光を消すと結晶がジャンプ!新現象「ライトオフサリエント効果」を発見(彩恵りり)

結晶というと硬くて動かないイメージがあると思うんだけど、一部の結晶は熱を加えたり光を当てると、結晶がジャンプするほど激しく動く「サリエント効果」という現象が観察されているんだよね。この世にも不思議な現象が起きるのは、特定条件で結晶内に力が溜まった後、一気に解放されるためだと考えられているよ。
静岡大学の関朋宏氏などは今回、これまで観察されたことのない現象を発見したよ! これは「光 (紫外線) を消すと結晶がジャンプする」というもので、これまでに知られているサリエント効果には当てはまらないのよね。なので関氏らは、これを「ライトオフサリエント効果」と名付けたんだよね。
この発見は、まだすぐに何かの応用に使えるとは言えないんだけど、この研究を進めれば、例えば日光に反応する電源フリーのセンサーなどに応用できるかもしれないよ。
この記事の内容の一部は、論文筆頭著者の関氏へのインタビューに基づいているよ。
結晶がジャンプする「サリエント効果」とは?
結晶は、原子が規則正しく並んだ物質なので、科学的な意味だけでなく、象徴的な意味でも決して変化しないもの、というイメージが強いよね? 確かに、大部分の結晶はダイナミックに変化したりはしないよ。

【▲図1: 一部の結晶は、外部から刺激を与えると飛んだり跳ねたりすることが分かっていて、これを「サリエント効果」と呼ぶんだよね。 (作成: 彩恵りり) 】
ところが一部の結晶は、外部から刺激を与えると動くことが観察されているんだよね。しかも中には、結晶自体が割れたり、ポップコーンのように弾け飛んだりするなど、かなりダイナミックな動きをすることがあるよ! この現象全般は「サリエント効果 (Salient Effect)」と呼ばれているんだよね。
サリエント効果は、結晶構造の変化によって起こると考えられているよ。ただし、熱や光を加えると結晶構造が変化する、ということ自体は特に珍しくないよ。となると、なぜ一部の結晶だけでサリエント効果が起こるのか。まだ完全に解明されているわけではないけど、結晶構造の変化、もっと言えば結晶を作る分子が動く際に引っかかって、力が溜まるからだと考えられているよ。溜まった力が限界を迎えれば、力は一気に解放され結晶そのものを動かすほどになる。これがサリエント効果だと考えられているんだよね。普通の結晶は、サリエント効果を起こす結晶と比べて、分子の動きが大きいために、力が溜まることなく小出しで解放される。なのでサリエント効果が起きないのかもしれないね。
サリエント効果の発見は1800年代と意外と古い歴史を持つんだけど、結構珍しくて報告数が少ないのよね。サリエント効果は、それをもたらす外部刺激によって2つに大別され、熱を与えることで生じる「サーモサリエント効果」と、光を当てることで生じる「フォトサリエント効果」になるよ。
光を消すと結晶がジャンプする新現象を発見!

【▲図2: 今回の研究で使った結晶は、100℃以上の高温で結晶構造が変化するんだよね。そして重要なことに、紫外線を照射すると構造が変化する温度が下がるよ! (Image Credit: Tomohiro Seki, et al. (ベンゾジフラノン誘導体の結晶および分子構造 / 作成: 彩恵りり) 】
静岡大学の関朋宏氏などは今回、3種類目となりうる新たなサリエント効果について報告したよ! 後で述べる通り、このサリエント効果は光を消すと起こることから「ライトオフサリエント効果 (Light-off Salient Effect)」と名付けられたよ。
今回の研究では「ベンゾジフラノン (Benzodifuranone) 誘導体」という有機分子を使ったんだけど、名前よりも覚えてほしいのは、サリエント効果の前提となる結晶構造の変化についてだね。まず普通の時、この結晶は163℃まで加熱すると結晶構造が1Aから1Xへと変化するよ。そして1Xとなった結晶は、134℃まで冷却すると再び1Aへと戻る、という変化を起こすんだよね。
しかし、この結晶構造が変化する温度は、紫外線 (紫外光) を当てると変化するんだよね。具体的には、加熱時の1Aから1Xへの変化は163℃から138℃に、冷却時の1Xから1Aへの変化は134℃から124℃へと、それぞれ温度が低下するよ。

