映画『ホウセンカ』原作・脚本 此元和津也さんインタビュー「何かを主張する映画ではなく、ある記憶を見つめ続けた痕跡です」

“大逆転”に人生を賭けた、ある男の愛の物語。テレビアニメ『オッドタクシー』のクリエイターによる映画『ホウセンカ』が全国上映中です。
無期懲役囚の老人・阿久津が独房で死を迎えようとしていたとき、声を掛けたのは人の言葉を操るホウセンカだった。“会話”の中で、阿久津は過去を振り返り始める。死にかけのヤクザが起こす大逆転とは?原作・脚本を手がけた此元和津也さんに作品へのこだわりをお聞きしました。
◆「ホウセンカ」を発表された際、此元さんご自身はどの様な想いを抱え、どんなメッセージを作品にこめようとしたのでしょうか。
最初から伝えたいことを用意して書くことはほとんどありません。書いているあいだは、誰かに説明するより、自分でも言い切れない感覚を確かめています。残ったものを観た人がどう受け取るか、そこに意味があると思っています。
強いて言えば、人は「なくした時間」とどう共存するのか、という問いです。過去は所有できない。だからこそ、手ざわりのある形にしてそばに置こうとする。その不器用さを肯定したかった。『ホウセンカ』は何かを主張する映画ではなく、ある記憶を見つめ続けた痕跡です。その痕跡が、観る人の過去のどこかと静かにつながれば、いちばん嬉しいです。
◆脚本執筆時から映像は頭に浮かんでいましたか?
書く前に、ぼんやりしたイメージを浮かべます。輪郭が見えた瞬間に一気に吐き出す。台詞の速度や間は、そのときの温度と気配に合わせて決めます。
漫画ではネームで映像を具現化しますが、映画の絵コンテは監督の領域。脚本は呼吸の設計図にとどめ、現場で立ち上がるイメージを尊重します。自分の頭の映像は持ちつつ、支配はしない。ずれも含めて作品になると思っています。
◆上記の質問に少し被りますが、脚本で書いているセリフ、言葉は音として脳内に聞こえてきますか?それとも、執筆している際はあくまで“文字”なのでしょうか。
基本は文字で書き、紙の上でリズムと意味を整えたうえで音として確かめます。声優さんによって最適解は変わるため、言いにくい台詞は現場での調整を歓迎します。守ってほしいのは「核となる意味」と「フレーズのリズム」の二点。語尾や言い回しは、現場の体温に委ねます。

◆伏線を考える際、時間は意識していますか?(このくらいのタイミングでこの情報を入れよう、など)
まずは、無駄に見えることも、そうでないことも、とりあえず全部書く。流れの中で生きるものは拾い、機能しないものは置いておく。書いてみて偶発的に生まれるものもあれば、最初から計算して置く継ぎ目もある。
配置の基準は時計ではなく心拍です。最後に映画の尺に合わせて無駄を削ぐ。だから僕にとっては伏線というより、呼吸に合わせて残った置き石です。

◆木下監督と再タッグとなりました。木下さんだからこそお願い出来ること、阿吽の呼吸で通じている部分はあるのでしょうか。
木下監督は任せてくれる人です。こちらの持ち場をきちんと尊重してくれるから、僕も監督の領域に踏み込まない。やり取りはシンプルで、2回ほど打ち合わせてイメージを共有したら、あとは信頼して放置してくれる。ただ、ある程度急かされないと僕はいつまでもやり始めないので、催促のニュアンスを感じさせない進捗確認が一度だけ入りました。その距離感が絶妙にちょうどいいです。
◆皆さんの声のお芝居も素晴らしかったです。此元さんが本編を観た際に特に印象に残ったお芝居はありましたでしょうか?
新居の手元のものだけで『スタンド・バイ・ミー』のリズムを作って口ずさむ場面です。脚本時点で最も像が鮮明だっただけに、どう転ぶか、ここは紙一重だと思っていました。実際は、生活の音が思い出に変わる瞬間として立ち上がっていた。初見は楽しく、二度目は少し痛い。その両面が立っていて、仕上がりを観てほっとしました。

