「裁判沙汰」はすぐ隣に――日経電子版の人気連載「揺れた天秤」ついに書籍化

「裁判沙汰」はすぐ隣に――日経電子版の人気連載「揺れた天秤」ついに書籍化

 人類が社会を形成して以来、人の間では争いごとが絶えません。それでも、「自分は裁判沙汰とは無縁だ」と思いながら生活している人は多いのではないでしょうか。けれど、そうした日々も些細なきっかけで崩れ去ってしまうことがあるかもしれません。
 
 今回ご紹介するのは、日本経済新聞電子版の人気連載「揺れた天秤~法廷から~」を書籍化した『まさか私がクビですか? なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』。本書では、民事や刑事の裁判で明らかになった”本当にあった怖い話”の数々が取り上げられています。

 たとえば最初に登場するのは、ある日突然「クビ」を宣言された銀行の副店長のエピソードです。この女性は、出勤時に近隣の携帯電話ショップの店頭に置かれていた販促用の洗剤を持ち帰っていたところ「窃盗」とみなされ、信頼を失う行為だとして銀行側から懲戒解雇されてしまいました。販促物の箱には「おひとり様1個ご自由にお取りください」と掲示があったため、女性は基本1日に1個、計11個持ち帰っていたそうです。

 処分に納得がいかなかった女性は、従業員の地位の確認を求めて東京地裁に提訴。東京地裁は、女性の行為は「窃盗罪に該当しうる」「懲戒処分は避けられない」としつつも、「緩やかな処分を選ぶことも十分可能」であったことから解雇処分は無効とし、判決が確定するまでの間の賃金の支払いを銀行側に命じました。軽い気持ちで手にした販促物がここまで大きな問題に発展するとは、女性も想像だにしていなかったでしょう。

 ほかにも、30年誠実に働いてきた公立高校教員が飲酒運転による物損事故を起こし懲戒免職となり、受け取れるはずの退職金1720万円まで全額不支給になったことから「処分が重すぎる」と訴えた訴訟や、転職先の歓迎会で酔っ払った際の言動を理由に内定を取り消された男性が処分の無効を訴えた裁判などが紹介されています。また、大ヒットドラマのモデルになったとされる積水ハウスの「地面師」事件のように、ソニー生命やソフトバンク、近畿日本ツーリストなど有名企業でも、日々さまざまなスキャンダルが起きています。

 仕事がらみばかりではありません。金銭トラブル、ご近所問題、男女関係のもつれ、SNSでの誹謗中傷など、私たちの身の回りには多くの落とし穴が潜んでいます。読んでいて他人事に思えないのは、自分がいつ同じ立場になってもおかしくないからです。日本各地の地裁に起こされた民事訴訟は年間約14万件、起訴された刑事事件は約6万件にのぼり、ニュースで報道されないだけで、裁判沙汰は私たちの日常のすぐ隣にあるのだと実感させられます。

 本書の「はじめに」では、「この世の一寸先は闇。どこでどんな暮らしをしていても、本書で紹介した47本のケースのどこかに、身につまされる物語があるはずです」と記されています。こうした事例を読んで世の中のトラブルについて知り、さまざまな法解釈や司法判断に触れることは、将来自分にも起こりうるかもしれない事態に対する備えとなるでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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