『Ghost of Yōtei』レビュー:「PlayStation5を持っててよかった!」と思える傑作オープンワールド時代劇ゲーム

ゲームというメディアにおいて、日本の誇るエンターテインメントジャンルのひとつ、時代劇を効果的に用いて、大きな人気を博した「Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)」。その続編である『Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)』がとうとうリリース!

しかも今回、なんと筆者は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)から商品提供を受けるかたちでレビューできるという機会に恵まれた。そこでこの幸運を活かせるよう、このレビューで本作の魅力をしっかりお伝えしたい。

前作超えの傑作オープンワールド・3Dアクション・アドベンチャー! 『Ghost of Yōtei』

『Ghost of Yōtei』は、1603年の蝦夷地を舞台にしたオープンワールド形式の3Dアクション・アドベンチャーゲーム。プレイヤーは、幼い頃「羊蹄六人衆」によって家族を殺された女性武芸者・篤(あつ)となり、復讐を果たすための旅を続けることとなる。

まず最初にお伝えしておくと、本作は傑作だ。ただ商品提供を受けてレビューしている以上、「ちょっと甘めにレビューしてるんじゃないの?」と思う方もいるかもしれない。だが、「甘めにレビューしよう」などという隙が見当たらないほど、本作はガチで面白いタイトルなのだ。

正直なところ、これまでのPlayStation5向けタイトルの中で、トップ3に入る一作だと思うし、少なくとも前作「Ghost of Tsushima」を超えていると思う。もし「このレビューは信用できないぜ!」と思う人は、まずはぜひ前作をプレイしてみてほしい。「Ghost of Tsushima」という傑作を作り上げた実力派チームが、前作を超えるゲームを作り出すことに成功した……プレイした後であれば、そう考えることへの違和感は少ないはずだ。

なお、筆者は前作「Ghost of Tsushima」もレビューしている(『Ghost of Tsushima』レビュー記事)。気になる人は、よかったら読んで欲しい。

さて、すでに何度か書いているし、何より「Ghost of~」という名称からもわかる通り、本作は「Ghost of Tsushima」の続編だ。ただ、ストーリー的には繋がっていない、ストーリー的には。

「Ghost of Tsushima」が鎌倉時代中期の長崎県・対馬を舞台としていたのに対し、本作の舞台は江戸時代初期の北海道・羊蹄山。時代が大きく離れている上、舞台設定も登場人物も、大きく異なっている。

しかし、主人公が「Ghost」という立場に身をやつす点は共通している。「Ghost of Tsushima」では、二度の死に目に遭いながらも生存した主人公、境井 仁(さかい じん)が、侍としての生き方を捨て「冥人(くろうど)」として歩む姿が描かれていた。今作では、「羊蹄六人衆」の襲撃によって生きたまま磔にされた篤が生き残り、怨霊として復讐達成を目指す姿が描かれている。

いずれも、「Ghost」という言葉が相応しい。

また、大まかなシステムも共通だ。プレイヤーはオープンワールドとして描かれた蝦夷地を探索し、篤をパワーアップさせながら「羊蹄六人衆打倒」というメインの目的を目指す。

バトルシステムも、基本部分は前作を踏襲。スピーディーに攻撃できる「速打」、相手の体勢を崩すことのできる「強打」、敵の攻撃を受け止める「防御」、防御から攻撃へと転じることが可能な「受け流し」、そして回避といったアクションを主体に、リアルタイムで敵と戦う。

美しいビジュアルとツボを押さえた設定によって時代劇の空気を堪能!

筆者は本作が前作超えの傑作だと書いた。では、本作のどの部分が前作を超えているのか?

