3Dプリンター住宅、能登半島地震の被災者が低価格・早く生活再建できる選択肢に。水回り完備の50平米1LDKを550万円で提供、体験施設も完成 珠洲市「serendix50」

珠洲市に竣工した「serendix50」(画像提供/セレンディクス社)

能登半島地震によって大きな被害を受けた石川県珠洲市に、3Dプリンター住宅「serendix50(セレンディクスごじゅう)」が完成し、2024年10月に報道向けにお披露目された。この住宅は、耐震性に優れた鉄筋コンクリート造。一般的な新築住宅に比べ、建設コストが大幅に抑えられていることが特徴だ。珠洲市を含む能登地方は、2024年1月に発生した地震に加え、9月の豪雨でも大きな被害を受け、多くの住居が損壊。「serendix50」の製造を手がけたセレンディクス社は、被災者の生活再建を支援するために、この技術を活用している。同社のCo-founder(共同創業者)である飯田國大さんに、今回の取り組みについて話をうかがった。

珠洲市の約5000戸が、住宅再建の補助対象外という現実。3Dプリンターハウスが、解決の一手に。

能登半島地震により引き起こされた被害の中でも、顕著だったのが住宅被害。特に古い木造家屋の被害が大きく、報道でその姿を目にした人も多いだろう。珠洲市の調査によると、市内に7612戸あるうちの約1/4が「全壊」と判定。さらに約5000戸の家屋が、建物の復旧や修復に充てられる補助金等の公的制度の対象外となり、自力での建て直しを強いられている。そこに追い討ちをかけるように、2024年9月には記録的な豪雨が能登地方を襲った。被災された方にとっては、精神的にも体力的にもダメージが蓄積されている上に、家を建て直すには金銭的負担ものしかかる。

2024年10月2日、木造中心の住宅文化の能登には、聞きなれないニュースが飛んできた。珠洲市上戸町にオープンしたばかりのホテル「notonowa(のとのわ)」の敷地内に、白く輝く新築住宅「serendix50(セレンディクスごじゅう)」が竣工。手がけたのは、国内では初となる3Dプリンター住宅メーカーの「セレンディクス社」だ。

珠洲市に竣工した「serendix50」(画像提供/セレンディクス社)

珠洲市に竣工した「serendix50」(画像提供/セレンディクス社)

ホテル「notonowa」の別棟として使用するほか、被災者が無料で利用できる機会も設ける予定。住宅を失った人に、新しい住まいの選択肢として検討してもらえるよう、モデルルームとしても機能している。

「serendix50」を発注したのは、ホテル「notonowa」のゼネラルマネージャーである蔵雅博さん。数年前から3Dプリンターハウスに興味があり、震災前はグランピング施設として建設を考えて、同社に実際に相談していたそうだ。震災直後は検討がストップしていたものの、3月ごろから再度動き出し、住宅再建に向けたモデルハウスとして用途を変更して建設することになった。このスピード感のある動きの背景には、被災した地元の人々に、「生活再建が始まっている」ということを伝えたいという思いもあったのだそう。

低価格・速い・快適・安心。高齢者からの問い合わせが殺到

「serendix50」は、50平米1LDKの平屋建てで、2人暮らしを想定して設計されている。その特徴は何といっても、低コスト。水回りの設備込みで、550万円(税別)で建てられるというから驚きだ。さらに、愛知県小牧市で建設された「serendix50」のモデルハウスは、44時間30分で施工が完了。珠洲市での工事は、道路状況など交通インフラの影響を受け、最短時間での施工は実現できなかったものの、2週間程度で家が建った。通常、新築住宅は数カ月間要することを考えれば、圧倒的なスピードだ。

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施工の手順はこうだ。石川県外に設置している3Dプリンターで、設計データに基づいてパーツを“印刷”する。パーツを珠洲市まで輸送し、協力会社のサポートのもと、現地でパーツを組み立てる。その後、内装工事を行い、竣工。ちなみにパーツは専用の特殊なモルタルでできており、13個の壁パーツなど大小の部材を組み合わせる。建設時にパーツの内部空間にコンクリートを注入して構造部材としており、その厚さは30cm以上。やわらかい質感でもこもこしているように見えるが、触ると重厚感があり、外部環境からしっかりと守ってくれる安心感がある。さらに今回は新しい試みとして、基礎も3Dプリンターでつくったそうだ。

モルタルの積層痕(画像提供/セレンディクス社)

モルタルの積層痕(画像提供/セレンディクス社)

3Dプリンターを使用した基礎部分(画像提供/セレンディクス社)

3Dプリンターを使用した基礎部分(画像提供/セレンディクス社)

パーツの組み立ても比較的簡単。おもちゃのブロックを積み上げるようにしてつくり上げるため、プロの施工事業者であれば3Dプリンター住宅の知識や経験がなくても、施工可能だそうだ。工期も短いことから、人材不足が懸念されている工事の現場監督者を長期間にわたって拘束する必要もなく、つくり手側の課題もクリアできる。

