Berghainのボイコット運動——2024年3月から現在まで

赤色にウォッシュされたクラブBerghainの写真。上部に、「ボイコットBerghain」というテキストが貼り付け加工されている

赤色にウォッシュされたクラブBerghainの写真。上部に、「ボイコットBerghain」というテキストが貼り付け加工されている



パレスチナでのジェノサイドと、またパレスチナ解放と連帯するアーティストのブッキングをキャンセルしたこと。Berghainがこれらのことに沈黙していることに対し、ますます多くのアーティストがBerghainをボイコットしている。


*この記事は2024年11月25日にThe Left Berlin紙上にAntifascist Music Alliance (アンチファシスト音楽連盟)が執筆した「Boycott of Berghain: from March 2024 to now(https://www.theleftberlin.com/boycott-berghain-from-march-2024-to-now/)」を日本語訳したものです。


Antifascist Music Alliance
2024年11月25日


Antifascist Music Allianceからのアップデート(2025年1月20日)
深刻化したジェノサイドが始まってから1年半以上が経った後、パレスチナの人々はガザでの停戦を確保することに成功した。パレスチナの解放に向けての組織化にとってこれが何を意味するのか自問しているならば、パレスチナ人の詩人ラシャ・アブドゥルハディが2025年1月16日に書いたことを読んで欲しい。「停戦へ向けた/を経たこの時期は、運動を加速しBDS&PACBIに再びコミットする強力な時期です。もしまだしていないなら、試してみて! もし始めたなら、もっと深く! これまでコミットしてきたなら、他の人たちと一緒に! 想像しているよりももっと重要な役割を、あなたは果たしている」


パレスチナから今やレバノンもふくむ地域でのジェノサイドの激化に沈黙を貫くBerghainに対し、ボイコット運動が組織された。ドイツ政府の抑圧と手を結ぶ形で、このクラブはパレスチナとのアーティストたちの連帯表明も積極的に口封じしており、中にはArabian PantherやWTCHCRFTなど、その体験を公表した人もいる。The Left Berlin紙で以前私たちが報告したように、Berghainがウクライナへの戦争については声をあげてもパレスチナについては沈黙している偽善についても注意を引きたい。
この記事ではBerghainのボイコットの経緯とその理由をまとめ、ボイコットを無視するコレクティヴとフェスの名前をいくつかに挙げる。続いて、パレスチナの解放に連帯してボイコットに従っているアーティストも何人か取り上げたい。最後に、DJのJosey RebelleとRavers for Palestineとの二つの短いインタビューを収める。


Ravers for Palestine によるボイコットの呼びかけ
2023年10月下旬、Ravers for Palestine(*1)が発足し、「イスラエルがガザで残虐な攻撃を今も行っていることに反対し、緊急に声を上げる」よう音楽家やコレクティヴに呼びかけるオープンレターを公開した。2023年11月、Ravers for Palestineはクラブに向けて「クラブへのメッセージ——沈黙=加担。コミュニティを失いたくなければパレスチナのために行動せよ」を投稿。その後、2024年3月、Ravers for PalestineとDJs Against Apartheid(*2)はBerghainのボイコットを呼びかけた。
ボイコット運動の展開にも関わらずBerghainでイベントを開催し続けるパーティーの一つがREEFである。Ravers for Palestineは2024年10月11日、REEFのオーガナイザーたちに個人的に連絡をとり、イベントをBerghainで行うのをやめるよう求めた。プライベートでの接触が不首尾に終わった後、Ravers for Palestineはその訴えを2024年10月18日に公表。コミュニティの意見を支持し、Berghainをボイコットするよう求めた。私たちAntifascist Music Allianceもラインアップのアーティストたち(写真以下)に連絡し、ボイコットを尊重するよう求めたが、返答はなかった。

Berghainのウェブサイトのスクリーンショット。告知されていることは、「2024年11月15日22時よりREEFを開催。Berghainで、Esposito spe:c, Mala, MC Yallah x Debmaster と Niño Árbol のラインアップ。パノラマバーでは、DJ Earl, Lena Willikens B2B Darwin, Nono Gigsta and Siu Mata

Berghainのウェブサイトのスクリーンショット。告知されていることは、「2024年11月15日22時よりREEFを開催。Berghainで、Esposito spe:c, Mala, MC Yallah x Debmaster と Niño Árbol のラインアップ。パノラマバーでは、DJ Earl, Lena Willikens B2B Darwin, Nono Gigsta and Siu Mata

