22年間仕事が途切れない人気ナレーターが実践する「発達障害の特性を活かしたコミュニケーション術」

「空気が読めないとよく言われる」「悪目立ちして周囲から浮いてしまいがち」「悪気なく失礼なことを言ってしまう」……発達障害の傾向があることで、こうした対人関係の悩みを持つ人も皆さんの中にはいるかもしれません。ナレーター、声優として活動する中村 郁さんもその一人。これまでに注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)併存の診断を受けており、そのためにさまざまな人間関係のトラブルに遭遇してきたといいます。
そうした中で22年間プロとして第一線で活躍し、今も仕事が途切れない理由はどこにあるのでしょうか。『発達障害・グレーゾーンかもしれない人のための「コミュ力」』は、中村さんが自身の経験をもとに記した、「ふつう」がむずかしい人に向けた人間関係の攻略本。人から好かれ、信頼されるためのコツが大公開されています。
同書のすばらしい点は、著者の中村さん自身が発達障害当事者であるため、同じような立場の人が大きな共感やリアリティを持って読めるところです。たとえば、発達障害の人の特徴には「会いたい、とおもったら、後先考えずに会いに行く」「伝えたい、と思ったら、伝えずにはいられない」(同書より)といった「衝動性」があるため、「守り」のコミュニケーションよりも「攻め」のコミュニケーションが得意な人が多いようです。
中村さんも信用できると感じた相手には「パンツもはかないスッポンポンの状態」(同書より)で包み隠さず自分のことを話してしまい、実は相手が他の場所でその話を漏らしていたり、突然宗教やマルチネットワークビジネスに勧誘してきたりといった苦い経験を幾度となくしてきたといいます。そのため、相手との心の距離を縮めるために自己開示は大切だとしながらも、「絶対にパンツまでは脱がないでほしいのです。せめて布だけは……、布くらいは纏っておくことを忘れないようにしたいものです」(同書より)と中村さん流の言葉でアドバイスします。
いっぽうで、発達障害の人が得意とする「攻め」のコミュニケーションは「武器」にもなります。自分の好意を素直に伝えられたり、一見怖そうに見える人の懐にもパッと飛び込めたりするそうです。中村さんは「わたしたちの衝動性は、とっつきにくい人にもアタックできる最強の武器」(同書より)だといいます。
「発達障害の特性をうまく使いこなすことで、実は、普通の人には築くことのできない、素晴らしい人間関係を築くことができるのです」(同書より)
残念ながら、人は平等ではありません。家庭環境や健康、容姿などは選べないですし、得意不得意も人それぞれ違います。中村さんは「配られたカードで勝負するしかないのさ、それがどういう意味であれ」(同書より)というスヌーピーの名言を紹介しながら、誰もがいろいろあるけれど「自分のカードを受け入れ、持っているカードを最大限、活かしていくしかない」「どんなにいいカードばかりを持っているように見える人がいても、あくまでそう見えるだけ。その人が与えられたカードを最大限に活かしているから、素敵に見えるのです」(同書より)と綴ります。
自分の持つカード(特性)をどのように使いこなせば社会でのコミュニケーションに活かせるかを具体的に教えてくれる同書。学校や会社での人間関係にお悩みの方は一読の価値ありです。また、発達障害当事者でなくとも、円滑なコミュニケーション術を学びたいすべての人にとって、実践したいコツが満載の一冊となっています。
[文・鷺ノ宮やよい]

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