総工費1400万円・セルフビルドで1カ月で建てた40平米の木の家にお邪魔します!設計もアプリで。デジタルファブリケーションを活用した近未来の家

総工費1400万円・セルフビルドで1カ月で建てた40平米の木の家にお邪魔します!設計もアプリで。デジタルファブリケーションを活用した近未来の家

家は、自らの手で建ててつくり込める時代。そんな夢のような話が、現実に起こっている。それをかなえるのは、テクノロジーの力で誰もがつくり手になれる世界を実現する、を掲げた建築系スタートアップ「VUILD」。同社が手がけるデジタル技術の家づくりサービス「NESTING」によって、建築やデザイン、施工の専門性がなくても、家を建てられるというのだ。今回は、「NESTING」を使って、移住を検討している人を対象にしたお試し移住拠点「那須のはなれ」を建てたオーナー・森勇貴さんにインタビュー。拠点づくりの道のりや、こだわったポイント、自分の手を動かして家をつくる面白さなどを教えてもらった。

暮らすように泊まれる宿がほしい。地域になければ、自分で建ててみよう!

2021年、VUILDでNESTINGの事業責任者を務める森さんは家族を連れて東京から移住。当時はコロナ禍で、自分らしい生き方や暮らし方って何だろうと考えた先に、移住に踏みきった。結果、ここでの暮らしに満足しているそう。「もっと移住仲間が増えたらいいのに」と思うようになるも、お試しで移住体験できる施設がほとんどない。森さんが住む那須塩原市は観光が盛んなため、泊まれる場所ならいくらでもある。そんな地域的背景も影響しているのだろう。そこで森さんは「暮らすように泊まれる場所があればいいのにな。ないなら、つくってみるか」と思い立つ。

施主の森さん

施主の森さん(写真撮影/白石知香)

場所は、「道の駅 明治の森・黒磯」から徒歩10分。高速道路のインターや、新幹線の那須塩原駅へもアクセスしやすく、自然と利便性がうまく共存した住みやすい地域だ。すぐ近くに森さんの住まいもあり、自宅から歩いて施工に通ったそう。

さてここからは、森さんが建てた「那須のはなれ」のツアーをしながら、施工のポイントやこだわりを見ていくことにしよう。

国産材を使い、木材の地産地消や地域資源の循環を実現

そもそも、この「那須のはなれ」は同社にとって2棟目の施工事例。1棟目は香川県直島町で竣工しており、そこで得たノウハウや改善点を活かしたモデルになっている。

○参考記事
家を自分でデザイン&組み立てられる! テクノロジーのチカラで素人でも低コスト&自由度高い家づくりサービス「NESTING」がおもしろい VUILD

まずは外回りから。

玄関側から見た外観

玄関側から見た外観(写真撮影/白石知香)

庭から見た外観

庭から見た外観(写真撮影/白石知香)

木をふんだんに使ったナチュラルな風合いが印象的。12坪(約40平米)の広さで、4人家族の滞在を想定してつくられている。外観をパッと見た感じ、これを施工のプロではない素人が建てたとは信じられない。

施工に関して第1のポイントは「基礎」。コンクリートを打設するのが一般的だが、この工法では杭工法を用いて、電動工具を使いながら自分たちで杭を打ち込んでいく。1棟目での施工では、まず杭を打ち込んでから、その上に木製の土台をわたすという流れだったが、土台に合うように基礎の位置や高さを1つずつ揃えて打ち込むのが大変だったという。今回はより施工性を高めるべく、土台を基礎となるパーツの上に仮置きしてから杭を打ち込むことで、作業の合理化を図った。

杭を打ち込んでいる様子

杭を打ち込んでいる様子(写真提供/VUILD株式会社)

次に屋根。日本家屋の佇まいを感じさせる軒には、「垂木」と呼ばれる下地材をわたしている。これも1棟目とは垂木の向きを変えて、より施工性をアップさせている。この垂木をよく見ると、木材を途中で継いであるのが確認できる。一般的に、木材を継ぐには「仕口」といって細かい継ぎ口を手作業で加工するのだが、それを自社で所有する3D木材加工機「ShopBot」で実現。高精度に加工されているため、プロの大工さんでなくとも所定の位置にパーツを組むだけで精密な施工が可能となる。

すっと整列した垂木が美しい

すっと整列した垂木が美しい(写真撮影/白石知香)

木材は、国産材を使用。構造駆体は神奈川県産や埼玉県産の材を使用し、地面に近いところは虫食いに強いヒノキを、構造体にはスギを用いている。また外壁やウッドデッキには、那須塩原の材木屋さんから購入した栃木県産の木材を使い、木材の地産地消を実現。

「安価な外国産の木材を使うよりも、地域の木材をどう循環させていくかに可能性を感じています。日本は国土の約7割が森。資源があるにもかかわらず、コストを優先して外国から輸入することがサステナブルだといえるのかどうか、僕は疑問があります。実際のところ、外国産よりも国産材のほうが値段が高くなる場合もあるのですが、地域資源の循環に価値があると思う。施主自ら施工をするので、浮いた分の施工費を地域材の購入費に充てています」