Berghainのサイトのスクリーンショット


Ravers for Palestineは、Berghainで未だにイベントを行うコレクティヴやレーベルと関わりを作ることができた。成功例の一つはレーベルパーティのPAN。Ravers for Palestineの努力とダンスミュージックのコミュニティからの抗議により、Berghainで開催予定だった2024年8月2日のパーティーをキャンセルした。

暗い背景の上に白い文字で、「PANへのオープンレター、パレスチナを見捨てるな、ボイコットを尊重しろ」と書かれている。下に、レイヴァーズ・フォー・パレスタインのロゴが白色の大文字と踊っている棒人形であしらわれている

Ravers for PalestineがBerghainのボイコットを尊重するようPANに求めるインスタグラムの投稿

Ravers for PalestineがBerghainのボイコットを尊重するようPANに求めるインスタグラムの投稿

私たちはまた、CTMにはボイコットする勇気と連帯が見受けられないとThe Left Berlinで以前報告した。CTMフェスティバルはBerghainでパーティーを開催し続けている。一番最近のパーティーは2024年10月30日にあり、彼らの2025年のフェスティバルのメイン会場としてBerghainの名前が未だに入っている。CTMとREEFは、Berghainでイベントを行いながら自分たちは進歩的だと主張しているパーティー・フェスの中の2つでしかない。私たちの知る他の例としては、Your Love, Love on the Rocks, そしてクィアパーティーのweeeirdosがある。パレスチナの解放なしにクィアの解放はない。


こうしたパーティーやコレクティヴは、パレスチナとレバノンで1年以上激化し続けているジェノサイドに対して、またドイツでの抑圧に対して、堂々と勇敢に抗議しているナイトライフコミュニティ内部の人たちを支持することを拒否している。



声をあげ、Berghain出演を拒否しているアーティスト
ギグに呼ばれたら辞退するつもりだと公表しているDJや、出演予定だったラインアップからキャンセルされた経験を公表しているDJ(WTCHCRFTやArabian Pantherなど)が何人かいる。Ravers for Palestineが以下のインタビューで言及しているように、Berghainに出るのを拒否しているDJの多くはBIPOC(ブラック・先住民・有色人種)、クィア、トランスの人たちだ。Berghain出演を拒否することを公表した人たちの中で、私たちが連絡を取ったのはCáitBeatrice M./Bait、そしてJosey Rebelle。Beatrice M./Baitは私たちへのメールで、「音楽アーティストであることは、自分のキャリアよりももっと大事な運動と連帯する機会を犠牲にすることでもある」と言った。


Josey Rebelleは2024年の初めに既にBerghainの出演を引き上げた。Josey RebelleはSNSを使っていないため、彼女の考えを周知するために自身のウェブサイトにこう書いた。
「今年の初め、私はBerghainの2024年の全てのブッキングから引き上げた。このクラブがパレスチナを支持するDJを排除したり、その後謝罪を拒んだり、ウクライナについては立場を表明していたのに、その時と同じようにパレスチナに関して立場を表明することを拒んだりしているから。なぜBerghainを(他のクラブもだが)ボイコットすると決めたアーティストがいるのかについては、DJs Against Apartheidのサイトを見て欲しい」


SNSを使っていなくても意思を伝える方法はある! 引き上げたことについて私たちはJosey Rebelleに以下の通りインタビューした。私たちは、他のアーティストやDJたちもボイコットを尊重し自身の行動を公表するよう、発言力のあるアーティストなら特に、呼びかけている。そうすればこれを公表して行っている勇敢な人たちが一人にならずに済むからだ。Beatrice M.が指摘したように、「シェアするのは大事だと思う、難しい決断だからこそ他の人たちに同じことができる力を与えることができて、それがボイコットする意味だと思う」


Josey Rebelleインタビュー


-決断したのはいつでしたか? DJs Against ApartheidとRavers for Palestineが3月にボイコットを呼びかけた前でしたか、後でしたか?


