映画『九龍ジェネリックロマンス』池田千尋監督インタビュー「複雑な設定がたくさんある中、令子と工藤の恋愛をどう描くかを大事にしていました」

「恋は雨上がりのように」の眉月じゅん最新作にして累計発行部数160万部を超える人気漫画 「九龍ジェネリックロマンス」(集英社 「週刊ヤングジャンプ」連載)がアニメ化に続き、待望の実写映画化!! 全国公開中です。
過去の記憶がない鯨井令子と誰にも明かせない過去をもつ工藤発の恋。2 人の距離が近づくほど深まっていく謎。 その真相にたどり着く時、2人は究極の選択を迫られるー。
本作の舞台となる、かつて香港に存在した美しくも妖しい街“九龍城砦”。 その風景を再現するため、狭く雑多な路地裏の商店など、誰もがなぜか懐かしさを感じるような古い街並みを残す台湾にて真夏のロケを敢行。 ノスタルジーに溢れる世界で、切ないミステリーと極上のラブロマンスが描かれる。 吉岡里帆(鯨井令子役)と水上恒司(工藤 発役)がW主演、池田千尋が監督を務めます。
池田監督に本作へのこだわりや撮影で印象的だったことなどお話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見いたしました。原作を読んだ時の印象と、映像化する上で難しそうだなと思ったこと、楽しそうだなと思ったことを教えてください。
まずは、この“ジェネリック九龍”という世界をどう立ち上げるかというところが難題だなと感じました。皆さんの中に九龍城砦というもののイメージがあるじゃないですか。今は動画や写真で見ることが出来ますから。原作では九龍城砦が無くなった後、作中の人々が新たに建設した“第二九龍城砦”があり、さらにその第二九龍城砦が工藤の記憶によって幻の街である“ジェネリック九龍”となり登場する、 かなり複雑な設定があります。それを実写でどう描くか、現実的な予算のことも合わせてずっと考え続けていました。
――狭く雑多な路地裏の商店など、古い街並みを残す台湾でのロケということで、大変なこともたくさんあったかと思います。
通訳の方もいらっしゃいますし、日本のことをすごく好きでいてくれる方も多くてありがたかったです。とはいえ、文化が違う、言葉が違う方たちと一緒に作品作りをすることが私自身初めての経験で、1つ1つの打ち合わせにしても細かいニュアンスがどこまでちゃんと伝わっているのかが不安でした。どういえば一番クリアに通訳してもらえるかという所に、体力と精神力をまず使った記憶があります。
ロケハンでも、日本の場合って、「ここいいですね、じゃあここにしましょう」となったら、撮影が出来る場所を見せてもらい許可を取って決定することが多いのですが、今回はもっと考え方が柔らかくて。「監督が良いと言ってから使えるか確認しましょう」という流れになるので、ロケハンして決まってもやっぱりダメでしたということが何度かありました。
思いがけない出来事がたくさんあったのですが、すごく優秀なスタッフの方が集まってくれて、特にカメラマンの北さんは海外での撮影の経験もおありだったんで、臨機応変にサポートしてくださいました。
あとはとにかく暑かったです!スコールも多かったので、撮影スケジュールにヒヤヒヤしながら、ここまでで撮れたもので勝負しようとか、トライアンドエラーの繰り返しでした。