一番わかりやすい前作超えポイントは、なんといってもビジュアルだろう。

このレビュー記事で使用しているスクリーンショットは、いずれも筆者がPlayStation5で撮影したもので、ゲーム内の画面設定は、「画質優先」。一目瞭然、ビジュアルのクオリティは非常に高い。単純に描画品質が高いだけでなく、構図や配色、シチュエーションなど、「時代劇として絵になる」シチュエーションが多く、プレイしていて思わず、「カッコいい……」「なんてきれいな景色なんだ……」と見とれてしまうレベルだ。

ビジュアルクオリティの高さは、探索シーンだけのものではない。バトルシーンに関しても前作同様、一騎打ち開始時や、戦闘前にセリフを交わす際など、「これぞ時代劇!」という構図が多く、思わず興奮してしまう。

また、ビジュアルを細かく設定できるのも素晴らしい。黒澤明監督に影響を受けたモノクロ表現が味わえる「黒澤モード」、三池崇史監督の表現に影響を受けたド派手なバイオレンス表現が爽快な「三池モード」といった画像モードに加え、「血の表示」「切断表現」の有無を選択可能。

時代劇ファンにとって「黒澤モード」「三池モード」が魅力的なのは言うまでもないだろう。ただ個人的には「血の表示」「切断表現」の切り替え機能に惹かれた。この機能、単なる「バイオレンス表現が苦手な人への配慮機能」ではないと思う。

というのも、時代劇ファンにとって「血の表示」オフ、「切断表現」オフというのは、「テレビ時代劇」の映像表現なのだ。黒澤明や三池崇史の監督作品に限らず、映画として作られた時代劇は血も飛び散れば、身体が切断されることもある。しかし、「水戸黄門」や「大岡越前」「暴れん坊将軍」といったテレビ時代劇では、チャンバラシーンで血が出ることはなく、切断表現もない。

だからこそ筆者は、一時期「テレビ時代劇より断然、映画の時代劇だろ!」と思っていた。しかし、今となっては「テレビ時代劇にはテレビ時代劇の魅力がある」と思っている。

だからこそ、ゲームプレイ中に設定一発で黒澤時代劇にも、三池時代劇にも、テレビ時代劇にもなるというこの設定がたまらなく嬉しい。

自由度の高さが生む自然な感情移入

ビジュアルの次に目の行く前作超えポイントが、自由度の高さ。前作もオープンワールドゲームとしての自由度の高さはかなりのレベルに達していた。しかし、蒙古兵の襲撃から、主人公が単身での戦闘を決意するに至るまでの背景を描く前作冒頭部分は、ほぼ展開が一本道。

これに対し本作は、冒頭のかなり早い段階からオープンワールド的な自由度が解放される。

と言っても本作が、背景となる物語表現を放棄しているわけではない。篤が復讐を決意するに至った経緯は過去の回想として描く形にすることで、自由度とストーリー表現を両立させたのだ。

具体的に言うと、プレイヤーは自由に行動することができ、訪れた先でその場所にちなんだ過去の回想が再生されるというかたち。別作品ではあるが、オープンワールドゲームの傑作である「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で採用されていた手法が、効果的に用いられている。

また、バトルシーンにおいても自由度はアップしている。前作では、主人公のメイン武器が刀のみで、敵の戦い方に応じて「型」を変えるというシステムだった。これに対し今作では、刀以外に二刀、槍など様々な武器を戦闘中でも自由に変更することができる。

言ってみれば「型」の代わりに武器の種類があるわけだが、立ち回りが大きく変化するので、バトルの自由度が高く感じられた。

探索、バトルの両面で自由度がアップした結果、篤は序盤から極力プレイヤーの意志に従って動く。このため、本作はより自然に主人公へ感情移入できるのだ。

圧倒的臨場感! 時代劇の世界に没入

ビジュアルの美しさや自由度の高さによって本作は、自分が時代劇の世界に入りこんだかのような、圧倒的な没入感を実現している。しかも前作に引き続き、けれん味ともいうべき時代劇特有の演出をこれでもかと盛り込んでいる。