外壁は木材をパネル化しているため、施工がスムーズに進められる

外壁は木材をパネル化しているため、施工がスムーズに進められる(写真撮影/白石知香)

「手づくり」からはイメージできない、ホテルライクな洗練された空間

ではいよいよ、室内に入っていこう。玄関はスマートキーを導入しており、次世代の風を感じる。

玄関

(写真撮影/白石知香)

室内に入ると…

室内

(写真撮影/白石知香)

室内

(写真撮影/白石知香)

室内

(写真撮影/白石知香)

取材陣一同、「すごい……おしゃれ!きれい!」と、興奮してしまった。デザイナーズホテルのような洗練された空間の中に、木の温かさが調和している。「手づくりの家」からはイメージできない仕上がりだ。

部屋のそれぞれのこだわりを森さんに聞いた。まずは水回り。「暮らすように泊まれる宿」というコンセプトのもと、キッチンを完備。調理器具や食器類も備えられており、近くの道の駅で買い物をして、家族みんなでごはんをつくって食べるなんてことも可能だ。

緑や光が気持ちよく映えるキッチン

緑や光が気持ちよく映えるキッチン(写真撮影/白石知香)

那須には温泉施設がたくさんあるため、お風呂はぜひ地域の温泉に入ってもらいたいという想いから、シャワーブースのみ。トイレはもちろん、洗濯機もあるため長期間の滞在でも不便なく滞在できるだろう。

シャワーブース

(写真撮影/白石知香)

ダイニングテーブルは既製品を購入したそうだが、3D木材加工機「ShopBot」を使えば、デザインなどにちょっとこだわった家具もつくれるそうだ。

建物のおよそ半分の広さを占める寝室・リビングは、ダブルベッドを2つ設置しゆったりとした空間。ポイントは、アール状にデザインした小上がり。

室内

(写真撮影/白石知香)

これも「ShopBot」を使って木材を加工したそうで、空間のデザイン性を引き上げている。なんとこの小上がりは収納スペースになっていて、掃除用具や雑品、Wi-Fiや通気口などもこの中に収まっている。

収納

(写真撮影/白石知香)

見せたくないものをうまく隠すことができる上に、デザインもかっこいいなんて……ほんとうまくできてる!と、取材陣は感動しっぱなしだった。

リビングからはウッドデッキに出ることもできて、ここがなんとも気持ちのいい空間。

ウッドデッキ

(写真撮影/白石知香)

軒があるおかげで日差しを遮り、半屋外の空間でのんびり過ごすことができる。ここで本を読んだり、庭で遊びまわる子どもたちを眺めたり……いろんなシーンが思い浮かぶ。

部材を組み立てたり、取り付けるだけ。作業は意外とやさしい!

デザイン性も快適性も質の高い建物を、どうやって森さんは建てたのか。その流れを教えてもらった。全体の工程から話すと、2024年4月末に着工し、6月に竣工。実際の稼働日は31日間とのことで、約1カ月で建てることができたそうだ。

室内のゾーニングやプランも、建築の専門家ではない森さん自身がデザインした。開発した設計アプリを使い、用途や広さに応じたモデルプランをもとにアレンジを加えていく。

専用の設計アプリを用いて森さん自身が手がけたプラン

専用の設計アプリを用いて森さん自身が手がけたプラン(写真提供/VUILD株式会社)

専用の設計アプリを用いて森さん自身が手がけたプラン

(写真提供/VUILD株式会社)

部屋を大きく4つに区分し、玄関と水回り・ダイニング・ベッド・リビングを配置。とはいえ森さんも設計士ではないため、「VUILD」のスタッフにアドバイスをもらいながらプランを固めていったそうだ。実際に一般の人が建てる場面でも、自作した図面データを共有してプロと相談しながらカスタマイズするため不安はないそうだ。このプランを考えるのに、森さんは1カ月くらいかけたと話す。早い人なら、2週間くらいでプランが完成する。

プランをもとに、いよいよ施工のフェーズだ。基礎・土台→駆体・屋根→断熱・気密→外装→内装の順番で工事を進めていくそうだが、31日間という工期の中でも、一番時間がかかったのは内装だという。といっても、15日程度。建物そのものをつくるよりも、中身を仕上げるほうに時間がかかっているなんて、どんな工法で建てればそんなスピーディーに完成するのか。

「那須のはなれ」の施工工程

「那須のはなれ」の施工工程(写真提供/VUILD株式会社)

そもそも柱も梁(はり)も、使用する木材はすべて「ShopBot」で加工された状態で運ばれてくる。木材は座標ごとにナンバリングされていて、その番号ごとに木材を正しく配置し、あとは組み上げるだけで駆体が完成する。作業内容としては非常にシンプルで、森さんは仲間の協力を得ながらほとんど一日で組み上げてしまったそう。

