『餓狼伝説 City of the Wolves』レビュー:アグレッシブな対戦と爽やかなストーリーが魅力

格闘ゲーム「餓狼伝説」シリーズ26年ぶりの新作、『餓狼伝説 City of the Wolves』がとうとう発売になった。『ストリートファイター6』が呼び戻した対戦型格闘ゲーム熱を、さらにアツくする一作であることは間違いない。
もちろん一作目からプレイし続けている筆者にとっても見逃すことのできる作品ではないのだが、ファンにとっては、対戦パートだけがシリーズの魅力ではないハズ。「餓狼伝説」シリーズは、キャラクターとストーリーも強力な魅力となっているのだ。
そこで、このレビューではそんな側面からも同作の魅力を紹介したい!
アグレッシブな対戦が楽しめるシリーズ最新作! 『餓狼伝説 City of the Wolves』

『餓狼伝説 City of the Wolves』は、かつて「ストリートファイター」シリーズと並ぶ2D対戦型格闘ゲームとされた「餓狼伝説」シリーズの最新作だ。2D対戦型格闘ゲームというゲームジャンルは変わっていないものの、ビジュアルは3Dによって表現されている。

今作の基本的なゲームシステムは、一見すると『ストリートファイター6』に近い。『ストリートファイター6』も2D対戦型格闘ゲームなので、ゲームシステムが近いのは当然といえば当然。だが同ジャンルのゲームというレベルではなく、細かなシステムまで含めて『ストリートファイター6』と近いように一見思えるのだ。

まず、2D対戦型格闘ゲームなので、サイドビューで表現された画面を見ながら、1対1で勝敗を競うことになる。通常技や必殺技を駆使し、制限時間以内に相手の体力をゼロにすれば勝利。もちろん必殺技は、レバーの入力方向とボタン操作を組み合わせた、いわゆる「コマンド」によって繰り出す。

こうした基本システムの上に、今回の目玉と言える「REVシステム」が置かれている。このシステムは、敵の攻撃を受け流しつつこちらの攻撃を繰り出す「REVブロウ」、必殺技の威力が強化される「REVアーツ」、「REVアーツ」からさらに「REVブロウ」「REVアーツ」へと繋げることが可能な「REVアクセル」、必殺技の削りダメージを無効化し、相手と距離をとることが可能な「REVガード」といった要素の総称だ。
いずれも使用することで「REVゲージ」と呼ばれるゲージが上昇し、ゲージが満タンになると「オーバーヒート」。この状態になると、「REVブロウ」や「REVアーツ」といったアクションが行えなくなるうえ、敵の攻撃をガードした際にガードゲージが削られるようになり、ガードゲージがゼロになると、大きな隙をさらすこととなる。

『ストリートファイター6』をプレイしたことがある人なら、「REVシステム」は『ストリートファイター6』の「ドライブシステム」のように見えることだろう。「REVブロウ」は、相手の攻撃を2発まで耐えつつ攻撃を行う「ドライブインパクト」。「REVアーツ」は、必殺技の強化版が繰り出せる「オーバードライブ」。
また、完全な対応とは言えないが「REVアクセル」は連携の強化が可能な「ドライブラッシュ」、「REVガード」は強化版ガードという意味で「ドライブパリィ」といった具合に、それぞれ『ストリートファイター6』側に近いシステムが存在している。蓄積することで「オーバーヒート」状態になる「REVゲージ」に対し、『ストリートファイター6』の「ドライブゲージ」はゼロになると「バーンアウト」状態に陥ってしまう。これも、システムを使いすぎると一時的に弱体化するという点で似通っているといえるだろう。
だが筆者は、ここまで書いたことをもって『餓狼伝説 City of the Wolves』が『ストリートファイター6』を真似ていると言いたいわけではない。むしろ、『餓狼伝説 City of the Wolves』の目指した楽しさは、『ストリートファイター6』とは違うものだと考えている。だからこそ、「一見すると近い」と書いたのだ。

本作の「REVシステム」を「ドライブシステム」と似て非なるものにしている要素が、「SPG(Selective Potential Gear)」。体力ゲージを序盤、中盤、終盤に3分割し、その中から「SPGゾーン」を選択。ゲーム中、使用キャラクターの体力ゲージが「SPGゾーン」に入ると、攻撃力が強化される上、「REVブロウ」の使用が可能になる。
これはつまり、「REVブロウ」がゲーム中いつでも使用可能なわけではないということ。ゲーム中いつでも出せないのでは、「REVブロウ」が立ち回りの主力とはならないようにも見える。だが、そんなことはない。

