映画『プロセキューター』大内貴仁アクション監督に聞くドニー・イェンの凄さ「シンプルの中にもまだまだアクションの可能性はあるんだな、と」

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の暗殺者・ケインが好評を博した、世界的アクション・スター、ドニー・イェンが監督・主演・製作を手掛けたアクション・サスペンス大作『プロセキューター』が全国公開中です。

2016年に実際に起きた麻薬密売事件をモデルに、『イップ・マン』シリーズの脚本家による二転三転する本格的な法廷劇が展開する。その一方で、『はたらく細胞』の大内貴仁アクション監督による、スタイリッシュな超絶ドニー・アクションがオープニングから炸裂! 香港で4週連続興収No.1の大ヒットを記録しています。大内アクション監督に、撮影の思い出やアクションへのこだわりなどお話を伺いました!

――本作とても楽しく拝見いたしました。アクションがカッコ良すぎて何からお聞きしたらよいか迷ってしまうのですが、まずはどの様にアクションを組み立てていったのでしょうか。

最初にお話をいただいた時に聞いていた設定と変わっている部分も多くて。大きな話の流れは今のままなのですが、元々はドニーさん自身もアクションをするつもりがなかったみたいです。1番最初は「ほとんどアクション無いんだけどね」と言われていました。そこから制作に入ってどんどんと変化していって、今の様に検察官がアクションをする映画になりました。そんな中で、これまでのドニーさんとはまた違った魅力が出るようなアクションを生み出さないといけないな、という所を意識して色々とプレゼンさせてもらいました。

――最初の設定から大きく変化していく、ということは香港映画界でよくあることなのでしょうか。

そうですね。そこはもう覚悟の上で現場に臨んでいて、臨機応変にその場に対応出来る心持ちでいました。日本で3、4週間ぐらい準備期間があって、作品のテーマとプロットを基にアクションのアイデア出しをしていくわけですが、香港での撮影に入ってから、どういう状態になっても対応出来る様にたくさんの技やアイデアをストックしていきました。そのストックはかなり役に立って、現場で急に展開が変わった時に、動画を見せて「この動きはどうですか?」とその場ですぐに提案することができたんです。それは大きかったです。

最初から設定の変更がなかったのは地下鉄のシーンくらいですね。途中アクションをしないという流れになった時は「ジェイソン・ボーン」シリーズの様な戦略を練ったアクションを考えてVコンテも作ったんです。それはそれで面白かったんですけどね。最終的には激しいアクションをするという方向性になったので、最初に考えていた地下鉄の環境や立地を活かしたポールを使ったアイデアやドニーさんがこういう戦い方をしたら面白いだろうという動きはそのまま活かすことができたんです。

――予告編にも登場していますが、地下鉄のシーンすごく迫力がありました。

良かったです。これまでのドニーさんのアクションだったらもっと派手になっていたところを、検事という設定を活かし、その場で機転を効かせて戦う、そしてドニーさん自身が劣勢になり、ピンチになることで法廷での緊迫したドラマシーンも引き立つと考えたんです。

――検事ということでスーツを身につけていますが、あのきっちりとした姿でよく動けるなあ…!と思いました。

香港映画のスタッフってアクションに慣れているので、スーツを着るキャラクターだったら、股の部分がゴムで開くようになっているアクション用のスーツが作られたり。日本でも今はそうやって変化しているのですが、僕が日本でアクションの仕事を始めた当初は、そこまでアクション映画が浸透していなかったので、衣装部さんがカッコ良いスーツを用意してくれて「いや、足が上がらへん」って(笑)。その時はまだアクションに歩み寄るスタンスが無かったけれど、谷垣(健治)さんなどの活躍のおかげで、だんだん知識が浸透してきたなと思います。本作でのドニーさんのスーツは、スーツとしてもカッコ良いし、動けるし、という。ご本人もそういう見え方の部分は意識されていると思います。

――衣装さんもお手のものなのですね。

ジャッキー・チェン映画など70年代から培ってきた経験で、「アクション映画を作るならこういうことを準備するのが当たり前だよね」というのが染み付いているところが、香港でアクション映画を撮りやすい理由の一つだと思います。
美術でも、日本だと中途半端な見た目のものをスクリーンに映したくないので、壊れ物やダミーも予算もかかって、発注が難しくなってしまうこともあります。一方で香港の美術は予算はなくても、アクションシーンにおいての壊れ物やダミーはマストだと考えているので、「このアングルなら、ダミーのクオリティこれくらいでもいいよね、予算ないし。3つくらいで足りるか?」と言った感じで、このアクションならこういう壊れ方とか、このアングルならこれくらいのクオリティという、アクションに対する知識や経験がやっぱりすごいんです。たまに雑すぎることもあるんですけどね(笑)。ただ、予算の中で今出来ることを最大限でやってくれるのですごく助かります。

――ちなみになのですが、大内さんが携われた『SP』や『HiGH&LOW』シリーズは固い生地の衣装でアクションされていたのでしょうか?!