それぞれの材にナンバリングされている

それぞれの木材にナンバリングされている(写真提供/VUILD株式会社)

駆体をつくっている様子

駆体をつくっている様子(写真提供/VUILD株式会社)

組み立てたらビスで留める

組み立てたらビスで留める(写真提供/VUILD株式会社)

建物の形が見えてきた

お仲間の皆さんも一緒に施工。建物の形が見えてきた!(写真提供/VUILD株式会社)

室内の壁も自ら張ったもの。加工された木材パネルをパズルのようにはめ込めば、釘を使わずとも固定できる仕様になっており、誰でも簡単に作業できる。

壁のパネルを外すと、中に駆体が見える

壁のパネルを外すと、中に駆体が見える(写真撮影/白石知香)

木材パネルをはめるだけなので、パネルの色を変えることもできるし、例えば壁が壊れたり子どもが落書きをしてしまっても、その部分だけ取り替えることができる。一般的には重くて大きい石膏ボードを取り付けて、その上に塗装や壁紙などを施すが、木材パネルなら軽くて運びやすく、女性でも施工しやすい。森さんは施工の思い出として、作業に集まった子どもたちに柱にあえて落書きをしてもらい、その上から壁を取り付けたそう。

子どもたちにとっても忘れられない思い出になるはず

子どもたちにとっても忘れられない思い出になるはず(写真提供/VUILD株式会社)

苦労したのは、玄関のタイルや室内のカーペットの張り付け。玄関タイルはうまくサイズが合うように自らカットして張ったそうだ。カーペットは、タイルカーペットを使えばより早く仕上がるものの、ここは見た目を重視。ロールカーペットを切り出し、部屋の角や柱にフィットさせながら、動画で張り方を学んで作業を進めていった。

「基礎も、駆体も、外装も、内装も、全て自分でつくっているから、仕上げるのにどんな工程が必要なのかイメージできるんです。だから失敗しても自分でやり直せるし、その失敗も施工の思い出になる。お金を支払って施工業者に建ててもらうとなると、気になる部分があればやり直してもらう手間が発生したり、時にはそれがクレームとされてしまったりしますが、自分はプロじゃないし、まあいっかって、自分の中で折り合いをつけることができます。同時に職人さんってすごいんだなって、改めて技術力の高さにリスペクトの気持ちが湧きました」

森さん

(写真撮影/白石知香)

こうした作業のほとんどは森さんをはじめ、集まったお仲間の皆さんで手掛けたそうだが、その背景には「VUILD」が委託している「コンストラクションマネージャー」と呼ばれる人々のサポートがある。とはいえプロの施工業者任せではなく、正真正銘、施工未経験者たちによる手づくり。みんなで、手作業で家を建てることから、「VUILD」ではこれを「co-build(コビルド)」と呼んでいるそうだ。

プロによる完全な注文住宅ではなく、自分たちで建てる意義や価値は?

森さん自身、那須に移住した際は工務店で注文住宅を建てた。注文住宅との違いや自分たちで建てることの価値を尋ねると、こんな言葉が返ってきた。

「自分でつくることによって、コミュニティも生まれていくことが面白いと思っています。例えば、家族ぐるみで仲良くさせてもらっている移住の先輩家族が土日手伝いに来てくれたり、ご近所さんが目の前を通るたびに声をかけてくれたり。資材を運んでくれるトラックの運転手さんが、作業に参加してくれたこともあったり。1棟目のオーナーさんが東京から手伝いに来てくださったり、この建て方や考えに興味を持たれている方が新潟から来てくださったりと、つくる行為を通じて、コミュニティの輪が広がっていくのを実感しました。一緒につくることで、その人自身がこの場所のファンになってくれる。参加者に主体性が生まれていくのは、自らが主体となって家をつくることならではの価値だと思います」

森さん

(写真撮影/白石知香)

さらに、森さんの息子さんにもいい影響があったそう。

「子どもたちにも、つくるよろこびを感じてもらえたのはとても良くて。息子が夏休みの工作の宿題でツリーハウスをつくると言い出したんですよ。それも設計図から自作して。きっと、子どもにとっても、自分の手で建てる・つくるということが、心に残る経験になったんだと思います」

ちなみに、今回森さんが建てた「那須のはなれ」は総工費が1400万円(家具は含まない)。
住居よりも、店舗やオフィス、交流拠点など多くの人が関わる場のほうが、自分たちで建てる意義があるのではないかと、森さんは話す。

森さん

(写真撮影/白石知香)

これまで不可能だったことを可能にしたデジタルファブリケーションの技術。自分のため、家族のため、仲間のため、地域のため。その用途はさまざまだが、人生の大半を過ごす住まいを自らの手や仲間・地域の人とで手掛けることは、人とのつながりを結んだり地域資源を循環させたりと、つくることから広がるよろこびや価値がたくさんありそうだ。

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