BerghainがArabian Pantherのイベントをキャンセルしたこと、そしてクラブ側の対応を聞いて、動揺しました。1月にこの顛末が明かされた時、ちょうど2024年に6回に渡ってBerghainに出演すると合意したところだったので、クラブと緊急に話し合わなければならないと気づきました。


出演を取りやめることもあり得るという私の考えをクラブにメールで伝え、電話で話すことになりました。最初のメールでは私の懸念は「このことが起こった後にBerghainから公に説明をしたりステートメントを出したりするといった意思表示がないことで、このクラブはガザで起きているジェノサイドに反対していないのだと、またおそらくは特に国や他の団体からの圧力によってパレスチナと連帯する表現を積極的に抑圧しているのだと、世間の目に映ることになる」ということでした。
また「そのような意思表示がないため、クラブが平常通り営業している様子だから、この問題に関して説明や約束をもらうためにBerghain側に連絡を取る責任を、個人アーティストやそのチームが不公平に背負わされているように感じる」とも付け加えました。

ガザでの恒久停戦を呼びかけたり、ウクライナの先例のようにガザへの支援を示したり、もしくはStrike Germany(*3)運動の要求と連携するような公的なステートメントや意思表示をBerghainが出すつもりがあるのか、尋ねました。もしこれらの質問への答えがノーなら、Berghainは何らかの対応を講じるつもりがそもそもあるのか尋ねました。


その後の電話ミーティングでの口調は丁重だったとはいえ、この状況の対処のなされ方について悔いるそぶりがなく、ガザについてのクラブのスタンスについて謝罪や説明も全くありませんでした。Berghainは政治的問題には関与しないのだ、と言われました。ですがこのクラブはウクライナについてはウェブサイトで特別ページを立ち上げたことを含めとても声高に支持しているのだと、だからこういう問題について声を上げることは全く可能で、ガザについて同じことをしないと意識的に決めているのだと、再度指摘しました。
数日後の2024年1月31日、Berghainでの全てのブッキングから引き上げました。この問題について徹底的に考え、他の視点をくれる信頼している人たちと話し合うために時間を割きました。頻繁に私をブッキングしてくれたクラブの支払いとギグを失うことになるのは分かっていました。ですがそういったことは全て一旦忘れて私自身の価値観に基づいて決断せねばならず、それが今回Berghainの価値観と折り合わなかったようです。だから最終的には抜けるのは私にとって単純明快でしたし、後悔していません。
そのタイミングについてですが、ボイコットの公式の呼びかけがなされていたとは思いませんが、Strike Germany運動に連帯して多くのアーティストやプロモーターがすでにドイツ全体から引き上げていました。CTMやDwellerのイベントでBerghainに出演する予定だった人も含めてです。


-あなたの出演キャンセルとその公表についてBerghainや他のDJがどう反応したのか、共有して頂くことはできますか?


私はSNSを使っていないので公に告知はしませんでした。単に自分のウェブサイトのイベント欄のところに、Berghainでは今後出演しないと知らせるメモを追加しただけです。ですがBerghainでブッキングがあった他のDJとはたくさん話し合い、その人たちの多くは動揺していてどうすればいいのかわからなかったようです。パレスチナ支持のアーティストの多くはこの状況について声を上げるためにクラブとの直接の会話を求め続けていました。それでクラブ側が説明をしなければならないという気まずい立場に立たされたことは、圧力のかけ方の一つと見ることもできるでしょう。ですが私にとっての問題は、「もしBerghainが自身の対応を謝罪したり、態度を変えたり、パレスチナの人々のジェノサイドについて声を上げるつもりがないのなら、なぜ私が残らなければならないのか?」ということでした。


-ボイコットリストの中にある他のクラブやイベント(ロンドンのE1、ベルリンのHÖRと://about blank、Sweat Festival)もボイコットしていますか?


はい。


Ravers for Palestineインタビュー


-DJs Against Apartheidと一緒に3月にBerghainのボイコットを呼びかけましたね。この呼びかけを聞き入れたDJたちについて教えてくれますか?


広く多様なDJたちが今ではBerghainをボイコットしています。エクスペリメンタルの新進アーティストからBerghainの昔の常連まで。共通点の一つは国外アーティストの一斉引き上げです。例えば、イギリスやアメリカからのDJで未だに出演している人はほとんどいません。これは地殻変動です。BerghainのRedditコミュニティでさえ気付いたようです。「こんなに多く有名DJが定期的にブッキングされなくなったのはなぜ?」のようなタイトルの、心配げなスレッドをますます見かけるようになりました。
Berghainから引き上げているDJの多くはBIPOC、クィア、トランスです。他の連帯の取り組みで見られるように、パレスチナと連帯しているのは財産、構造的特権、機会が最も少ない人たちです。一般的にテクノや他のジャンルを未来へ牽引しているのがこれらのアーティストであるのも偶然ではありません。


-ボイコットの支持についてはこれまでどうでしたか? 何が見えてきましたか? どういったことを言いたいですか?


