団地にシェア工房や菜園、ピザ窯付き! 青空ごはん会やおしゃれレストランなどグルメも楽しい。「東京から帰って寝るだけのまち」から「居心地よく好きなまち」へ 埼玉「ミノリテラス草加」
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老朽化が進む団地・社宅を、リノベやコンバージョン(用途変更)をし、再生・利活用しようという取り組みが全国に広がっています。埼玉県草加市では建物の再生だけにとどまらず、一部を飲食店やDIY工房、子どもの居場所といった複合施設とし、まちやコミュニティを活性化する動きが出てきました。そんな「ミノリテラス草加」を開発した東武鉄道株式会社とコミュニティ運営を担う株式会社ソウカブンカのコミュニティマネージャー、住んでいる人の声を取材しました。
子どもたちが走り、大人も笑顔あふれる。団地の中庭で開催された「青空ごはん会」
東武スカイツリーライン草加駅から線路沿いに歩くこと約9分。何やら楽しげな雰囲気の施設、「ミノリテラス草加」が見えてきます。賃貸住宅部分の3棟44戸の「ソライエアイル草加氷川町」、飲食店やDIY工房、コミュニティファームなどからなる複合施設で、築山のある芝生広場、シンボルツリー、ウッドデッキがなんともすてきな雰囲気を醸し出しています。もともとは、東武鉄道の社宅でしたが大胆にリノベーションし、2024年に賃貸住宅として生まれ変わりました。
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道沿いに設置された「ミノリテラス草加」の掲示板。楽しげな雰囲気が伝わります(写真撮影/刑部友康)
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団地1階にできた本格イタリアンTacasi(タカジ)。入居者の皆さんがランチやディナーに利用し、そこで顔見知りになることもしばしば(写真撮影/刑部友康)
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中庭のファーム。入居者以外の方も申し込めば気軽に利用できます。コミュニティの交流の場(写真提供/東武鉄道)
2024年秋、おだやかな天気のなか、この「ミノリテラス草加」の中庭で「青空ごはん会」が行われました。参加者は団地にお住まいの方々、コミュニティファームの利用者、地元・草加市と事業者である東武鉄道の方々など。春から募集していた賃貸住宅が満室となったことから、入居者同士、まわりのみなさんとのコミュニケーションを図るため、開催されたのです。
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入居者のみなさん、関係者のみなさんでミノリテラス草加の完成を祝う「青空ごはん会」(写真撮影/刑部友康)
「青空ごはん会」ということで、団地の一階に入っている「イタリアンレストランTacasi(タカジ)」「地域とつながるこどものアトリエつなぐばもどき」のおしゃれなフード&ドリンクが提供され、「何号室ですか?」「お名前は?」など、屋外のテーブルでは会話も弾みます。参加者同士の和やかな歓談中、そのまわりをお子さんが走り回り、なんともおだやかで幸せな時間が流れます。
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この日がほぼ初めての入居者イベント。引越してきたばかりの人もいて、最初は緊張している様子もうかがえました(写真撮影/刑部友康)
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食事をし、会話をすすめていくうちにリラックスして笑顔が生まれていきます(写真撮影/刑部友康)
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子どもたちは広い中庭を走り回り、大きな木に取り付けられたブランコで楽しそうに遊びます。入居者同士の子どもたちの距離も近づいていました(写真撮影/刑部友康)
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地元出身アーティストのライブで閉幕。居心地のよさは抜群です(写真撮影/刑部友康)
築50年超の社宅、高騰する建築費、まちの活性化。課題からはじまったプロジェクト
とはいえ、「青空ごはん会」に至るまで、建物のリノベも、コミュニティの形成もかんたんなものではありませんでした。まず、このプロジェクト再生を主導した東武鉄道の生活サービス創造本部 沿線価値創造統括部 企画開発担当の根本悠さんに話を聞いてみました。
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リノベーションプロジェクトを手掛けた東武鉄道の根本さん。イベントの開始挨拶でも、このプロジェクトに対しての熱い想いを話していました(写真撮影/刑部友康)
「プロジェクトのはじまりは、自社が保有する社宅をどう活用するか、というものでした。建物は1972年築なのでエレベーターはありませんし、室内も和室と畳、押入れで、今のライフスタイルに合わない。ただ、建物の調査をしたところ耐震性や基礎などに問題はない。一方で建築費が上昇しており、建て替えて賃貸住宅にしても、賃料収入で利益を得るのも容易ではありません。コストを抑えつつ、建物を利活用したいというのが目的です」(根本さん)
確かにリノベ前の室内は、キッチンのガスコンロは据え置きタイプ、部屋は和室と押入れで、昭和感が拭えません。また、社宅ということもあり、敷地は閉鎖的でどこか暗い印象でした。そしてもう一つ、「住むまち」としての課題もありました。
