護衛艦『くらま』事故での韓国船『カリナ・スター』の異常操舵
今回は関門海峡で先月27日夜に発生した海上自衛隊の護衛艦『くらま』と韓国のコンテナ船『カリナ・スター』の衝突事故について、ブログ『週刊オブイェクト』管理人のJSFさんからご寄稿いただきました。
『くらま』事故での韓国船『カリナ・スター』の動き(2009/10/28)
http://obiekt.seesaa.net/article/131449807.html
護衛艦『くらま』と韓国コンテナ船『カリナ・スター』の衝突事故は、『カリナ・スター』の前方に居た貨物船の速度がかなり遅かったために(『カリナ・スター』12ノット、貨物船が6ノット)、これを追い抜こうとした『カリナ・スター』が左側に転舵(てんだ)して起こした事故だと分かりました。
関門海峡海上交通センターは、抜く場合には左側から抜けるように『カリナ・スター』に助言しています。こんな狭い海峡で右側に寄ってしまうと、陸地に接近し過ぎて直ぐに浅瀬で座礁してしまいます。『カリナ・スター』側の当初の証言では「右側から抜きたい」と管制側に打診しているようで、管制側から「抜くなら左側から」と返事を受けていますが、右側から抜かせなかった事自体は妥当な判断でしょう。しかし、狭い海峡では対抗船がいる場合は追い抜きはすべきでなく、前方船が故障していた場合などで極端に遅い場合以外は、追い抜き自体を止めるべきだったかもしれません。今回の場合は前方船は6ノット、遅いには遅いですが微妙です。管制側の助言は法的拘束力はなく、最終判断は各船長に委ねられます。
※この図はNHKカメラの位置などを元にした推定図であることに注意
問題は『カリナ・スター』が遅い貨物船を追い抜いた後に、進路を戻す事が出来ずにそのまま『くらま』に突っ込んでいる事です。管制側は「前方から護衛艦が接近中なので注意せよ」と『カリナ・スター』に伝えているにもかかわらず、『カリナ・スター』側も『くらま』を認識しているにもかかわらず、舵の修正が出来ていません。
これは『カリナ・スター』が強い潮流に押し流されて、舵の修正が遅れた可能性が高いです。
※門司海上保安部・早鞆瀬戸(はやとものせと)における航法(港則法に基づく特定航法)より引用
http://www6.kaiho.mlit.go.jp/moji/linkpage/anzenunkou/1-3.htm
つまり、最初は前方船を右側から追い抜こうと考えていた『カリナ・スター』が、管制側から左側から抜けと助言されて急遽変更、前以て予想していなかった潮流に対応できず舵の修正が遅れ、進路を戻す事が出来ずに『くらま』と衝突した可能性が高くなります。
※門司海上保安部・早鞆瀬戸(はやとものせと)における航法(港則法に基づく特定航法)より引用
今回の事故よりも遥か以前に書かれた図である事に注意
門司海上保安部の「早鞆瀬戸(はやとものせと)における航法」を良く把握していれば、左に転舵(てんだ)した後に潮流に流される事を計算に入れて、当て舵(カウンターステア)を早めに入れるのですが、『カリナ・スター』の船長はその事を良く把握しておらず、とっさの判断変更で対応が遅れたのでしょう。
しかし前方船を右側から追い抜けば座礁は必至で(レーダー見ているはずなのになんで陸地に気付かないんだろう?)、追い抜くなら左から行くしかないわけで、その後の進路修正に失敗するとは……。結局の所、『カリナ・スター』側の操船ミスであることに間違いはないでしょう。事故を回避するとしたら、最初に述べたように管制側が追い抜き行為自体を中止させて『カリナ・スター』に速度を落とさせるという方法がありますが、海峡部分で最もくびれた事故現場付近は潮流が一番早く、下手に速度を落とすとそれこそコントロールを失う可能性もあります。
どちらにせよ海上自衛隊の護衛艦『くらま』側に非はありません。『くらま』の右側は陸地が近く浅瀬が広がっており、これ以上回避する余地がありませんでした。「もっと右に避けられたはずだ」という主張をする者がいるようですが、理解しがたいです。衛星写真からも浅瀬の存在は分かるはずですし、航路図には細かい水深も明記されているはずです。回避の余地などありません。
