『手塚治虫「火の鳥」展』福岡伸一&真鍋真インタビュー「瞬間の躍動感は、今もなお惹きつけられるものがある ぜひ原画でその力を味わって」

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)では5月25日(日)まで、『手塚治虫「火の鳥」展(※)』を開催中です。

数々の名作を生みだした手塚治虫が、みずからのライフワークと宣言したマンガ『火の鳥』の大型展覧会で、直筆原稿を中心に、映像、関連資料、そして『火の鳥』の世界観を表現したグラフィックなど、計約800点の展示を通して、企画監修を担う生物学者・福岡伸一氏が、この壮大な叙事詩を生命論の視点から読み解きます。

『火の鳥』初の大型展覧会の開催を記念して、トークイベント「福岡ハカセと恐竜博士が紐解く、『せいめいのれきし』とセンス・オブ・ワンダー」が開催され、福岡伸一氏と真鍋真氏という2人のハカセが、宇宙の始まりから人類誕生までの壮大なストーリーを解説。会場は満席で、大盛況で閉幕。イベント後、おふたりに感想などをうかがいました。

――満席のトークイベント、拍手喝采で幕を閉じましたが、終えてみての率直な感想をお聞かせください。

真鍋:福岡さんにお声がけいただき、こうして貴重な機会を得ることができました。実はさっき、国立科学博物館などで恐竜の話を聞きに来てくださる方々がちょうど来ていたので少しお話していたんですが、皆さん「今日はいつもと違った視点でとても新鮮だった」とおっしゃっていました。

――それはコラボレーションの意義も感じる感想でしたね。

真鍋:普段、私が話している内容自体はそれほど変わらないんですけれども(笑)、福岡先生のような生物学者と一緒に語ることで、語り口や切り口がまったく異なり、新たな魅力が引き出されたように思います。それもこれも、福岡先生のおかげです。私自身も、あっという間の90分でした。質疑応答も面白かったですよね。

福岡:そうですね。独創的な質問も多く出ていました。

――真鍋先生と福岡先生は、以前から交流がありますよね。

福岡:真鍋先生とは、以前から仲良くさせていただいているのですが、私自身、子どもの頃は昆虫が大好きだった一方で、SF少年でもありました。海外のSFや、日本では星新一や筒井康隆を夢中で読んでいたのですが、そこには必ず、お父様の真鍋博さんが描かれた美しく流れるようなイラストがありました。その名前は、私の中にしっかりと刻みつけられていたんです。

しかも真鍋博さんが未来を描いていたのに対して、真鍋先生は時間軸を逆に辿り、過去を研究しているという点がとても面白く、しかも、私と同じ1959年生まれ。全く同じ時代を生きてきていて、例えば『火の鳥』がヒットしていたり、1970年の大阪万博に夢中になったりと、共通の記憶も多いんです。そういったこともあって、これまでもいろいろな機会で対談やお話をご一緒させていただいて、いつも楽しく盛り上がっています。

今日は『火の鳥』を中心に据えて、古生物学者として「火の鳥の起源はどこにあるのか」といった自由な話題も展開していただいて、観客の皆さんにも楽しんでいただけたのではないかと思います。

――現在開催中の手塚治虫「火の鳥」展ですが、おふたりはその魅力をどのように感じていらっしゃいますか?

福岡:手塚治虫さんの『火の鳥』という作品は、過去と未来を行き来しながら、物語が徐々に研ぎ澄まされていく構造になっています。手塚治虫さんは最終的に“現在”を描こうとしていたのですが、そこには至らず、未完のまま亡くなられてしまいました。

ですが、さまざまな状況証拠を踏まえ、私は、手塚さんが『火の鳥』で最終的に描こうとしていた結末について、ひとつの仮説を提示しています。それを、特に『火の鳥』をよくご存じの方にはぜひご覧いただき、ご批判をいただければと思っています。それが私からのメッセージです。

そして今回初めて『火の鳥』に触れるという方には、何よりもまず、手塚治虫さんの“絵の魅力”を、原画を通じて感じていただきたいです。特に大規模な群衆シーンや、海上に無数の船が現れて攻めてくるようなモブシーンは圧巻です。

また、アクションや劇画的な描写――たとえば、ある瞬間を鋭く切り取ったシーン――も手塚さんならではの魅力です。今の漫画と比べるとやや古さを感じるかもしれませんが、その瞬間の躍動感には、今もなお惹きつけられるものがあります。ぜひ原画でその力を味わってください。

真鍋:今回の展覧会があるからこそ体験できるのは、まさに時間を越える旅だと思います。福岡先生もおっしゃっていたように、『火の鳥』は太古の昔から遥かな未来まで、幅広い時空をジグザグと行き来する構造になっています。

読んでいると、話が突然飛んで戸惑うこともあるんですが、読み進めるうちに「ここはさっきのあの話とつながってるんだ」と気づく瞬間があるはずなんです。まるでパズルがはまるように断片がつながっていく。その感覚が本当に面白いんです。

手塚治虫さんが描こうとしたのは、ただのストーリーではなく、根底にあるメッセージや問いかけ――「生命とは何か」「永遠の命とは」「地球とはどうあるべきか」といったテーマなんですよね。異なるエピソードを通して、それが一貫して伝わってくる。

だから、初めて『火の鳥』を読むという方は、まず黎明編と未来編を読んでみてください。まったく異なる世界観に見えて、実は根底でつながっている。そこに気づいたとき、『火の鳥』の本質がより深く伝わると思います。

――展示会というリアルな会場なので、見やすく整理されていますよね。

真鍋:今だからこそ、こうやって全体像を俯瞰できると思うんです。連載当時は順番に発表されていたから、リアルタイムで読んでいた人たちは、こうした構造を一気に体験することはできなかったはずです。

黎明編では歴史の深さに学ぶことができますし、未来編では、アンドロイドと人間の共存、クローンや生命操作の倫理など、AI時代を生きる現代人に向けた警鐘も含まれている。つまり、教育的な視点でも非常に価値のある作品なんです。

福岡:ぜひ多くの方に来ていただきたいです。

※ 正式名称は、『手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-』

(執筆者: ときたたかし)

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. 『手塚治虫「火の鳥」展』福岡伸一&真鍋真インタビュー「瞬間の躍動感は、今もなお惹きつけられるものがある ぜひ原画でその力を味わって」
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。