会話は決まったセリフでは無いんですね。
平田:そうなんです。その中でOKテイクだけを並べて、1時間半から2時間ほどあったので、頑張って20分にまとめていきました。
細川:『ロスト・イン・イメージズ』はもちろんですけれど、『ピクニック』は個人的にもすごく好きな作品になりましたので、多くの方に劇場で楽しんでいただきたいですね。
――ポレポレ東中野に来るお客様たちの反響が楽しみですね。最後にお2人の今後の展望、作っていきたい作品、演じてみたい役柄などお伺いしたいです。
平田:今回上映する2作品はどちらも好きなせ世界なのですが、極端な作品を作ったなと自分でも思っているので、この2つを結びつけていける様な、両方の側面のある作品を作りたいと思います。
『ピクニック』はかなり現実に近いというか自然な流れで作っていた作品で、『ロスト・イン・イメージズ』は「これは全部フィクションなんだ」という意識のもとで作った作品で。この2つの両面があることが映画の面白さでもあると思うので、もっと融合していく作品を作れたら嬉しいなと思います。
細川:俳優としては、作品との出会いは縁なので、自分からこういうのに出たいというのは無いのですが、SF作品はやってみたいなと思います。僕は俳優か宇宙飛行士になりたいと子供の時にずっと思っていて、宇宙飛行士は賢く無いと無理なので早々に諦めたのですが、『ゼロ・グラビティ』(2013)を観た時に、「宇宙来れたからもういいな」と思ったんです。宇宙飛行士でなくても映画館の中で宇宙を感じられたから。映画にはそうやって思える力が一瞬でもあるなと思っていて、面白いなと思います。
――今日は楽しいお話をありがとうございました!
撮影:オサダコウジ
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。