もし『くらま』がとっさの判断で規則とは逆の左側へ回避行動を取っても、今度は『カリナ・スター』が追い抜いた遅い貨物船とぶつかっていたでしょう。緊急手段として全力で後進を掛けて停船させる方法を、『くらま』は取っています。右側に回避しながら減速しています。つまり『くらま』は取れるべき回避手段を全て取っており、法的にも違反は無く、責任を覆い被せようとする主張は完全に的外れだと言えます。
韓国船『カリナ・スター』の異常操舵(2009/10/29)
http://obiekt.seesaa.net/article/131533245.html
関門海峡の事故で海上自衛隊の護衛艦『くらま』に落ち度が無いと判明した後に、事故原因を門司港管制側に擦り付けようとする動きもありましたが、今度は韓国コンテナ船『カリナ・スター』の異常操舵(そうだ)が明らかになりました。
———–以下引用
海上自衛隊の護衛艦『くらま』(5200トン)と韓国船籍のコンテナ船『カリナ・スター』(7401トン)が関門海峡で衝突した事故で、『カリナ・スター』は関門橋の真下付近で進行方向に向かって左(山口県下関市側)へ急旋回し、衝突時は『くらま』の航路にほぼ直角に交わる方向を向いていたことが、第7管区海上保安本部の調べで分かった。『くらま』と衝突していなければ、座礁したか下関側の岸壁にぶつかっていた可能性があった。7管は『カリナ・スター』に操縦ミスがあった可能性もあるとみて、捜査している。
———–引用ここまで
※『毎日新聞』 「海自護衛艦衝突:韓国船、関門橋の真下で急旋回」より引用
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20091030k0000m040142000c.html
———–以下引用
海上自衛隊の護衛艦『くらま』と韓国籍のコンテナ船『カリナ・スター』が関門海峡で衝突した事故で、第7管区海上保安本部がレーダー情報などを解析した結果、衝突数十秒前にコンテナ船が不自然な急旋回をしていたことが29日、分かった。門司海上保安部は、前方の貨物船への追突を避けられず直前に大きくかじを切った可能性もあるとみて、原因を詳しく調べる。
コンテナ船側はこれまで、「港湾管制当局の指示で左側から、前方の貨物船を追い越そうとした際に衝突した」と説明していたが、7管幹部は直前の急旋回について「通常の追い越しとは考えられないぐらいの大きな旋回だ」としている。
———–引用ここまで
※『時事通信』 「コンテナ船、大きく急旋回=「追い越しとは考えられない」-事故直前、追突回避か」より引用
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200910/2009102900928
左に曲がったまま進路を右に戻せなかったのは、「前方船とぶつかりそうになって慌てて至近距離から曲がったので角度が大きくなり過ぎて、当然、時間的余裕も残されて居らず、更に潮流の影響も受けて、どうにもならなくなってしまった」という、潮流の影響はあったものの主要因ではなく、韓国コンテナ船『カリナ・スター』の操船ミスが事故の原因であることが濃厚となりました。
昨日の記事の解説では「潮流に流されてしまったせいだ」という言い逃れもある程度出来ましたが、いまや潮流の影響はあったにせよ主要因ではないので、『カリナ・スター』の操船ミスの問題が重要視されます。また「管制は追い越しを中止させるべきだった」という指摘も、『カリナ・スター』が実際には前方船を追い越したのではなく緊急回避していたとなると、減速させる事も時間的に間に合わなかったとなります。また『くらま』が居なければ『カリナ・スター』はそのまま陸地に突っ込んで自爆事故を起こしていたというのは、要するにあんな狭い場所で急激な転舵(てんだ)を行ってしまえば、再変針を行える距離的余裕そのものが残されていないということです。もうどうにもなりません。
※こんな場所で直角になるまで急旋回。信じがたい暴走。
それにしても、こんな狭い海峡の航路内で船体が真横になるだなんて……。自動車がハーフスピンしながら中央分離帯を乗り越えて対向車に突っ込んでいくようなものです。こんなの対向車は避けようがありません。狭くて危険な海峡部分で、追い越しにろ緊急回避にしろ、行ってしまった時点で他者を巻き込む危険性が出てきます。『くらま』は酷いもらい事故に遭う事になってしまいました。果たしてちゃんとなおせるでしょうか。