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リノベ前の社宅の内観写真。築年数が経っていることもあり、建物の古さが目立っていました(写真提供/東武鉄道)
「草加市さんも問題視していますが、そもそも草加って『寝に帰るだけのまち』といわれていて、まちとしての魅力が乏しいという課題があったんです。お住まいの方も家賃重視で選んでいて、愛着が湧きづらい。従来のコミュニティもやせ細っていくなかで、どうやったらまちを活性化していけるかというのを、草加市さんと共にディスカッションし、プロジェクトを進めました」(根本さん)
敷地のゆとりと室内のデザイン性。昭和と令和のいいとこ取り
建物やまちとしての課題がありつつも、昔ながらの「社宅」には、近年の建物や敷地計画にはない魅力があったといいます。
「間取りは2DKで、広さは54平米ほど。余裕があるので、二人暮らしや小さなお子さんがいる子育て世帯にちょうどよいですよね。都心部でこの広さを借りようと思うと家賃は割高になりますが、ここであれば家賃も抑えられます。また、建物と建物の間が離れていますが、これも今の物件にはない魅力・ゆとりです。ここを強みとして敷地計画や室内のリノベをすることにしました」と話すのは、東武鉄道で企画開発を担当する寺﨑さん。
実際の設計を手掛けたのは、建物や不動産の再生・利活用に定評のあるスピーク。広さや余裕を活かして、1階は専用庭付き、4階は思い切りインダストリアルな空間など、思い切ったプランニングにしました。一方で、現代の暮らしの快適さをかなえるべく、窓に遮音対策として真空ガラス「スペーシア」を採用。水まわりには新しいシステムキッチン&バスなどをいれています。新しくなった設備&床材、古さを活かしたデザインなど、昭和と令和の「いいとこどり」な空間デザインとなっています。
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リノベ後の室内。無垢材を贅沢に使っているほかシステムキッチンに変更(画像提供/東武鉄道)
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部屋は洋室。洗面所や玄関まわりにもゆとりあるつくりを意識(画像提供/東武鉄道)
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階段で上り下りする4階の住戸。思い切ってインダストリアル&食を楽しめるプランにし、DIYする余白を残しています(画像提供/東武鉄道)
もうひとつ、交流を生む仕掛けとして、敷地と周囲を囲んでいた柵を撤去し、中庭を地域のリビングとしてデザインし直しました。近所の人が入って来れるようにシンボルツリーを中心に、コミュニティファームやピザ窯、ウッドデッキ、築山などがあり、自然と回遊&過ごしたくなる仕掛けになっています。
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庭に作られたピザ窯。入居者イベントなどで使用されるそうです。焼き立てピザは格別の味ですよね(写真撮影/刑部友康)
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中庭には子どもたちが遊びたくなる仕掛けがたくさん。ミノリテラス草加の公園のような役割になっています(写真撮影/刑部友康)
「住棟を抜ける風が心地よいんですよ。近隣の方も中庭を気に入ってくださる方も多いんです。中庭には、鉄道で使われなくなった枕木を再利用しています。物件を視察にきた鉄道事業者の方は気づいていましたね(笑)」(寺﨑さん)
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1階にウッドデッキを造作。中庭のシンボルツリーにはブランコ。心地よいですね(写真撮影/刑部友康)
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スペースを活かして、シェアサイクルを導入。敷地に余裕があるからこそ、こうした共有設備の導入も可能です(写真撮影/刑部友康)
コミュニティマネージャーが地域の人を見つけ、つながりを活性化する
こうした建物や中庭のプランニングと並行して、東武鉄道の根本さんが着目したのが、当時草加市産業振興課が行っていた「リノベーションスクール」です。
リノベーションスクールは、草加市が掲げる「そうかリノベーションまちづくり構想」の取り組みの一環として、市内外から集まった受講生が「ユニット」と呼ばれるチームを組み、市内の遊休地を活用する事業提案を行い、草加市の活性化につなげる、というものです。
「東武鉄道として、どうやって地域の価値を高めるか、まちとしての交流を生み出すか。そこをずっと考えていました。その時に、草加市の「リノベーションスクール」の存在を知り、この取り組みと何か連携できないかと考えました」と根本さん。
その後、実際にリノベーションスクールに参加し、そこで「ミノリテラス草加」のカギとなる人物と出会います。それが、草加市内ですでに「シェアアトリエつなぐば」という施設を運営していた、小嶋直さんと松村美乃里さんです。
「シェアアトリエつなぐば」は【DIO(Do it ourselves)欲しい暮らしは私たちでつくる】のコンセプトのもと、草加市内の新田駅から徒歩15分ほど離れた場所に存在するカフェやアトリエが混在する複合施設で、週変わりでさまざまな人がお店を切り盛りし、老若男女問わず多くの方の交流の場となっています。
「この施設の風景を見たときに、ぜひこの人たちと「ミノリテラス草加」をつくっていきたいと思った」と東武鉄道の根本さんは言います。