というのも、「REVブロウ」はそもそも性能が超強力。まず、どのキャラクターも空中で「REVブロウ」を出すことが可能。これはつまり、「SPG」中に安易に飛び込むと、「REVブロウ」で潰されてしまうことを意味している。
また、「REVブロウ」の内容は、通常の必殺技と同様、キャラクターごとに異なっており、キャラクターによっては技の出(発動)が早かったり、間合いが長かったりとそもそも技の性能が高い。おまけに、「REVアクセル」によって連続技へ組み込むことができる上、「SPGゾーン」中はそもそも攻撃力が強化されているため、場合によっては体力の半分近くを奪うことができる。使用タイミングが「SPGゾーン」中に制限されているのも納得だ。

ちなみに、「SPG」というシステムそのものは今作で導入されたものではない。前作『餓狼 MARK OF THE WOLVES』で「T.O.P.(タクティカル・オフェンシブ・パワー)」という名称で導入されていたシステムだ。
「REVシステム」は今作から導入されたものなので、前作『餓狼 MARK OF THE WOLVES』の時点では存在しなかった。しかし前作には、「T.O.P.」中にのみ繰り出せる「T.O.P.アタック」という専用必殺技が存在。この「T.O.P.アタック」を原型として、「ドライブインパクト」的な攻撃耐久効果をつけたものが、今作の「REVブロウ」だろう。

「SPG」やその原型である「T.O.P.」は、いずれも対戦における駆け引きを強化する。駆け引き……つまり心理戦においては、いかに相手の心理を読むかが重要だ。とはいえ、心理を読むためには何らかの取っ掛かりが必要。
格闘ゲームの駆け引きにおいては、体力ゲージの残量、残り時間、壁際に追い詰められているか……といった要素が、その取っ掛かりとなる。体力ゲージも残り時間も少なければ、相手は一発逆転をかけて大技を狙うしかない。また、壁際に追い詰められている相手は、なんとかしてそこから脱出しようとするだろう。
「SPG」や「T.O.P.」もこうした取っ掛かりのひとつとなる。相手が「SPG」ゾーンや「T.O.P.」ゾーンに入っているなら、攻撃力上昇を活かして果敢に攻めてくることだろう。逆に入っていないなら、堅実に守ってくる可能性が高い。
つまり「SPG」や「T.O.P.」は、立ち回りにおける「攻めどき」「守りどき」を分かりやすく可視化したものと言えるのだ。

そして今作では、「T.O.P.アタック」から強化された「REVブロウ」の存在によって、「SPGゾーン」が「攻めどき」として強く押し出されている。さらに、「REVブロウ」が強いため、「攻め」が気持ちイイ。アグレッシブに攻める爽快感が強く味わえるようになっている。
また、相手が「SPGゾーン」に入っているなら守りどきであることは間違いない。「攻めどき」と「守りどき」がわかりやすく提示されているため、自然と心理戦へと誘導され、相手の心理を読む楽しさが味わえるのだ。

ここまでを踏まえると、本作の「REVシステム」は、『ストリートファイター6』の「ドライブシステム」に表面上似ているものの、あくまで「T.O.P.」の進化形をどうわかりやすく提示するか……という観点から設計されたものと考えられる。相手が「SPGゾーン」に入ったときの「どう凌ぐか?」というスリルと、自分が「SPGゾーン」に入ったときの「オレのターンが来た!」という高揚感は、本作独自の楽しさだ。

長年待ち望んだ結末が爽やかに描かれる! アクションゲームとして楽しめるストーリー
次に、本作のストーリー要素について触れたい。そもそも対戦型格闘ゲームは対戦というゲーム性の部分がメインなので、ストーリー要素はオマケといってもいい。
とはいえ一応「ストリートファイター」シリーズにも、「シャドルーによる世界征服と、それを阻むストリートファイターたち」だとか、「殺意の波動をめぐる格闘家としての成長物語」的なストーリーはある。といっても、「リュウが殺意の波動を克服できたか知りたいから、『ストリートファイター』のシリーズ最新作を買う」というプレイヤーは少数派だろう。
ただ、「餓狼伝説」シリーズはストーリー性が強い。同作のストーリー性はシリーズの原点となる『餓狼伝説』の時点で盛り込まれていた。

シリーズの原点である『餓狼伝説』の主人公の一人、テリー・ボガードの目的は、自分の育ての親ジェフ・ボガードを殺したギース・ハワードを倒すこと。そのため、格闘大会キング・オブ・ファイターズに参加し、いくつもの戦いの果てにテリーはギース打倒を成し遂げるものの、ギースにはロック・ハワードという息子が存在することを知る。
ロック・ハワードは、親の敵と言えるテリーに引き取られて成長し、前作『餓狼 MARK OF THE WOLVES』では主人公を務めた。そして、前作のラストでは死んだはずの母が生きていたことを知り、テリーの元を離れることになる。
こんな風に「餓狼伝説」シリーズは対戦型格闘ゲームといっても、キャラクター同士の因縁がしっかり描いていくため、ストーリー要素もまた魅力となっていたのだ。でも、だからこそ26年間待たされたという事実は大きい。ロックのその後は? テリーとの仲は!?