ブロック状のパーツを組み上げていく(画像提供/セレンディクス社)

ブロック状のパーツを組み上げていく(画像提供/セレンディクス社)

気になるのは、建物の耐久性や快適性。能登地方は積雪地帯であり、断熱性能も住まいには欠かせない条件だ。「serendix50」は鉄筋コンクリート造。現在の建築基準法に準拠し、建築確認済証を取得した高い機能性を持たせている。さらに壁の厚みも30cm以上あるなど高い耐震性を備え、今回の震災で大きく被害を受けた旧耐震の家屋に比べると安心して住むことができる。防音性も長けており、例えば外で工事をしていても「serendix50」の建物内に入れば、ほとんど音が気にならない。断熱性能はというと、これも壁が魔法瓶のように二重構造になっているため、夏はヒンヤリ涼しく、冬は冷たい外気からしっかりと守ってくれる。日本よりも厳しいヨーロッパの断熱基準をクリアしているというのも信頼できるポイントだ。

「serendix50」のリビング・ダイニングルーム(画像提供/セレンディクス社)

「serendix50」のリビング・ダイニングルーム(画像提供/セレンディクス社)

富山湾が見渡せるベッドルーム。シングルベッドを2つ置ける広さ(画像提供/セレンディクス社)

富山湾が見渡せるベッドルーム。シングルベッドを2つ置ける広さ(画像提供/セレンディクス社)

独立したバス・トイレ・洗面所が完備(画像提供/セレンディクス社)

独立したバス・トイレ・洗面所が完備(画像提供/セレンディクス社)

この家の珠洲市での量産には、もう1~2年の開発期間が必要とのこと。今すぐの活用は難しいが、全国からの問い合わせは1万件を超えているそう(2024年9月時点)で、その半数以上が50代以上。多額の費用をかけて自宅を再建することにためらいはあっても、比較的安価であるため新しい住まいの選択肢として検討している人が多いのだろう。

3Dプリンター住宅が被災者の希望になるように

珠洲市に「serendix50」を建てたことについて、セレンディクス社のCo-founder(共同創業者)である飯田國大さんは、想いをこう語った。

「震災の被害を受けて、なぜ能登地方で住宅の再建が進んでいないかというと、それだけの理由があるんです。まずは、木材の価格が高騰しているということ。木造で新築となれば、数千万円の建築費が想定されます。それに加えて、主要な道路が寸断されたため資材の輸送が困難なこと。緊急の復旧工事が行われたりしましたが、移動には通常の倍以上の時間がかかってしまう。

こうした状況を受けて、施工前の段階から、珠洲市で住宅を建てるには苦労するだろうと覚悟していました。でも、『ありえない、できるはずがない』そう言われていた事を実現する。それが私たちの使命ですから、お声がけいただいたお施主様の蔵さんの想いを受け取り、着工へ踏み出しました」

セレンディクス社のCo-founder(共同創業者)飯田國大さん(画像提供/セレンディクス社)

セレンディクス社のCo-founder(共同創業者)飯田國大さん(画像提供/セレンディクス社)

「当初は48時間、つまり1週間程度の工期を目指していましたが、それが2週間に延びたのには理由があるんです。屋根のパーツを輸送している最中に、パーツが破損してしまって。まだ完全に復旧しきっていない道路ですので、段差による衝撃を受けてしまったようで。そのため、屋根はつくり直し。
ちなみに、破損したパーツは屋根に使うのではなく、ベンチに姿を変えて設置することにしました。今も建物の前に置いているので、ぜひ現地に行く機会があれば見ていただきたいです」

地元の人たちの反応はというと、期待の声が続々と寄せられているそう。

「皆さん、将来の不安が軽減したと言っておられますね。それまでは、家を建て直すのに数千万円かかるとされていたものが、3Dプリンターの家は1棟1000万円以下で済む。それに一時的な避難先として、コンテナハウスなどの仮設住宅は有効だと思いますが、長期的な住まいとしては考えづらいですよね。

私たちの役割は、被災して家を失った人たちにとっての生活再建の光となること。今すぐに、能登地方で量産するのは難しいのですが、もう数年すれば交通インフラも復旧して、よりスピーディーに、スムーズに、新しい住まいをご提供できる環境が構築できるはずです。だから、どうか希望を捨てないでほしい」

報道陣向けにお披露目した際の様子(画像提供/セレンディクス社)

報道陣向けにお披露目した際の様子(画像提供/セレンディクス社)

3Dプリンターで建てる家が、当たり前になったとしたら。それまで、さまざまな事情で住まいづくりを諦めていた人も、夢や未来がひろがるだろう。それが現実となる日は近づいてきているのかもしれない。

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