そんなきっかけから話が進み、最終的には、団地の1階の4区画を住宅から店舗にコンバージョンし、その4区画は、小嶋さん、松村さんらが後に設立する「(株)ソウカブンカ」にマスターリースすることになったとのことです。
また、「リノベーションスクール」の参加者の一人である小島瑞紀さん(通称こじまるさん)は、リノベーションスクールでのワーキングを通じて、「ミノリテラス草加」の運営に関わりたいと決心し、現在は、現場に常駐するコミュニティマネージャーとして活動しています。
こじまるさんの当面の目標は、ご近所同士、心地よい温度感、お付き合いの密度を見つけ、住人のみなさんが主体的にイベントや交流の機会を生み出し、「自分たちの団地」「居場所」と思ってもらえるようにすることだそう。
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コミュニティマネージャーとしてソウカブンカの部屋に常駐しているこじまるさん。イベント時には参加者の皆さんと笑顔でお話する様子が印象的でした(写真撮影/刑部友康)
このほかにも、他の区画には、いつかは地元草加で飲食店を開業したいと考えていたイタリア料理店の「Tacasi」や、こどもが自由な発想で自由に過ごせる場「つなぐばもどき」、誰でも気軽に利用できるシェア工房「草加文化室」などが開業しました。
今まで、「寝に帰るまち」と思われていた草加ですが、実は、草加の地を愛し、草加で自分の目標を成し遂げたい多くの人が眠っていたんですね。こうした草加の才能を巻き込んでいったことで、かつてないワクワクが生まれていったそうです。
しかし、最後の難関が立ちはだかります。それは、入居者集め。当初は想定通りに入居者が集まらず、東武鉄道としてはヒヤリとしたこともあったそう。
「2024年春に募集を開始したんですが、周辺の家賃相場より1万円~2万円程度割高。駅徒歩9分ということもあり、内心とてもヒヤヒヤしていました……。ただイベントの開催や施設のPRを続けることで徐々に知名度が上がり、最終的には竣工してから半年間で満室となりました。それも20代、30代と東武鉄道として沿線に住んでもらいたかった若い世代です。住まい選びの決め手として、オンラインで仕事をするので部屋に広さがほしい、中庭が気に入った、コミュニティマネージャーがいる暮らしに興味をもったと聞いています」(根本さん)
数字や言葉にはならない「いい感じ」。引かれるのは20代30代が続々入居
では、実際の住み心地はどんな感じなのでしょうか。A棟に入居した上村亮平さん・紗季さんご夫妻に聞いてみました。
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実際にお住まいのお二人。まるで昔から暮らしていたように、すでに溶け込んでいます(写真撮影/刑部友康)
「転居のきっかけは、結婚のために広い住まいに引っ越したいというものでした。SUUMOで物件を見かけて内見にきたんですが、そのときにコミュニティマネージャーのこじまるさんとたまたまお話しできて。ここで自分たちが暮らすイメージが持てて、ココしかないねと決めました」と亮平さんは話します。
コミュニティのある暮らしをしてみて驚いたのは、居心地のよさ。
「団地に帰ってくるとね、1階に温かい笑い声とともに明かりが灯っているのがわかるんです。それを見るとね、すごくホッとするんです。安心感、居場所があるというか、ご近所さんと仲良くなるとこんなに心地よいものか、と、驚いています。もともと子どもの声が聞こえてくるとうれしいな、と思うタイプなのですが、今はさらにその思いが強くなっていて。休日の朝、子どもたちの声で目が覚めると幸せだな、と感じます」(紗季さん)
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ミノリテラスの1階にいらっしゃる運営のみなさん。これから入居者のみなさんと「ミノリテラス草加」の物語がはじまるんですね(写真提供/東武鉄道)
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人が自然と集まる1階部分。ミノリテラスのコミュニティを創造する中心的な場所です(写真提供/東武鉄道)
「ぼくたちだけで未来を描くのではなく、住民のみなさんが参加して、つくっていけることが大事だな、と。私たちはそれを支える側。みなさんのやりたいことを引き出して、みんなが居心地のよい場所にしていけたら」と小嶋さん。
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根本さんが出会い、「ミノリテラス草加」のカギとなった小嶋さん(写真提供/東武鉄道)
コミュニティマネージャーが、団地のイベントを企画・運営する側になってしまうと、住民はサービスの受け手、消費者になってしまいますが、住まい手が自発的にイベントを考え、実施すれば、「仲間」になります。とはいえ、義務、当番制になってしまうと住民の負担は大。ほどよく、心地よく、いい塩梅。数字には見えにくいですが、この絶妙な仕切りが現代のコミュニティマネージャーの腕の見せどころなのでしょう。
現代の生活では、「もっと広く」「便利に」「快適に」という数字で測れる指標に重きが置かれています。ただ、数字でわかることはごく一部ですし、ものごとの一面に過ぎません。もっとゆるっとした感覚で、「なんかわかんないけれど、心地よいよね」「居場所がある感じ」「言葉にできないけど好き」。そうやって住まいやまちを選ぶ。そんな感覚重視の住まい選びが、令和に支持を集めていくのかもしれません。ミノリテラス草加には、そういったことを感じられるソフト面・ハード面のまちづくりの工夫が、たくさん詰まっていました。
●取材協力
東武鉄道
草加文化室インスタグラム
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