【▲図3: 紫外線を当てると結晶構造が変化する温度が低下する、という性質を利用すると、紫外線の照射をやめる、つまり光を消すとサリエント効果で結晶がジャンプすることがあるんだよね! これが「ライトオフサリエント効果」だよ。 (作成: 彩恵りり) 】
これを踏まえ、次の実験をやってみよう。ちょっとややこしいので上の図3も見てね。まずは紫外線を当てずに163℃以上まで加熱して結晶を1Aから1Xへと変化させ、次に紫外線を当てながら130℃まで冷却、そして紫外線照射をやめるとどうなるだろう? 紫外線を当て続ける限り、1Xへと変化した結晶は1Xを保ったままになるけど、紫外線を切ると1Aへの変化の温度である134℃を下回っているから、1Aへ変化しようとするよね?
そういうわけなので、紫外線照射をやめた瞬間から、結晶は1Xから1Aへと変化しだすので、結晶は割れたりジャンプしたりするんだよね! これはまさにサリエント効果を見ているわけだけど、これまでのサリエント効果は熱や光といったエネルギーを与えて起きるのに対し、今回見つかったのは光を当てるのを止めることで起きているよね? なのでこれはサーモサリエント効果でもフォトサリエント効果でもない。ということで、新たにライトオフサリエント効果という分類が提唱されたんだよね。
ところで、今回のベンゾジフラノン誘導体結晶は、なぜライトオフサリエント効果を示すのか。まだ完全には解明されていないけど、次のようなことが起こっていると予想されるよ。加熱と紫外線照射は、どちらも分子にエネルギーを与え、それが一定以上になると結晶構造の変化を促すんだよね。分子の単位で見ると、エネルギーを貰った分子は回転しようとするっぽいんだけど、現実には周りに別の分子があるため、引っかかって回転できないのよね。なので、引っかかりを押しのけるだけのエネルギーを貰って、初めて結晶構造が変化することが予想されるよ。
つまり、結晶に光を当てることは、加熱しているのと同じような状況を生むわけ。だから紫外線を当てると、結晶構造が変化する温度が低くなる、と考えられるよ。
面白い現象の研究は始まったばかり
ライトオフサリエント効果は、光を消すという簡単な操作で構造変化を促せるから、何か面白いことができそうだよね。もちろん、今回の実験で示されたライトオフサリエント効果は、100℃を超える高温が必要だし、照射したのは紫外線、しかもかなり強度が高いから、これをそのまま何かに実用化させよう、というのは正直厳しいところがあるよ。
しかし、ライトオフサリエント効果は見つかったばかり。この効果が室温付近で起こったり、紫外線ではなく可視光線で起こることは、肯定はされてないけど否定もされてないよ。少なくとも原理的には起こるはずだからね。と言うことで「今回の研究結果が実用化されるとしたら」という質問は、「もしも自然環境でこの効果が起こるとしたら」という前提にはなるけど、以下のことが考えられるよ。
たとえば、野外に置かれた看板の色が抜けたり、プラスチックのバケツがひび割れるように、日光は熱と光の両面でモノを劣化させる効果があるよね。そういったことを防ぐため、昼間と夜間の温度差や紫外線の有無で自動的にシャッターの開閉を制御する装置なんかが必要になるかもしれないね。ライトオフサリエント効果を持つ結晶を使えば、原理的にはセンサー部の電源がいらない状態で、シャッターの開閉を制御するスイッチにできるかもしれないよ。
いずれにしても、この研究は始まったばかりなので、具体的な応用を話すのは時期尚早かもしれない。でも想像してみるのは決して悪いことではないと思うのよ。
(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)
<参考文献>
Tomohiro Seki, et al. “Light-Off Salient Effect: Thermal Phase Transitions of Molecular Crystals Controlled by Photoirradiation”. Journal of the American Chemical Society, 2025. DOI: 10.1021/jacs.5c04563
“光を消すと結晶がジャンプする新現象を発見 - 光と熱、2つの刺激の相乗効果で実現-”. (Jul 8, 2025) 静岡大学.
関朋宏. “熱や光によって「ジャンプ」する有機結晶 : アクロバティックな結晶の振る舞い”. 化学と工業, 2015; 68 (3) 254-255.

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