――吉岡さん、水上さんの表情がとても素敵だったのですが、撮影前にはどんなお話しをされましたか?また監督からどのようなお願いや演出をされたのか、印象的なやりとりなどあれば教えてください。
まず1人1人お会いして、その後2人揃って会うっていう流れだったんですけど、吉岡さんは最初探っていた部分も多いと思います。彼女は「映画は監督のものだ」と思ってくださっている俳優なので、まず私に委ねてくれるんですよね。
水上くんに関しては年上を演じなきゃいけない点が大きくて、髭をはやしたり、体を大きくするアプローチがあるかなと考えていたのですが、彼の方から提案をしてくれて。
監督と俳優部、特に主役とは不思議な関係だと思っていて。お互いにどこまで近づけるかということが作品にも画にもすごく残るんですよね。握手までで終わるのか、それともハグまでいけるのかという。
水上くんは特に密に連絡をくれました。「このシーン、こうしようと思うのですがどう思いますか?」とかボイスメモを送ってくれたり。年上を演じる必要があるけれども、水上くんでは無いとダメな良さもあるから、私の考えも伝えて細かくやりとりをしながら工藤というキャラクターを一緒に掴んだんですよね。
吉岡さんとは現場に入ってから感覚を共有しながら一緒に走り出しました。私の伝える言葉を柔軟に理解し、全身で飛び込んでくれる。 瞬発力がすごくある方で。吉岡さんは自分をさらけ出す力が素晴らしいなと思っていました。
――お2人と監督の情熱が重なり合って、完成した作品なのですね。
令子が原作ではショートカットですけれど、吉岡さんはキャスティング決定時ロングヘアでした。女性が綺麗に伸ばしてきた髪の毛を切るということは大変なことですし、様々な契約ごとの整理もあるでしょうから、ハードルが高いなと感じていました。でも、吉岡さんご自身が「切ります」と決めてくださって、このヴィジュアルが完成したので本当に感謝しています。

――キャラクターたちの後悔や想いが強く表現されていますが、人物描写で一番大切にしていることを教えてください。
人が人を好きになる時に、本当の意味で他者を好きになるためには、まず自分というものを受け入れなければいけない、という事を思っているのですが、私が原作を読んで1番グッときたポイントもそこでした。
令子が“絶対の自分”になりたいって思い、絶対の自分って何?ということに戸惑いながら、乗り越えていくことによって、工藤に想いをしっかり言えるようになる。複雑な設定がたくさんあるけれど、令子と工藤の恋愛をどう描くかっていうことが大事で、原作者の眉月さんもそこを大事にしているとおっしゃっていたので、その軸がブレない様に気をつけていました。
――現実と虚構が交錯していく部分が、実写では特に難しいのでは無いかと感じましたが、見事に映像で表現していますね。
技術的な話になりますが、虚構の部分はレンズ前に映像的な仕掛けを作っています。CGで後処理をするのでは無くて、撮影の際、レンズ前にプリズムというものを仕掛けています。あと、「水」というものが1つ大きなキーワードでした。サクセスが住んでいる金魚鉢の中の水音、エアポンプの水音を印象的に使いたくて、記憶の中に流れ込んでいく時も水音を使っています。鏡は現実の中に存在している虚構だと思っていて、現実の中に存在している虚構である鏡がどう映像の中で見えるかと意識的に考えていました。
――今日は貴重なお話をありがとうございました!

◾STORY
過去を明かせば、想いは消えるー。
懐かしさで溢れる街・九龍城砦の不動産屋で働く鯨井令子は先輩社員の工藤発に恋をしていた。工藤は九龍の街を知り尽くしており、令子をお気に入りの場所に連れ出してくれるが、距離は縮まらないまま。
そんな中、九龍で靴屋を営む楊明、あらゆる店でバイトをする小黑らと意気投合。令子は、九龍でゆっくりと流れる日常にそれなりに満足していた。
しかしある日、工藤と立ち寄った金魚茶館の店員タオ・グエンに工藤の恋人と間違われる。さらに、令子は偶然 1 枚の写真を見つけるのだが、そこには工藤と一緒に自分そっくりの恋人が写っていた。困惑する令子の元に大企業の社⻑・蛇沼みゆきと謎めいた男ユウロンが現れる。思い出せない過去の記憶、もう 1 人の自分の正体、九龍に隠された秘密。核心に迫る令子は、工藤が抱える切ない過去を知ることになるー。
◾作品情報
[キャスト]吉岡里帆 水上恒司
栁俊太郎 梅澤美波(乃木坂46) 曾少宗(フィガロ・ツェン) 花瀬琴音
諏訪太朗 三島ゆたか サヘル・ローズ /
関口メンディー 山中 崇 嶋田 久作
⻯星涼
[ 原 作 ]眉月じゅん「九龍ジェネリックロマンス」
(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
[ 監 督 ]池田千尋
[ 脚 本 ]和田清人 池田千尋
[ 音 楽 ]小山絵里奈
[主題歌]Kroi「HAZE」(IRORI Records / PONY CANYON INC.)
[制作プロダクション] ROBOT
[制作協力] さざなみ
[企画・配給] バンダイナムコフィルムワークス
©眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会

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