◆様々なジャンルの作品を作られていますが、頭の切り替えはどの様に行っていますか?
同時進行はせず、一本終えたらまるごと何もしない期間をつくります。ダラダラ遊んで頭を空にする。いったん止まってから行き先を変える。しばらくすると作品の温度や匂いが自然に来る瞬間がある。そこまで待って、来たら一気に書き始めます。
◆此元さんご自身が今一番関心があるコンテンツなどあれば教えてください。
「コンテンツ」と言えるかは微妙ですが、最近はアナログに惹かれています。カセットのヒスや待ち時間、万年筆の紙の抵抗、ニキシー管の滲む数字。無駄なものに豊かさを感じます。

■ストーリー
「ろくでもない一生だったな」
無期懲役囚の老人・阿久津が独房で死を迎えようとしていたとき、声を掛けたのは、人の言葉を操るホウセンカだった。“会話”の
中で、阿久津は過去を振り返り始める。
1987年、夏。海沿いの街。しがないヤクザの阿久津は、兄貴分・堤の世話で、年下の那奈とその息子と、ホウセンカが庭に咲くアパートで暮らし始めた。縁側からは大きな打ち上げ花火が見える。幸せな日々であったが、ある日突然大金を用意しなければならなくなった阿久津は、組の金3億円の強奪を堤と共に企てるのだった――。
「退路を絶ったもんだけに、大逆転のチャンスが残されてんだよ」
ある 1 人の男の、人生と愛の物語。
■クリエイタープロフィール
・木下⻨ (https://www.pics.tokyo/member/baku-kinoshita/)
アニメーション監督/イラストレーター
多摩美術大学在籍時からイラストレーター/アニメーターとして活動。アニメーターや監督補佐を経て、オリジナル TV アニメーション「オッドタクシー」で 自身初となる監督、キャラクターデザインを担当。同作で Crunchyroll Anime Awards 2022 /
Best Director、第 25 回文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 新人賞などを受賞した。アニメーションの演出やコンセプトアート、キャラクターデザインなど幅広く活動分野を広げている。P.I.C.S. management 所属。
・此元和津也 (https://www.pics.tokyo/member/kazuya-konomoto/)
漫画家/脚本家
2013年〜2017年に連載した漫画「セトウツミ」が、映画化&ドラマ化の大ヒット作品となる。2019年、映画・ドラマ・Hulu
オリジナルストーリー展開の「ブラック校則」で、本格的に脚本家としての活動を開始。2021年に放送された TV アニメ「オッドタクシー」でオリジナル脚本を手掛け大きな話題を呼んだ。現在は独自の作家性を生かして、漫画以外の領域へも活動の場を広げている。P.I.C.S. management 所属。
・CLAP(https://clapclap.co.jp/)
2016 年に映画『この世界の片隅に』を担当したアニメーションプロデューサーの松尾亮一郎が設立。映画作品を中心に、高品質な映像作品を手掛け続けるアニメーションスタジオ。制作作品に、『映画大好きポンポさん』(2021 年)、『夏へのトンネル、さよならの出口』(2022 年)ほか。『夏へのトンネル、さよならの出口』は、2023年アヌシー国際アニメーション映画祭ポール・グリモー賞、第32回日本映画批評家大賞をそれぞれ受賞している。
■キャスト
小林 薫 戶塚純貴 満島ひかり 宮崎美子
安元洋貴 ⻫藤壮馬 村田秀亮(とろサーモン) 中山功太
ピエール瀧
監督・キャラクターデザイン:木下⻨ 原作・脚本:此元和津也 企画・制作:CLAP
音楽:cero / 髙城晶平 荒内佑 橋本翼
演出:木下⻨ 原田奈奈 コンセプトアート:ミチノク峠
レイアウト作画監督:寺英二 作画監督:細越裕治 三好和也 島村秀一
色彩設計:のぼりはるこ 美術監督:佐藤歩 撮影監督:星名工 本䑓貴宏
編集:後田良樹 音響演出:笠松広司 録音演出:清水洋史
制作プロデューサー:伊藤絹恵 松尾亮一郎
宣伝:ミラクルヴォイス 配給:ポニーキャニオン 製作:ホウセンカ製作委員会
■公式 HP:https://anime-housenka.com
■公式 X:@anime_housenka https://x.com/anime_housenka/
■公式 Instagram:@anime_housenka https://www.instagram.com/anime_housenka/

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