韓国船カリナ・スターは前方の貨物船を最後まで右から抜こうとしていた模様(2009/10/30)
http://obiekt.seesaa.net/article/131621248.html
護衛艦『くらま』と衝突した韓国コンテナ船『カリナ・スター』は、門司港管制の誘導とは違う行動を取っていた事が分かりました。
———–以下引用
7管関係者によると、衝突の数分前、貨物船の右後方にいたコンテナ船は、センターから左から追い越すよう誘導された。その際、貨物船は航路中央付近におり、左から追い越すには(1)左にかじをきり、対向するくらまの進路に進入する(2)かじをきらずに減速し、貨物船が右に寄って左側が空くのを待つ‐の選択があった。
7管の調べで、船舶自動識別装置(AIS)などの記録から、貨物船は関門橋まで航路中央付近を航行し、コンテナ船は、貨物船の2倍以上の速度をほぼ維持し、進路変更しないまま航行を続けていたことが判明した。
2船は関門橋の下付近で最接近。その際、コンテナ船の船首は、貨物船の船尾右側に位置していた。貨物船は、航路中央を航行し続けて減速しながら右に進路変更し始めており、コンテナ船は貨物船に追突寸前となり、左へ急旋回。前方から直進してきた『くらま』と衝突したとみられるという。
7管関係者は「貨物船が誘導後すぐに右に寄らなかったのは一般的には考えられない。ただコンテナ船が減速せず、右から追い越すコースをとり続けたことが事故につながった可能性がある」とみている。
———–引用ここまで
※『西日本新聞』 「関門衝突事故 コンテナ船減速せず 貨物船追い越し 誘導と違う航路」より引用
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/131539
———–以下引用
船長は関門海峡海上交通センター(北九州市門司区)から「コンテナ船が右舷側から追い越す」と連絡を受けたが、ゆるやかに右舷側に針路を取る航路のため「右では困る」と応答。その後、連絡はなかったと説明したという。
さらに、船長は「コンテナ船はかなりの速度で近づいてきた。警笛は聞こえたが、どの船へのものなのか分からなかった」とし、現場の海域は「狭く、航路も直線ではないので針路変更は危ない」と指摘したという。
———–引用ここまで
※『中国新聞』 「護衛艦衝突で貨物船を調査」より引用
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200910310062.html
【登場船舶と関連】
○護衛艦『くらま』・・・基準排水量5200トン
○貨物船『クイーン・オーキッド』・・・9046総トン
○コンテナ船『カリナ・スター』・・・7401総トン
○関門マーチス・・・門司港にある海上交通情報センター
※読売新聞から引用
最初にこの図を見て位置関係が間違っていると感じていたのですが、西日本新聞の記事を読んで理解しました。この図は正しかったのです。そしてこれから言える事は、『カリナ・スター』は『クィーン・オーキッド』を左側から追い抜くつもりが全くなく、関門『マーチス』に左から抜くように言われていたのに、その準備を全くしておらず、『クィーン・オーキッド』の右後方の位置に付けたまま進路を取り続けているのです。減速もしていません。そして『クィーン・オーキッド』が緩い右カーブを曲がる為に右寄りに進路を変えた時に、右後方に居た『カリナ・スター』の針路をふさぐ形になり、衝突しそうになった『カリナ・スター』は急激に左へ転舵(てんだ)して、『くらま』と事故を起こした事になります。
結論から言えば、『カリナ・スター』は最後の瞬間まで『クィーン・オーキッド』を右から抜くつもりだったようです。関門『マーチス』の言う事を聞いた上で、無視しているとしか思えない行動を取っています。それなのに事故後の言い訳は「関門『マーチス』に左から抜けといわれた」ですか……。そんなでたらめが通用するとは思わない事です。
執筆: この記事はブログ『週刊オブイェクト』管理人のJSFさんより寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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