本作が持つ時代劇特有の演出のひとつが、プレイヤーを目的地へと誘う「風」の演出だろう。地図上で目的地と設定したポイントへ「風」が吹くことで、移動すべき方向をガイドしてくれる。前作にもあったが、本作でも踏襲している演出だ。

次に、本作の時代設定も「時代劇感」を高めている。というのも、日本の時代劇は、江戸時代を舞台とすることが多い。

そして本作の舞台は、江戸周辺でこそないものの、時代は江戸時代。このため、鎌倉時代を舞台にしていた前作よりも、空気感が時代劇に近いと感じた。

時代劇といっても様々な作品が存在しているが、本作から強く感じるのは「木枯し紋次郎」や「子連れ狼」といった流浪人を主人公とした時代劇だ。さまざまな場所を訪れ、その場所にちなんだトラブルを解決して去っていく……という流浪ものの構造と、オープンワールドゲームである本作の構造が非常にマッチしている。そうした中で見逃せないのが、「賞金首」の存在だろう。

「賞金首」はサブクエスト的な要素で、「賞金首」打倒の依頼を受注し、見事倒せば報酬が獲得できるというもの。メインクエストではないので、必ずプレイしなければならない要素ではない。

だが、筆者が本作の中でぜひオススメしたい要素だ。というのも、各「賞金首」のキャラクター性が極めて深く設定されており、「賞金首」クエスト1つ1つが、短編時代劇のような楽しさを持っているからである。

たとえば賞金首の一人「鴉の源蔵」は、殺した相手の目をカラスについばませるという、凶悪な相手。実際「鴉の源蔵」のいる周辺にはカラスが多く、設定だけでなく演出的にもその異常さが表現される。

こうした設定や演出が組み込まれているのは、「鴉の源蔵」だけではない。賞金首一人一人の設定や演出が丁寧に作られ、キャラクターが立っている。だからこそ、短編時代劇のような楽しさが味わえるのだ。

個人的には、本作が「賞金首」を追いまくるゲームだったとしてもいいとまで思っている。しかし、メインシナリオで復讐の対象となる「羊蹄六人衆」は「賞金首」以上に魅力的。

刀の達人である「蛇」、大太刀使いである「鬼」、忍びであり謀りごとに長けた「狐」、鉄砲に精通した「龍」と「蜘蛛」。そして「羊蹄六人衆」の頭である斎藤は、あらゆる武器に精通した強さを持ちながら、侍たちを束ねるだけの人間的魅力も持ち合わせている。

設定的にもビジュアル的にもカッコいい。ただ、こんな風に立ちまくったキャラクターが、いかにもゲーム的、あるいはアメコミ的と感じる人もいるかもしれない。しかし、個人的にはむしろ「魔界転生」や「甲賀忍法帖」といった山田風太郎作品のエッセンスを感じた。

ここまで触れてきた通り、本作は前作以上に「魅力的な時代劇」のエッセンスを採り込み、それを美麗ビジュアルと高い自由度で表現している。だからこそ、自然と没入してしまうのだ。

PlayStation5を持っててよかった! 時代劇ファンに強く勧める一作

現在は、ひとつのゲームタイトルがさまざまなプラットフォームで配信されるマルチ・プラットフォームが大前提の時代だ。なので、なかなか「このゲーム機を持っていてよかった!」という気持ちを抱きにくいように思う。そうした中で本作は、「PlayStation5を持っててよかった!」と思える一作だと感じた。

もちろん、前作『Ghost of Tsushima』がそうであるように、本作もいずれはPCに対しても配信されるのかもしれない。とは言え現時点でプレイできるのはPlayStation5のみ。さらには、PlayStation5専用パッドであるDualSenseの機能を活かした要素も多いため、仮にPC版がリリースされたとしてもなお、「PlayStation5でプレイしてよかった!」と思えるような気がする。

前作のファンはもちろん「買い」だし、時代劇ファンなら確実にプレイする価値のある一作と言えるだろう!

(文/田中一広)

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