『SP』の時は、こうして欲しいと衣装さんや他のスタッフさんとかなり意見を戦わせましたね。アクションしやすい素材の衣装などがあれば、アクションの質がさらに上がりますよということを繰り返しお伝えすることによって、どんどん皆さんにも協力してもらって。『るろうに剣心』(2012)が起点の一つになって、日本のアクション映画が作りやすくなったと感じています。

――大内さんが感じる、ドニーさんらしいアクションとはどんなものですか?

他の俳優さんとご一緒する時に、難しい技や、ちょっと奇抜なアイデアを出してアクションシーンの魅力を増させることをしますが、ドニーさんはどんどん削ってシンプルにしていっても面白いんですよね。走ったらカッコいいし、蹴った後の構えもカッコいい。ドニーさん自身も、僕らが作った複雑な動きをシンプルに戻す時もあるんですよね。簡単な立ち回りを難しく見せる所が魅力的だなと思います。最近は日本のアクションも、動きや複雑な立ち回りを追求するということが増えてきていると思うのですが、もうこれ以上ないなと思っても、ドニーさんを見ているとシンプルの中にもまだまだアクションの可能性はあるんだなと改めて感じさせられるんです。今、62歳でどうしても
フィジカルが落ちて体もきつくなってくる中で、お芝居もアクションもさらに魅力が増して進化しているところは本当にすごいなと思います。どんなシンプルな動きでも、ドニー・イェンオリジナルのアクションにしてしまう、そんなドニーさんからは今もまだ学ぶべきところがたくさんあります。

――本作では、製作と監督もされていて、本当に多才な方なのだなあと驚かされます。

ドニーさんは自分がどの立場であろうとも、その作品を作っている感覚を持っている方なんですよね。自分が俳優での参加でも、自分が出てくるまでの展開とか結末とかも全部気にしますし、映画1本の完成のイメージをしっかり持った状態で作品に参加している。だから、ドニーさん自身が監督という立場でない場合でも同じような関わり方をすると思います。クラブシーンの撮影の合間に、ドニーさんが突然大音量で音楽をかけだして「このシーンのイメージはこういう音楽がバックで流れてるイメージだ」と興奮して話し出したんです。音楽にも敏感な方なので、そういった方向からもアイデアが出てくるんです。まだそのシーンのアクション構成が定まってなかったので、僕的には音楽より先にアクション決めてくれーって感じでしたけど(笑)。

――素晴らしいです。大内さんが最近ご覧になって、アクションが良いなと思った作品はありますか?

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は、THE香港アクションという感じで、面白かったですね。なかなかあれだけの量を入れた見応えのあるアクション映画は最近なかったと思いますし、最近香港アクション映画が減っていた部分もあったと思うので、今後盛り上がるきっかけになる作品だなと期待しました。僕が『HiGH&LOW』シリーズに携わった時も、観客の皆さんにアクションの印象が残る、しっかりとした分量のある映画を作りたいというのがテーマだったので。

――私は『HiGH&LOW』シリーズ大好きなので、今日大内さんにお話が伺えて光栄です。

嬉しいです、ありがとうございます!海外で仕事をする時にも、「『HiGH&LOW』のこのシーンはどうやって撮ったの?」と聞かれることがあって、それがすごく嬉しくて。Netflixの『幽☆遊☆白書』の様にグローバルで世界中誰でも観れる様な作品ではないのに、そうやって名前を挙げてくれるのは光栄です。

――今日は素敵なお話をありがとうございました!

◆作品情報

<あらすじ>

香港警察の熱血警部から検事に転職した男・フォク(ドニー・イェン)。麻薬密売容疑である青年が起訴された担当事件に疑問を感じた彼は、独自に捜査を開始。やがて、法を悪用し利益を得ようとする法曹と裏社会の繋がりに気付くフォクだったが、その行く手を阻む刺客が忍び寄るのだった――。

STAFF 監督・主演・製作: ドニー・イェン 『ジョン・ウィック:コンセクエンス』
CAST ジュリアン・チョン 『サンダーストーム 特殊捜査班」 フランシス・ン 「エグザイル/絆」 マイケル・ホイ 「Mr.BOO!」 シリーズ ジャーマン・チョン 「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」
2024年/香港・中国/広東語/カラー/117分/シネスコ/5.1ch/原題:《誤判》THE PROSECUTOR/字幕翻訳: 小木曽三希子
配給:ツイン TWIN
(C)2024 Mandarin Motion Pictures Limited / Shanghai Huace Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved
公式サイト:prosecutor-movie.com

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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