長澤まさみ主演、映画『おーい、応為』大森立嗣監督インタビュー「この作品で運気が上がる、みなさんのお守りのような映画になれば」

俳優・長澤まさみさんを主演に迎え、日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎の娘であり弟子であった葛飾応為(おうい)のこれまで語られなかった日々を映し出す映画、『おーい、応為』が公開中です。

「美人画では敵わない」と北斎も認めるほどの才を持ちながらも、自らの意志で北斎と共に生きる選択をした応為の勇ましく、そして神々しい姿を、『日日是好日』『星の子』の大森立嗣さんが脚本と監督を務め、映画化。映画『MOTHER マザー』に続いて長澤さんと作り上げた女性絵師の物語や魅力について、大森監督にお話をうかがいました。

■自分が自分がではなく、人のために生きるような姿勢が魅力的

●飯島虚心の「葛飾北斎伝」と杉浦日向子の「百日紅」を原作に脚本化されたそうですが、葛飾応為ついてどのような印象を持たれましたか?

かなり前になりますが、コロナ禍で世の中が分断されていくように感じていた時に今回の元になる物語を読みまして、応為のように人のために生きるような発想であれば、そういうことは起きないだろうと思いました。

応為は、葛飾北斎というとてつもない才能の脇にいるけれども、応為そのものにも絵を描く才能があるんです。でも応為は、北斎の横にいる人生を選びました。自分よりも他人を活かすことを選んだ人が、今もう一度新しく見えたと言いますか、もしかしたらみんなの希望、争いや分断が起きないきっかけになるのかもしれないと思ったんです。

でもそれは大きな側面で、本当のところはどうか分からないけれども、応為という女性はあの時代の中で自分の好きなようにふるまって生きているけれども、北斎という人に対して深い愛を持っていると。でも自由だから親子げんかもあるわけで、そういうところに大人の人としての魅力を少し感じたんです。今の世の中、あれこれダメだとルールがたくさんある中で、自分が自分がと、わたしがわたしがではなく、北斎のためにやっている風にしている姿勢とでもいうのか。もちろん自分のためにも描いているのですが、それでも一歩下がっているというか、そういうところに僕の解釈で魅力を感じたんです。

応為と北斎は、少し距離を取っているところがいいですよね。お互いがお互いを認めているという言い方が出来てしまうところなどは、逆にグッと来るというか、分かりやすい優しさではなくて、遠回しで不器用だったりするけれども、根底に愛情が見え隠れするところがいいなと思いました。

■長澤さんは、自分そのものを問われているということが無意識的に分かっている

●その応為は、この映画の中では長澤さんという俳優を得て、魅力的に輝いていました。応為と友情を交わす実在の絵師・善次郎(渓斎英泉)役の髙橋海人さんも役の向こうに長澤さん本人が垣間見えると舞台挨拶で言われていたかと思いますが、改めて応為役の長澤さんはいかがでしたか? 

長澤さんは、分かりやすく言うと毒親役みたいな映画『MOTHER マザー』の時に比べて、演じやすい役だったと思うんです。舞台挨拶でも言いましたが、長澤さんが女優として生きて来た道のりみたいなものはもちろん素晴らしいですが、そこで培われてきた女優としての技術というものよりも、長澤まさみさんの存在みたいなものが大きいということ。それが役を通して見えてきたらいいなと、僕はずっと思っていました。

長澤さんという女優は一度、映画『MOTHER マザー』でご一緒したのでなんとなく分かっているのですが、主役をいっぱいやってきた方だと思うけれども、細かい演技ということではなく、もう少し存在としていることが無意識的に得意な人だと思うんです。つまり、勝手にこぼれ落ちて来るものがいっぱいあるというか、要求すればいろいろな演技を見せてくれると思うけれど、そうじゃないんです。舞台挨拶で海人くんが言っていましたが、俳優という職業は役が憑依してきて演じるのではなく、存在そのものが問われていると。長澤さんは、自分そのものを問われているということが無意識的に分かっている。長けている。その結果、観ているお客さんにも、僕たちと同じ地平に生きている人を見ているような親近感がわく。そこが長澤さんの一番の魅力なんだろうなと僕は感じているんです。

■大事なものだと積極的に見せようとしてくるものはうそばっかり

●最後に監督ご自身のこともうかがいますが、初監督の『ゲルマニウムの夜』(05)からちょうど20年という年を迎え、何か思い新たにすることなどありますか?

実はこの本(『おーい、応為』)を書いた時期は10年以上前なんですよね。そう考えると何か変わったかと言うと、そうでもないんです(笑)。ただ、何も変わっていないかもしれないが、今こうして『おーい、応為』撮っていることに思うことはあります。というのも、当時はまだ未来がなんとなく見えていた時代というか、30代前半くらいの時はもう2000年代に入ってはいたけれど、今よりも世の中がまだ見えた気がするんです。でも今は、世の中がどうなっているのかが分かりにくい状況だと思う。なので、こういう応為のような人たちを、このタイミングで映画化できたことは、僕にとっては少し良かったことだなと思うんです。

この映画では、本当に身近な些細な親子の機微を描いているけれども、そこには大事なものが全部あると思っています。優しさだけでなく、悲しみがあってもどうにか乗り越えていこうとする人々の話なので、間違わずに生きていくうえでの大事なもの描けたかなと。「大事なものだ」と言って、それらを積極的に見せようとしてくるものって、うそばっかりなんですよ(笑)。

劇中で地面に伏せて絵を書くシーンがあるのですが、僕の書いたト書きには祈りをしているように描くと書いてあるんです。なので、みなさんがこの映画を観て運が少し上がるように、お守りのような映画になればいいなと思っているので、ぜひご覧になっていただければなと思います。

■公式サイト:https://oioui.com/ [リンク]

■ストーリー

北斎の娘、お栄はある絵師のもとに嫁ぐが、かっこうばかりの夫の絵を見下したことで離縁となり、父のもとへと出戻る。父娘にして師弟。描きかけの絵が散乱したボロボロの長屋で始まった二人暮らしだが、やがて父親譲りの才能を発揮していくお栄は、北斎から「葛飾応為(おうい)」(いつも 「おーい!」と呼ばれることから)という名を授かり、一人の浮世絵師として時代を駆け抜けていく。

美人画で名を馳せる絵師であり、お栄のよき理解者でもある善次郎との友情や、兄弟子の初五郎への淡い恋心、そして愛犬のさくらとの日常……。嫁ぎ先を飛び出してから二十余年。

北斎と応為の父娘は、長屋の火事と押し寄せる飢饉をきっかけに、北斎が描き続ける境地

“富士”へと向かうが……。

(C) 2025『おーい、応為』製作委員会

(執筆者: ときたたかし)

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