ジェノサイドの初期、「イスラエル」の正常化と、欧米諸国が帝国主義的現状へとより広範に私たちを取り込もうとしていることに対し、それらに抗議するに足る人数がレイヴカルチャーにいるかわかりませんでした。
一年経ち、それが杞憂だったのは明らかです。ナイトライフ施設がほとんど沈黙を貫き、パレスチナ支持の声を抑圧することすらありましたが、コミュニティ自体はこの反植民地主義の瞬間に立ち上がっています。ジェノサイドに加担する団体のボイコットに始まり、自律的行動、ナイトライフでのPACBI(*4)の支持表明の急増や、多くの個人アーティストやレイヴァーたちの闘志性と犠牲に至るまで、私たちのカルチャーには草の根の抵抗ができる深く強力な蓄積があるのだと示してきました。このことは、他のカウンターカルチャーのグループがこの瞬間に自分たちのルーツを再確認していることと重要な連続性があります。例えばQueers for Palestine(*5)やBands Boycott Barclays(*6)を見てください。
今日、こういった取り組みがどのような反響をもたらし、パレスチナ解放の道筋にどう影響するのかは、誰も本当のことはわかりません。ですが、アパルトヘイト政権の文化的正当性を解体するのに重要な役割を果たしたミュージシャンたちの南アフリカボイコット運動から力とインスピレーションを得ています。


-ストライキ基金(*7)について教えてもらえますか?


これまで、ストライキ基金はパレスチナに連帯してベニューをボイコットした25人以上のアーティストに11,000ユーロを超える支援をしてきました。このクラウドファンディング事業を進めることができたのは特別なことでした。多くの場合、この資金は緊急医療費や家賃の援助になりました。当面の物質的な安心感以上に、電子音楽シーンが見習える別の未来のモデルでもあります。今日私たち全員を抑圧している競争的で単一的なモデルとは異なり、連帯や、多元的で水平な倫理に基づいているような。
相互扶助は抵抗の重要な側面です。Tunefork Studios(*8)やSkybarのようなレバノンの音楽ベニューがコミュニティ支援に乗り出したのはとても力強く、心動かされます。そしてForward/Scratch(*9)のような、団体のモデルに相互扶助を据えるような新たな取り組みにも期待しています。


ストライキ基金と支援
ストライキ基金への寄付はここから
ストライキ基金や他の支援の申請のためにRavers for PalestineやDJs Against Palestineに連絡したい場合はこのフォームから



Translated by: Yoshiyuki Ishikawa
Article by: NEON BOOK CLUB


Antifascist Music Alliance
https://buttondown.com/AntifascistMA



訳註
*1 「パレスチナのためのレイヴァーたち」:クラブカルチャー内でパレスチナとの連帯を求める団体。https://www.instagram.com/raversforpalestine/


*2 「アパルトヘイトに反対するDJたち」:パレスチナ解放を求めるDJ、プロデューサー、コレクティヴ、パーティー、クラブ、フェス、ラジオ局、ナイトライフで働く人々の団体。https://www.instagram.com/djsagainstapartheid/


*3 「ドイツをストライキ」:国際的な文化従事者にパレスチナに連帯しドイツの文化機関のボイコットを呼びかける運動。日本語訳はこちらhttps://docs.google.com/document/d/1yT8-PkBFNMb9VvPBwiYI2_wb1LruKqBAQrFO6MZ9hxc/mobilebasic


*4 Palestinian Campaign for the Academic and Cultural Boycott of Israel、「イスラエルの学術・文化ボイコットのためのパレスチナ・キャンペーン」。BDS Japan Bulletinによるガイドラインはこちらhttps://note.com/bdsjapan/n/n6a0b29cf9e7c


*5 「パレスチナのためのクィアたち」https://www.instagram.com/queers.for.palestine/


*6「バークレイズをボイコットするバンドたち」パレスチナと連帯し、バークレイズ銀行をボイコットするミュージシャンや音楽業界の団体。https://www.instagram.com/bandsboycottbarclays/
*7 ストライキ・ボイコットすることで金銭的に影響を受ける人々を支える資金
*8 https://www.instagram.com/tuneforkstudios/


*9 DJs Against Apartheid が支援する音楽抵抗ジャーナル https://forwardscratch.com/

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NeoL/ネオエル

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