本作では、「EOSTモード」と「ARCADEモード」という2つのモードでストーリーを体験できる。「ARCADEモード」は一般的な格闘ゲームと同様にキャラクターと連戦するモード。ストーリーは勝利後のデモシーンとして再生されるかたちだ。

一方、「EOSTモード」はシリーズの舞台であるサウス・タウンのマップからクエストを選び、キャラクターと戦っていくモード。複数キャラクターとの勝ち抜き戦になっていたり、敵の特定パラメーターが強化されたりと、クエスト毎に異なる条件が用意されている。
クエストをクリアすると経験値をゲットし、レベルアップしていくのでRPG的なモードと言えるが、『ストリートファイター6』の「ワールドツアー」のように3Dで探索できるような作りにはなっていない。あくまでマップはクエスト選択用のUIという位置づけだ。とはいえそれでも「ARCADEモード」よりストーリー的な臨場感がある。

「EOSTモード」「ARCADEモード」いずれのモードでも、前作ラストから引きずっていたストーリー展開に対し、本作はキッチリとケリをつける。前作までのプレイヤーはほとんどの疑問を解消した上で、爽快な満足感に包まれることだろう。そして、今作からプレイするという人も、とても気持ちのいい達成感が味わえるはず。

筆者は「餓狼伝説」のこうしたストーリー性を高く評価している。というのも、「対人戦」という側面だけで対戦型格闘ゲームをプレイすると、とでもしんどいからだ。対戦型格闘ゲームは実力差が顕著に出るゲームジャンルだ。その上、実力が伴わないと「何もできずに負ける」ということすらあり得る。
これは比喩ではなく、文字通り何もできない。攻撃を連続で次々と叩き込まれ、反撃のタイミングがいつかもわからず、一切攻撃ができないまま負けるという展開があり得るのだ。こうした展開を「楽しい」と思える人間は恐らくいないだろう。

だが「餓狼伝説」のストーリーは、対戦型格闘ゲームに「アクションゲームとしての楽しさ」を与えてくれる。「アクションゲームとしての楽しさ」というのは、つまり「自分がヒーローとして活躍できる楽しさ」。ロックやテリーといったカッコいいキャラクターが、ド派手な技を使って敵に勝ち、物語が展開していく楽しさだ。
この「自分がヒーローとして活躍できる楽しさ」については、キャラクターの見た目のカッコよさやキャラクター同士の因縁といったものが強く描かれていると、より深い楽しさを味わえる。そういう意味でも、「餓狼伝説」のストーリーはシリーズを通してよくできている。

プレイしていると気にはならなくなっていくものの……? 実在有名人の登場
最後に、この点について触れないわけにはいかないだろう。サッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド、音楽家/DJのサルバトーレ・ガナッチという実在する有名人がプレイアブルキャラクターとして登場する点だ。

本作にクリロナやガナッチが参戦するという話を聞いたとき、正直、個人的には嬉しくなかった。というのも、世界観が崩れるように感じたからだ。
ここまで触れた通り、「餓狼伝説」シリーズはキャラクター性とストーリー性が強い。これは言い換えるなら、「作品世界が現実から独立している」ということ。このため、現実世界の著名人をそのまま作品世界へ投入しても、どうしても悪目立ちしてしまう。
この点、さまざまな作品がクロスオーバーする「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズであれば、「現実世界有名人チーム」といったかたちで、まだ許容できただろう。

とはいえプレイを続けているうちにクリロナやガナッチに対する違和感は薄れていった。とりわけガナッチはモーションや必殺技がコミカルなので、対戦型格闘ゲームのキャラクターのギャグキャラ枠として馴染んでいるように思う。

最後に本作の印象をまとめると、ゲーム性は一見『ストリートファイター6』に似ているものの、攻めと守りのメリハリが効いた駆け引き、そしてアグレッシブな攻めの爽快感といった独自の魅力がしっかりあると感じている。また、ストーリーにおいては、これまでのシリーズファンが待ち望んだ結末を爽やかなかたちでまとめていて、ファンなら確実に楽しめるハズ。
対戦型格闘ゲームファンにとっては、『ストリートファイター6』とは異なる方向でモダンな駆け引きが楽しめる一作として、このジャンルを未プレイの人にとっては、爽やかなストーリーとともに楽しめるアクションゲームとして満足できるだろう。
(文/田中一広)

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